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 前回に引き続き、管理職が部下をうまくマネジメントするためのコツを、行動分析の手法を用いてお伝えします。

 これまでにお伝えしてきたポイントは、①改善して欲しい行動が現れる具体的な場面を切り出す、②その行動を引き起こしている物理的な要因を洗い出す、③その要因が部下の行動を増やしているのか減らしているのかを分析する、でした。さらに、よかれと思って褒めても、部下の性格によってはそれが「ご褒美」にも「罰」にもなるので、よく観察することが大事ですよ、というお話をしました。

 今回は、やる気があるときには何回か行動できているにもかかわらず、それを"続けてやってくれない"という場合の対処法をお伝えいたします。

 

 突然ですが、みなさま、歯医者に行くのは好きですか? 

 私は昔から嫌いです。できる限り行かないようにしています。どうしても歯が痛むなどやむを得ない状況になって、やっと行きます。そして、治療を終えると毎回こう思います。

 「もうこんな痛みを味わいたくない。よし、今度からはしっかり歯磨きをして、定期的に歯石を取りにいこう」

 そうして、以前よりもかなり念入りに歯磨きをするようになり、定期的に歯医者を訪れようという気持ちにはなるんですよね。でも、1カ月、2カ月と時が過ぎるうちに、その熱い思いが減っていきます。

 「まあ、いいかあ。痛くないし。忙しいし」

 そうして、だんだんと歯磨きも元々の状態に戻りますし、歯医者の予約を入れなくなります。こんな経験ありませんか?

 そう、まさにこれが、"部下が続けて行動しない"例なのです。

 歯医者に久しぶりに行った直後には、次のような学習が成立しています。

   行動     →     結果

 念入りに歯を磨く → また痛い思いをせずにすむ(+)

 これで、数週間は糸ようじを使ったり、マウスウォッシュまで使ったりして、念入りな歯磨きをするという行動が身に付いたとします。でも、「これで安心!一生、念入りな歯磨きを続けるぞ」 と思えますか? 私たち人間はそんなに単純ではないので、困ったものなのです。

 行動が短期間できて、能力としては身に付いても、それが続くかどうかは別の問題として考えます。この、「学んだ行動がその後も続くこと」を、行動分析学の言葉では、「維持」とよびます。行動が維持されなければ、部下のマネジメントは一時的には効果を上げますが、結局また元通りというわけです。

 

 それでは、どうすればよいのでしょうか。

 まずは歯磨きを例に、行動を維持できない原因を探ってみましょう。念入りな歯磨きをするという行動を身につけた場面を、もう一度注意深くみてみると、いろんな結果が内在していました。

   行動      →     結果

 念入りに歯を磨く → また痛い思いをせずにすむ(+)

           → 口の中がすっきり爽快感(+)

           → ちゃんとやれたという達成感(+)

           → 時間がかかる(-)

           → めんどうくさい(-)

 念入りに歯を磨くという行動が数週間維持されていたときには、おそらくさまざまな結果を総じて、プラスの結果となっていたのでしょう。

 つまり、念入りな歯磨きは時間がかかって(-)めんどうくさい(-)けれど、それよりも、また痛い思いをせずに済むし(+)、口の中も確かにすっきりする(+)、ちゃんとやれているという達成感もある(+)というわけです。

 しかし、人はのど元過ぎれば熱さを忘れるもの。そもそも「また痛い思いをせずに済む(+)」という結果は実際には体験していないので、結果としての効力が薄いのです。さらに、歯医者で痛かった記憶が、時間の経過とともに薄れてきます。すると、痛い思いをせずに済む(だろう…)という結果は、もっと効力を失います。

 このように、時間的に離れて現れる結果は、行動を維持しないのです。

 行動分析学の分野では、ある行動を身に付けさせるときには、結果は「60秒以内」にあることが条件だとされています。60秒以内に歯が痛くなれば、だれだって急いで歯磨きしますよね。60秒以内に結果が出ないので、なかなか行動は維持されず、結果のシーソーが傾きだすのです。

 

 では、どうすればよいのか。答えは、行動の60秒以内に、何か素晴らしい結果を引き起こせばよいのです。

 思い出してみてください。小学生の頃、歯磨き強化月間などで、歯磨きをしたらシールをはったり色塗りをしたりして、続けていくと、一つの絵になったり花丸がもらえたりしませんでしたか?あれには大きなヒントが隠されています。

 60秒以内にシールや色塗りといった「視覚化」されたもので成果を確認できるため、よい結果につながっているのです。

 「大人にそんな子どもだましの方法が効くのか?」 といわれそうですね。

 でも、視覚化は案外力を持っています。

 私はある時期、毎日Skype英会話レッスンを継続しなければならない状況にありました。TOEICの受験が2カ月後に迫っていたのです。その為に、何かよい方法はないかと考えました。ふと、だまされたと思って、レッスンができた日には、スケジュール帳に小さなキラっとしたシールをつけることにしました。たったそれだけです。

 シールはレッスン終了後すぐに貼るようにしました。やがて、スケジュール帳を開くたびにシールが並んでキラキラするのが楽しくなりました。達成感を味わえましたし、もっと並べたいと思えるようになりました。やったことが目に見えるって思った以上の効果です。

 

 部下のマネジメントについての例では、営業販売実績を職場の壁にグラフとして掲示するなどの方法が実際に用いられています。パンを店頭販売する販売員なら、声かけの仕方などを指導して、その日の売り上げを結果として提示する。そうすれば、結果が時間的にすぐに視覚化されるのでよいかもしれません。

 家を売るなど、結果が出るまでに比較的時間がかかる仕事の場合は、たとえば、アポイントの数とか、訪問の数とか、案内の数とか、家を売る前に踏む段階ごとに細かく到達点を決めて、視覚化するとよいでしょう。

 

 ある小学校の先生が、クラスの子ども達に宿題をしてくるように仕向けたよい例があります。クラス全員のうち、何人が宿題をしてきたかを、毎日折れ線グラフで教室に掲示したというのです。子ども達は毎日毎日そのグラフを見ます。介入はそれだけなのですが、このクラスは宿題をしてくる子どもの割合が劇的に増えたそうです。ここには、視覚化だけでなく、「このクラスの一員としてみんなでがんばるぞ!」という意識も働いていたといえます。これを専門的には集団随伴性とよび、会社など集団全体の行動を変えて行くときや、集団の力を利用していくときに活用できる概念です。

 

 今回は、部下の行動を維持するために、結果をすぐに「視覚化」する工夫についてお伝えしました。シンプルですし、子どもっぽいと思われる方も多いかもしれませんが、ぜひまずはご自分に取り入れてみてください。

 

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・管理職のマネジメント入門>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。