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 糖尿病では、全身のさまざまな部位の感染症にかかりやすくなります。

 今回は、糖尿病と感染症について解説します。

 

1. 糖尿病で感染症になりやすい理由

 糖尿病患者は、感染症にかかりやすい状態(「易感染性」といいます)になります、その主な理由は以下の4つです。

(1)白血球(好中球)の機能低下

 白血球の一種である好中球は、体内に入り込んだウイルスや細菌を食べる働きがあります。しかし、高血糖時はこの機能が低下してしまいます。

通常、血糖値が250mg/dl以上になると好中球の働きが鈍くなります。

(2)免疫反応の低下

 一度感染したことのある病原体には「抗体」が作られるため、次に体内に侵入しても感染しづらくなります。これを「免疫反応」といいます。

 高血糖時は、この免疫反応が弱くなることが分かっています。

(3)血流の悪化

 高血糖になると毛細血管の血流が悪化します。これにより、身体中に十分な酸素や栄養を届けられず、細胞の働きが低下し、好中球が感染部位に到達しにくくなります。

 さらに内臓の血流の悪化により、肺炎、胆嚢炎(たんのうえん)、膀胱炎(ぼうこうえん)、腎盂腎炎(じんうじんえん)などの感染症にかかりやすくなります。

(4)神経障害

 糖尿病に特有な合併症の一つに神経障害(しめじの「し」)があります。

 神経障害では痛みを感じる神経が障害されますので、症状に気づきにくく、感染の発見を遅らせます。

 神経障害は足から始まりますので、特に足の感染に注意することが重要になります。

 

2. 糖尿病で重要な感染症

1) 足の感染症

 糖尿病患者は、神経障害で痛みを感じる感覚が鈍くなっていることや、動脈硬化によって血流が悪くなっていることなどから、靴ずれ・ケガ・火傷(やけど)などが悪化して、足の潰瘍(かいよう)になり、さらには足の組織が死んでしまう壊疽(えそ)という重大な状態に陥りやすいのです。

 日本では、足の壊疽によって年間数千人の糖尿病患者が足を切断しています。足切断原因の第1位が糖尿病です。

 

 

 足の感染は予防と早期発見が重要です。

 血糖値を良好にコントロールすると共に、足の清潔を保ち、足の点検を毎日きちんとすること、靴ずれや深爪に気をつけること、足のキズ・うおのめ・たこ・水虫を放置したり自己流の処置をしたりしないことが重要です。 

 

2) 呼吸器感染症

 糖尿病患者は肺炎にかかりやすく、加齢と共にそのリスクは上昇します。糖尿病患者では、肺炎球菌、クレブシエラ、結核などにかかるリスクが高くなります。

 したがって、肺炎が疑われる場合は、必ず肺結核か否かを明らかにすることが重要です。

 結核は、糖尿病患者ではつねに念頭におく必要がある重要な感染症です。

 2007年から2010年までのわが国の糖尿病合併結核罹患患者の66.9%が高齢者でした。逆に、結核患者の15.3%は糖尿病を合併していました。

 糖尿病患者では、活動性結核(咳などの症状があり治療が必要な状態)や難治性の結核になりやすく、死亡率も高くなります。

 糖尿病を合併した結核患者の死亡率は糖尿病非合併例の6倍以上という報告があります。

 

3) 尿路感染症

 糖尿病患者は、腎臓の感染症である急性腎盂腎炎に4~5倍かかりやすくなります、特に重症または治療抵抗性の急性腎盂腎炎が多く、死亡率も約5倍高くなります。原因菌でもっとも多いのは大腸菌です。

 なお、無症候性細菌尿(尿に細菌はいますが、症状が無い状態)も多いのですが、抗菌薬治療では良くならないため、治療せずにそのまま経過をみることになります。

 

3. 感染症時の血糖コントロール

 糖尿病患者が感染症になると、通常は高血糖になります。さらに脱水も伴うと著しい高血糖になり、生命にかかわる「高浸透圧高血糖症候群」をきたす危険性があります。

 一方、重症の敗血症では低血糖になることもあります。

 さらに感染症になると急に食欲不振となり、血糖コントロールが不安定となりやすいのです。

 高血糖も低血糖も予後が悪く、また血糖値の変動幅が大きいほうが、敗血症の死亡率を高めるという報告もあります。

 このような重症患者の治療は、入院をしてインスリンを24時間持続的に静脈注射して血糖値をコントロールします。血糖値は、100~200mg/dl位を目標にします。

 

4. 糖尿病患者の感染防止策

 感染防止策としては、通常の手洗い、うがいの励行以外に、ワクチン接種も重要です。

 糖尿病患者では、インフルエンザ・ワクチンの接種が勧められます。台湾の研究では、インフルエンザ・ワクチンを摂取した高齢糖尿病患者で、有意に入院の頻度を低下させました。

 また、高齢糖尿病患者では肺炎球菌ワクチンも接種すべきです。長期療養型の病院に入院した患者の追跡調査では、肺炎球菌ワクチン接種が死亡率を減少させたという報告があります。

 

 次回からは治療編になります。最初は、糖尿病治療でもっとも重要な生活療法(食事療法と運動療法)のポイントについて解説します。

 

<アピタル:よくわかる糖尿病の話・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tounyou/(アピタル・岩岡秀明)

アピタル・岩岡秀明

アピタル・岩岡秀明(いわおか・ひであき) 船橋市立医療センター代謝内科部長

船橋市立医療センター代謝内科部長、千葉大学医学部臨床教授。1956年生まれ。1981年千葉大学医学部卒。日本糖尿病学会学術評議員、専門医、指導医。日本内科学会総合内科専門医、指導医。主な編著書「ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3」(中外医学社)、「糖尿病コンサルトの掟」(金原出版)など。