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 2006年6月に参議院で可決成立したがん対策基本法。この年の5月に本会議でがんを患っていることを告白した故・山本孝史参議院議員が成立に尽力しました。山本さんは07年12月に58歳で亡くなりました。基本法の施行から10年。夫の遺志を継いで活動を続ける妻ゆきさん(66)にがん対策への思いを聞きました。 (聞き手=南宏美)

「命を守る」夫の遺志つぎ10年

 Q 10年を振り返って今、どう感じていますか。

 A 夫は05年12月に胸腺がんのステージ4と診断されました。07年4月に基本法ができたことを本当に喜んでいました。がん対策推進基本計画がどのように実行され、がん対策がどう向上していくかを見届けたかったと思います。

 夫は「命を守るのが政治家の仕事」という使命感で法律を作っていて、「がんでなければ、もっともっと仕事ができるのに」とすごく悔しがっていました。私は夫の無念さ、悔しさ、思いを背負って、この10年間活動してきました。もともと私自身は、夫を看護していた時は時間もなくて、がん対策について何もわかっていませんでした。でも夫の死後、「いのちの政治家」としての原点や歩みを本「兄のランドセル」にまとめようと、夫が残した資料を読み、夫が願ったがん医療のことがわかるようになりました。今は患者会の活動をし、大阪府のがん対策推進委員会がん登録等部会の委員も務めています。がん登録は、胸腺がんのように希少がんの患者にとっては一条の光となる期待が高いので、委員になりたいと考えました。

 

医療者中心から患者中心の医療へ

 Q この10年、がん対策で進んだと感じる点は。

 A 国や都道府県が基本計画を作り、どこでどういう治療が行われているかなど、がん対策が見えるようになったことは大きな意味があります。以前は地域格差や、医師による知識の差が大きかったですが、今はだいたいどこに住んでいても、標準治療が受けられるようになり、早期がんの治療成績が上がってきました。

 医療者の意識が変わった点も大きいと思います。ある総合病院の院長は、「基本法ができるまでは医療者中心の医療をしていたが、基本法ができて患者中心の医療が提供されるようになった」と話してくれました。

 患者も強くなりました。医師に質問したり、セカンドオピニオンを受けたりすることも珍しくなくなりました。自分のがんを語る患者が増えたことも大きな進歩です。以前は、がんになると人生が終わったかのようにひっそりと生きる人も多かったと思いますが、今は生き生きと自分の思いを語る患者が増えています。自ら発信することで、社会が変わると知っているからでしょう。

 

治らないがん患者の受け皿が課題

 Q 対策が進んでいないと感じる点は。

 A がん登録については、基本法の付帯決議で「検討を行い、所要の措置を講ずる」と明記されましたが、全国がん登録が始まったのは、2016年1月。開始までに10年かかりました。がんの実態がわからなければ、対策は進みません。希少がんも、治療成績や生存率がわからないためか、対策が進みませんでした。ようやくシステムができたのでしっかりとデータを出して対策に生かしてほしいです。

 

 Q がん対策への注文は。

 A 治らないと言われたがん患者への対応が気にかかっています。早期がんは治せるようになってきていますが、進行性や難治性、希少、転移がんでは標準治療が終わった後、一人ひとりに寄り添った治療がされているのでしょうか。以前は「がん難民」と呼ばれ、さまようしかありませんでしたが、今はどうなっているのでしょうか。緩和ケア病棟も在宅医療の受け皿も不足しています。治らないと言われたがん患者が尊厳を持って生きられる社会にしなければなりません。

 夫は「理想のがん医療は、生きたい患者と、その思いに寄り添う医師が出会った時に生まれる」と話していました。患者は医師から見放されることが一番怖いんです。寄り添ってくれる医師と出会い、理想の医療、すなわち納得できる医療を受けられる患者が増えるようになってほしい。

    ◇

 6月11日には東京・渋谷で朗読劇「兄のランドセル いのちの政治家山本孝史物語」が上演されます。山本ゆきさんの著書をもとにした作品です。S席3千円(完売)、A席2千円、B席千円。チケットの申し込みや問い合わせは、主催の「いのちのフォーラム実行委員会」(電話03・3466・1558、メールinfo@my-cancer.net)。

 

<やまもと・ゆき>

 1951年、秋田県生まれ。82年に故・山本孝史参院議員と結婚。夫の政治家としての足跡をたどった「兄のランドセル」を2010年に出版。「胸腺腫・胸腺がん患者会ふたつば」共同代表。

 

<アピタル:ニュース・フォーカス・アピタルがんインタビュー>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/