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 今回は、内服薬治療について解説します。糖尿病の治療の基本は生活療法(食事療法と運動療法)ですが、血糖コントロールが改善しない場合に、薬による治療を始めます。

1) 糖尿病治療の目標

 糖尿病治療の目標は、これまでに解説してきましたさまざまな合併症・併発症を防ぎ、「健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保すること」です。

 糖尿病を良好にコントロールするためには、以下の項目が重要です。

 

 1.血糖コントロール 

    原則としてHbA1c 7.0%未満(HbA1cは過去1~2カ月間の平均血糖値を表します)

    ※ただし、年齢・余病・合併症の有無・サポート体制などにより、この目標値は個別に設定します。

 2.血圧コントロール 

    130/80 mmHg未満

 3.脂質コントロール  

    LDLコレステロール(悪玉) 120 mg/dL未満

    HDLコレステロール(善玉)  40 mg/dL以上

    中性脂肪  150 mg/dL未満

 4.禁煙

 5.肥満の是正 

    BMI(Body Mass Index:体格指数、{体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)}) 25未満 

 

 糖尿病の治療では、まず生活療法でこれらの目標達成を目指しますが、血糖コントロールがうまくいかない場合には、薬による治療を始めます。インスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌を促したり、インスリンの働きを良くしたり、血液中に糖が増えすぎないように促すのが、薬物治療の目的です。

 

2) 内服薬選択のポイント

 糖尿病の治療薬には、注射薬のインスリンと内服薬があります。外部からインスリンそのものを投与するインスリン療法は、1型糖尿病では全例に必須ですし、2型糖尿病でも著しい高血糖時や腎不全・手術前後・感染症・妊娠などでは必要となります。しかし、これらの場合以外の2型糖尿病では、まず内服薬が使用されます。

 2型糖尿病では、原則として2~3カ月間の生活療法によっても血糖コントロールが改善しない場合に、内服薬を開始します。ただし、高血糖が著しい場合や、早く高血糖を改善する必要がある際には、生活療法と同時に内服薬を開始することもあります。

 表1に示しますように、内服薬は現在、作用の仕組みが5系統で、合計7種類もあります。

 薬の選択で重要なことは、①低血糖をきたさないこと、②体重を増やさないこと、③副作用が少ないこと、④心血管病(心臓病、脳卒中)を減らすエビデンス(科学的根拠)があること、⑤なるべく安価なことの5つです。これらを満たす薬から飲みはじめます。

 

 

 世界的にも日本でも、まず初めに飲み始める薬(第1選択薬)はビグアナイド薬のメトホルミンという薬です。

 メトホルミンは、肝臓でのブドウ糖産生を抑えることにより血糖値を改善します。

 第1選択薬となる理由は、心血管病を減らすエビデンスがあること、禁忌(悪影響を及ぼすので使ってはいけないケース)にさえ使用しなければ安全性が高い薬であること、単独では低血糖をきたさないこと、体重を増やさないこと、安価なこと、がんの抑制効果も期待されること、です。

 ただし、80歳以上の高齢者では使用しないほうが安全ですし、腎不全・肝不全・心不全・感染症・手術時は使えません。

 

 メトホルミンが使えない場合、次にどの薬を使うか(第2選択薬)はまだ統一の見解はありませんが、DPP-4阻害薬が使用される場合が多いでしょう。この薬は、腸から分泌されるインクレチンというホルモンの分解を防ぐことにより、その量を増やします。インクレチンは、血糖値の上昇に応じてインスリン分泌を促進することにより血糖値を低下させるホルモンです。また同時に血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンの分泌を減らします。

 この薬は、単独では低血糖をきたさないこと、体重を増やさないこと、重大な副作用がないこと、1日1回または1週間に1回の内服でよいこと、が特徴です。また、高齢者や腎不全・肝硬変・心不全でも使用可能です。

 ただし、心血管病を減らすエビデンスが確定していないこと、高価なことから第1選択薬にはなっていません。

 

 スルホニル尿素薬(SU薬)は、膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌を促進することによって血糖値を低下させる薬です。

 かつては一番使用されてきた薬で、現在でもまだ多く使用されていますが、血糖値が高くない場合でも血糖値を下げてしまうため、低血糖の危険性があります。また、体重増加をきたすこと、心血管病を減らすエビデンスがないこと、などから少なくとも第1選択薬としては使わない薬となってきています。

 SU薬は、メトホルミンやDPP-4阻害薬などと併用して、少量を使用します。

 

 最近では、3年前に発売が開始されたSGLT2阻害薬という新薬が注目されています。

 この薬は腎臓に作用して、ブドウ糖を血液中に再吸収する働きを阻害して、尿の中にブドウ糖を排泄(はいせつ)することで血糖値を下げる、まったく新しい働き方をする薬です。

 この薬は、血糖値を下げるだけでなく、体重減少、血圧低下、中性脂肪の低下もありますので、肥満している中年までの2型糖尿病の人に適しています。

 ただし、尿量の増加による脱水には注意が必要で、この薬の内服中は、ふだんよりも500㍉リットル~1リットルくらい多く、水かお茶を飲む必要があります。また、尿路感染・性器感染にも注意が必要です。また、新薬ですからエビデンスが不十分ですので、第1選択薬にはなりません。

 

 1剤で効果が不十分な場合は2剤目を併用しますが、アメリカ糖尿病協会の診療ガイドラインでは併用は原則として3剤までとし、3剤で効果が不十分な場合は、注射によるインスリン療法の併用または切り替えを検討します。

 5剤、6剤と薬を増やしているケースも見受けられますが、もし不安な場合は糖尿病専門医に相談してください。

 内服薬治療中でも、生活療法(食事療法と運動療法)の継続が重要なことは言うまでもありません。内服薬だけで良好な糖尿病コントロールを保つことはできません。必ず生活療法も継続してください。

 反対に、いったん薬を飲み始めても、生活習慣の改善が見られ、血糖コントロールがうまくできるようになれば、薬を減らしたり、やめたりすることも可能です。

 

 次回は、インスリン注射と、最近注目されている新しい注射薬(GLP-1受容体作動薬)について解説します。

 

<アピタル:よくわかる糖尿病の話・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tounyou/(アピタル・岩岡秀明)

アピタル・岩岡秀明

アピタル・岩岡秀明(いわおか・ひであき) 船橋市立医療センター代謝内科部長

船橋市立医療センター代謝内科部長、千葉大学医学部臨床教授。1956年生まれ。1981年千葉大学医学部卒。日本糖尿病学会学術評議員、専門医、指導医。日本内科学会総合内科専門医、指導医。主な編著書「ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3」(中外医学社)、「糖尿病コンサルトの掟」(金原出版)など。