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 脱EUで揺れている英国ですが、食の世界では脱・砂糖を進めようとしています。目標は、2020年までに子どもの砂糖摂取量を20%減らすこと。今年3月には、ケーキ、ビスケット、アイスクリーム、ヨーグルトなど、子どもがよく食べ、砂糖を多く含む9種類の食品について、砂糖削減のための企業向けガイドラインを発表しました(※1=本文末にURL)。 2018年4月からは、砂糖を多く含む清涼飲料水を生産・輸入する企業に課税する通称「砂糖税」を導入する予定です(※2)。100㍉リットルあたり5グラム以上を含む商品が対象で、8グラム以上だとさらに税率が高くなります。

 

 こうした政策の背景には、肥満の問題があります。英国は先進国の中でも肥満率が高い国の一つで、しかも年々悪化しています。このままでは2050年には6~10歳の男の子の35%以上、女の子は20%以上が肥満になると予測されているのです(※3)。

 英国だけではありません。国際的にも、肥満との関係をめぐり、砂糖の摂りすぎに厳しい目が注がれるようになってきました。

 世界保健機関(WHO)は昨秋、加糖飲料に課税し消費を減少させるよう呼びかけました(※4)。課税によって加糖飲料の小売価格が少なくとも20%以上あがれば、消費の減少につながるとしています。プレスリリースでWHOの担当者は「肥満、糖尿病に苦しむ人が世界的に増えており、加糖飲料を含め、フリーシュガー(遊離糖類)の摂取はこの主な要因の一つだ」と述べています。

 

 「フリーシュガー」とは、ざっくり言うと、加工食品や料理で加える甘みのこと。加工食品の製造過程や調理で加える糖類と、ハチミツやシロップ、果汁、濃縮果汁に含まれる糖類を指します。野菜や果物、牛乳に自然に含まれている糖類は入っていません。

 2015年にWHOが発表したガイドライン(※5)では、こうしたフリーシュガーの1日摂取量を、大人も子どもも総エネルギー摂取量の10%未満に抑えるよう強く推奨しており、5%未満にするとさらに健康効果があると勧めています。5%は、およそ砂糖25グラムにあたるそうです。

 

 WHOによると、フリーシュガーの摂取量は国や年齢などで違っており、欧州ではハンガリーやノルウェーでは成人が7~8%、スペインや英国は16~17%。子どもはもっと高く、デンマーク、スロベニア、スウェーデンの12%から、25%近いポルトガルまであるとのこと。

 英国のコカコーラ社のサイトを見ると、コカコーラクラシックの330ミリリットル1缶には35グラムの砂糖が入っています(※6)。1本で5%は軽くオーバーする量です。なお、サイトには、Reducing Sugar(砂糖を減らす)というページがあり、砂糖削減の取り組みや砂糖が少ない物を選びたい人へのガイドなどが掲載されていて、この問題への社会的関心の高さを感じます。

 しかし、そもそも肥満は、食べた量より消費した量が少ないから生じること。ご飯でもパンでも肉でも、食べ過ぎが続いていけば太るはず。どうして砂糖(糖類)がことさら問題視されるの?

 国立健康・栄養研究所の笠岡(坪山)宜代・食事摂取基準研究室長に質問してみました。

 

 「まず、肥満の問題から説明しましょう」と笠岡さんは話し始めました。先進国のみならず、途上国でも肥満が深刻です。こうした国々では、一方でまだ栄養が足りていない人々がいながらも肥満に悩む人が増えているという二極化が進んでいます。このためWHOは肥満を全世界的に取り組む課題と位置づけました。

 確かに、WHOのリリース(※7)を読むと、2014年時点で世界の18歳以上の成人のうち、3人に1人(39%)は体重過多(BMI25以上)です。肥満(BMI30以上)の人は男性の11%、女性は15%に達しており、1980年の2倍に達しています。また2015年時点で体重過多あるいは肥満になっている5歳以下の子どもが4200万人いると推計され、その48%はアジアの子、25%はアフリカの子どもだとあります。

 

 笠岡さんは話を続けます。「栄養素のうち、エネルギー源となるのは炭水化物、脂質、たんぱく質の3種類。最もエネルギーが高い脂質(1グラム9キロカロリー)については、WHO、各国とも摂取基準を決めています。一方、炭水化物に属する砂糖はこれまであまり触れられてきませんでしたが、近年、清涼飲料水やそこに入っている糖類と肥満との関係を指摘する疫学の研究結果などが出てきました。砂糖に関する疫学調査が進んで、ガイドラインも作られるようになったのです」

 では日本人はどれくらいフリーシュガーをとっているのか?「実は、統計データがないのです」と笠岡さん。日本人が何をどれくらい食べているかを調べている国民健康栄養調査には、砂糖の項目がありません。この調査では、食べた食品を計量しそこに含まれる栄養素について食品成分表を基に算出していきます。しかしこの食品成分表に、砂糖の含有量が記載されている食品は限られており、摂取量が正確にはわからないのだそうです。なんということ! どれくらい摂っているかがわからなければ、議論が始まりません・・・。

 

 とほほ、という顔をしている私に、「おおまかに類推できるデータなら」として笠岡さんが示したのは、「食糧需給表」。食糧需給の動向をみるために農林水産省がまとめている統計で、食品を作る側から、どれだけの食品が消費者に行き渡っているかを調べたものです(※8)。2015年度は国民1人1日あたり砂糖類で193.6キロカロリーを供給しています。計算上、砂糖48.4グラム。

 日本人の成人の1日必要エネルギー摂取量を2200キロカロリーとすると、10%で220キロカロリー(砂糖55グラム)、5%で110キロカロリー(砂糖27.5グラム)。なので、10%のハードルはクリアしており、まあ良し、というところでしょうか。

 笠岡さんは「平均的には、そうですね」と言います。ただ、人によってばらつきが大きいのも、食事の実際です。個別にみれば、砂糖を摂りすぎている人もいるわけです。気になる年齢層として、肥満が多い働き盛りの男性と、大人より体が小さく成長期の子どもを笠岡さんは挙げました。

 それにしても5%というのは達成が難しそうです。「高い目標を掲げたのは、WHOの本気度を示していると言えるのではないでしょうか。企業や社会に、この問題を強く訴えかけるための」と笠岡さんは話しました。

 

 取材をして、この問題は、砂糖という物質が他の食品に比べて体に悪いという意味ではなく、砂糖を多く摂ってしまう食事スタイルが肥満に結びつきやすいということではないかと考えました。「甘い物は別腹」なんて言いますが、のどが渇いて手にするジュースやサイダー、間食や食後のスイーツ。その分のカロリー(エネルギー)を食事で調整するのは難しく結局食べ過ぎになりやすいし、調整できたとしても他の栄養素を考慮に入れると食事のバランスを崩しやすい。毎日続けていると肥満のリスクは高そうです。

 なお、清涼飲料水に入っている砂糖(糖類)を知るには、パッケージにある栄養成分表示が参考になります。ここに炭水化物の含有量が書かれています。炭水化物には食物繊維なども含まれますが、多くの清涼飲料水の場合、この数値が砂糖にあたります。100ミリリットルあたりで表示している商品も多いので、500ミリリットルのペットボトルなら5倍にしてください。

 

◇リンク集

  ※1 https://www.gov.uk/government/news/guidelines-on-reducing-sugar-in-food-published-for-industry別ウインドウで開きます

  ※2 https://www.gov.uk/government/publications/soft-drinks-industry-levy/soft-drinks-industry-levy別ウインドウで開きます

  ※3 https://www.gov.uk/government/news/soft-drinks-industry-levy-12-things-you-should-know別ウインドウで開きます

  ※4 http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2016/curtail-sugary-drinks/en/別ウインドウで開きます

  ※5 http://www.japan-who.or.jp/event/2015/AUTO_UPDATE/1503-2.html別ウインドウで開きます

  ※6 http://www.coca-cola.co.uk/faq/how-much-sugar-is-in-coca-cola別ウインドウで開きます

  ※7 http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2015/sugar-guideline/en/別ウインドウで開きます

  ※8 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)