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 前回に引き続き、管理職が部下をうまくマネジメントするコツを行動分析の手法を用いてお伝えしています。今回は、会議で部下の積極的な発言を引き出すためのフォローについてです。

 

 こんな不満を部下に対してお持ちの管理職の方はいらっしゃいませんか?

 「すぐ仕事の手を抜こうとする。残業も嫌がるプライベート重視型。仕事にもう少しやる気を出してくれたらいいのに」

 「よかれと思って、口を出さずに仕事をまかせてみたのに全然進んでいない。どうなってるんだ」

 部下の行動を改善するためのポイントとして、これまでにお伝えしてきたのは、

 ①部下に対して改善して欲しい行動が表れる具体的な場面を切り出す

 ②その場面で部下の問題行動を引き起こしている物理的要因を洗い出す

 ③その要因が部下の行動を増やしているのか、減らしているのかを分析する

でした。

 さて、冒頭にご紹介したように、部下のタイプは様々です。仕事にやる気があって、褒めれば伸びるタイプなら上司は苦労しません。仕事はさておきアフター5が大事といった「プライベート重視型」や、無難にやり過ごすことができればOKという「省エネ型」のほか、競争心が強く褒められたい人、自分だけ特別扱いを望まない「協調性重視型」などなど。色々な部下がいれば、その行動を左右する要因や結果も様々ということです。

 たとえば、「競争心が強く褒められたい部下:Aさん」と「協調性重視型の部下:Bさん」がいたとしましょう。

 

 上司は会議で発言をした二人に対して、もっと発言を引き出そうと考えました。そして、「よくぞ発言してくれた。この『して欲しい行動』(会議での発言)の後に、『ご褒美』になるような結果があればいいんだな」と思い、会議の終了間際にこういいました。

 「今日は、新人のAくんもBくんもよくぞ発言してくれた。今後もこの会議では積極的に発言してほしい。何も発言せずに座っているだけでは、会議に出席していることにはならないぞ。みんなもAくん、Bくんを見習ってがんばってください」

 「競争心が強く褒められたい」Aさんは、皆の前で上司に褒められて、誇らしい気持ちでいっぱいでした。勇気を出して発言したことが認められてうれしくて、次の会議でもまた発言をしようと思いました。

一方で、「自分だけ特別扱いを望まない」Bさんは全く逆の反応でした。皆の前で上司に褒められると、他の同僚から嫉妬されるのではないかと心配になりました。同僚とは気楽な関係でいたいし、特別扱いなどされたくありません。戸惑って下をうつむいてしまいました。「ああ、発言なんかしなければよかった」と後悔しました。

 一連の流れをまとめるとこうなります。

 

 【行動】会議で発言

→【結果】上司に皆の前で褒められた(Aさんにとっては+) (Bさんにとっては-)

 部下がどのような結果を望んでいるかによって、上司の発言がどのように部下に左右するかはまったく違うのです。Bさんに会議で今後も多く発言してもらうには、会議の後にこっそり個別に褒めた方が効果的かもしれません。

 

 また、こんなこともありませんか?

「部下にある程度裁量を持たせた方が信頼感が生まれ、部下も責任感を持って仕事に励んでくれる」と予測して、上司は仕事の細部まで口出しをせず部下に任せました。しかし、部下は不安になってしまい、逆に仕事があまり進まなかった。

 上司が自分の価値や基準だけに基づいて「裁量権を持たせればいいんだ!」と思い込んでも、部下のタイプによっては、よい結果にはつながらないのです。むしろ、きめ細かくフォローしたり、最初のうちは一緒にやってみたり、チームで担当させて責任を分配したりする方がいいでしょう。

 

 【行動】(部下が)仕事をする 

→【結果】上司がいちいち口出ししない(-) 丁寧なフォロー(+)

 

 上司は、部下の行動を左右するものは何なのか、日ごろからよく会話をし、観察して把握しておく必要があります。この部下はどういうことに喜ぶのか、何に興味があるのか、といったことに対して、直感的に把握できる人もいるかもしれませんが、普通はなかなか難しいでしょう。そんなときにおすすめなのが、「論より証拠」作戦です。職場の飲み会や日頃の会話の中で、ちょっと試しに褒めてみることです。

 皆の前でちょっとしたことで褒めてみて、反応を見ます。気まずそうにしていないか、それとも満足そうにしているのか。チーム全体を褒めるとどうなるか。能力を褒めるのと努力を褒めるのはどちらがいいのか。実際に少しやってみれば反応がわかると思います。

 

 一方で、全く仕事に対するやる気を感じさせない部下もいるでしょう。「仕事は生活のため。やりがいなどそもそもない。仕事を増やさず、なるべく早く帰りたい」といった価値観の人もいるでしょう。そこで、「早く家に帰りたい」というニーズに注目して「会議で積極的に発言すれば早く会議は終わり、その分、他の仕事をする時間が作れる」と論理的に説明するといいかもしれません。

 もっとおすすめは、「生活のためとはいえ、できることならどんな仕事の仕方がしたい?」「どうせやるなら、どんな評価を受けたい?」「どんなふうに仲間とやっていきたい?」といった質問を日ごろから問いかけておくことです。

 「できることなら」「どうせやるなら」という前提がミソです。どんな人にも心の奥底で、あきらめつつも捨てきれない希望の端っこのようなものを持っていると仮定して問いかけるのです。

 「そうなんですよね。生活のためと割り切ってしまうのは、まだ早いですよね。実は私、こういうところに興味があって」とか「部活で味わったような、誰かと一生懸命努力して結果を出す感覚をまた味わいたいんですよね」と反応があり、その人が持っている希望のようなものに光を当てることができるかもしれません。

 また、こちらは意識していない行動が、結果的に部下の行動を左右している場合もあります。せっかく新人の部下が発言したものの、さらに他の参加者から有益な意見が出され、結果的にその部下の意見は採用されないことは多々あるでしょう。上司からすると、一連の流れで「仕方ない」と思うでしょう。しかし、部下からみれば、「発言したけど、褒められも叱られもせずスルーされた。発言しても特によいことが起こるわけではない」と認識されてしまうのです。

 

 【行動】部下が)会議で発言する

→【結果】叱責したり褒めたりしていないが、結果的に発言は採用されなかった(-)

 

 そうすると、次から部下は「どうせ俺が発言しても、役に立たないし」と考え、発言量を減らしていくでしょう。このように、上司が意図的にマイナスになるような結果を想定していなかったとしても、「結果的に」そうなってしまうことはよくあります。一般的に、新人の部下の発言は、まだ知識も経験も浅く、会議の中でも重要な役割を果たすことは少ないでしょう。結果的にスルーされてしまう確率は極めて高いのです。よほど上司が意識的にこの部下の発言のあとに何かプラスになるような結果を用意しておかなければならないのです。

いかがでしたか?「上司って大変!そこまでしてあげないとだめなのか?」なんて声が聞こえてきそうですが。次回も続きます。

 

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・管理職のマネジメント入門>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

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