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 前回は管理職の方が、部下をマネジメントする際に改善して欲しい行動を、具体的な場面として切り出すことが大事だとお伝えしました。そうすることで、「覇気がない」といった全体的で抽象的な部下への不満が、「会議の場面での発言が少ない」といった具体的なものに変換することができたわけです。

 どの場面のどのような行動が問題なのかがわかることで、ようやくスタート地点に立つことができます。それでも、上司の自分としては、部下の行動について、知りたいことはたくさんあるでしょう。

 

 ・どうして、あんな消極的な行動しかできないのだろう

 ・ふだんどのような思いをもちながら働いているのだろう

 ・どうしたらやる気を出してくれるのだろう

 ・いまの働き方に満足しているのだろうか

 ・仕事ができているつもりなのだろうか

 ・部下が仕事を積極的にできるようになるために、自分はどうしたらいいのだろうか

 これらの疑問を解決するために、具体的に切り出した場面を分析していきます。

 

 分析の際にはコツがあります。それは、「問いの立て方」を工夫することです。今回は1つ目の「どうして、あんな消極的な行動しかできないのだろう」という問いについて解説します。

 ・どうして、あんな消極的な行動しかできないのだろう

 というとき、人はだいたい「Why(なぜ)」という言葉を使いながら、心の中で相手を責めています。「どうしてあの部下はあんな勤務態度なんだ。そんな態度で平気でいられるのが理解できない。もっと熱心に働くべきなのに」なんて思っていませんか。

 「Why(なぜ)」のかわりに、「How(どのように)」という言葉を使ったらどうなるでしょう。

 「Why(なぜ)」と理由を問いつめるのではなく、「How(どのように・どういう経緯で)」と、科学者のようにその行動が発生したメカニズムを解明していく態度であれば、中立的になりませんか。

 このような態度は、相手(部下)を萎縮させません。相手は「なぜ」と問いつめられるよりも、「どういう状況で、その行動が引き起こされたのだろうか」「その後もその行動が続くのには、それなりの理由があるのだろうね。一緒に考えてみない?」という態度の方が、受け入れやすいのです。

 これは子育ての場面でもご紹介したコツです。忙しい時に、牛乳を床にこぼしてしまった子どもに対して、「なんで牛乳をこぼすの!」と「Why(なぜ)」で叱るより、冷静になった後に子どもが座っていた場所、牛乳の置き場所、牛乳の残量、コップの高さなどを改めて振り返り、「How(どのように)」牛乳がこぼれてしまったのかを分析する方が、同じ失敗を繰り返す確率を下げるのです。

 ためしにこういう視点で分析してみましょう。

 「なるほど、牛乳パックに半分以上牛乳が残っているときには、あの子にはまだ重たすぎて、コップにつげないんだな」

 「牛乳パックを傾けるスピードが速すぎるんだ」

 「テレビをつけっぱなしにして食べていたので、よそ見して注いだんだ」

 と、いろんな発見が得られるのです。

 こうした分析ができると、ただ頭ごなしに「気を付けなさい!」と叱るよりも、効果的なのです。

 同様に、部下の行動が「積極的でない」場合に、まずはそれが「How(どのように)」起こっているかを観察します。

 会議中に部下が意見を言わないという場面。司会役のあなたは、会議の出席者全員に意見を求めましたが、部下は下を向いて無言になっているとします。

 「How(どのように)」部下は無言になってしまったのだろうか?

 心理的な分析より、まずは物理的なことから見てみましょう。そもそも質問が本人に届いているかどうか、「インプット」されているかをチェックします。これは本人にひとつずつ確認します。口調によっては、厳しい取り調べや嫌味のように受け取られる可能性もありますので、きき方には注意が必要です。

 以下のような点をチェックしてみましょう。

 ○そもそも質問が聞こえているか?(集中力や聴覚の問題)

 ○会議の板書が見えていたか?(視力の問題)

 ○寝てなかったか?

 ○質問を聞いていたか?

 ○自分に質問されていることがわかっているか?(知覚)

 ○質問の意味がわかっているか?(理解)

 

 これらの「インプット」の部分がクリアされているなら、もう少し踏み込んでいきます。「アウトプット」の部分についてもチェックしていきます。

 ○質問の答えがわかっているのか

 ○わかっているけど、間違っているかもしれないから発表しないのか

 ○わかっているけど、簡潔にまとめられないのか

 ○わかっているけど、周りの人の目を気にしているのか

 ○わかっているけど、発表しても意味がないと思っているのか

 ○そもそも質問に興味がないのか

 ○発表することに緊張しているのか

 などなど思いつく限り様々な仮説を立てながら分析してみましょう。しかし、「アウトプット」に関する分析は、本人に聞くだけでは分からないかもしれません。なぜなら、これらの問いを直接投げかけられても、本音では答えにくいからです。ふつうに考えれば、上司は自分の業績を評価する人ですよね。「答えがわからない」とか、「質問に興味がない」などと答えれば、自分には能力がなく、やる気がないと思われてしまう。なので、本人は正直には答えにくいのです。

 ですから、後半の「アウトプット」に関する質問は、一応本人にも聞いてみるけれど、参考資料にする、という程度でしょう。そこで、この後半部分をどのように分析していくかもお伝えしなければなりませんね。これは次回に続きます。

 このように、部下の行動を「How」の視点からみる理由の2つ目は、自分自身も冷静でいられるためです。情熱的に指導することも時には必要かもしれませんが、分析できる客観性も管理職には必要なのです。

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。