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がんといま

 海外で承認されている薬を国内の患者が使うまでに時間がかかる「ドラッグラグ」は、肺がんや大腸がんなどの治療を中心に、この10年で改善されてきた。だが患者が少ない希少がんでは、解消されていないものもある。薬が効く人をどう見分けるのか、手法の確立という新しい課題もでてきた。

 

治験探しては参加 「次の薬」すがる思いで

 「もう駄目かと思ったら、次の薬が出て新たに治療を受ける。そんな繰り返しでした。ずっと薬に助けられてきました」

 熊本市内に住む会社員岡悦郎さん(54)は1999年に直腸に悪性腫瘍(しゅよう)が見つかり、手術で切除した。2003年に再発。消化管間質腫瘍「GIST(ジスト)」と診断された。ほとんどが消化管の壁の下の筋肉層、固有筋層に生じる、10万人に2、3人とされる希少がんだ。

 

 岡さんは、承認薬のほかに新しい薬の承認に向けた臨床試験(治験)を探して治療を受けてきた。抗がん剤を使ううちにがんに耐性ができて効かなくなる問題から、これまでに使った薬は5種類。以前に使った抗がん剤の再使用を含めると、治療回数は7回を数えるが、岡さんは活動的な日々を送る。趣味の自転車で通勤したり山登りをしたり。週に約200キロを走る。

 GIST患者向けの抗がん剤は現在、3種。03年に「グリベック」(一般名イマニチブ)、08年に「スーテント」(同スニチニブ)、13年に「スチバーガ」(同レゴラフェニブ)が承認を受けた。

 岡さんは「過去の臨床試験に参加した患者さんがいたからこそ、薬が承認され恩恵を受けられました。自分も積極的に臨床試験に参加していきます」と話す。

 GIST患者でつくるNPO法人「ジスターズ」(西舘澄人理事長)は、スーテントの早期承認を求めて署名活動を展開。07年には13万人の署名を厚生労働省に提出した。

 西舘理事長は「最初のスーテントでは、署名を集めて早期承認を求める活動が主だったが、次のスチバーガでは副作用対策の充実を国や企業に求めるなど、承認薬が増えるにつれて、患者会側の要求も多様化してきた」という。

 

対応・評価に難しさ 少ない患者、集まらぬデータ

 海外で使われている治療薬(ドラッグ)が日本では使えないといった時間差(ラグ)が生じる状態は、「ドラッグラグ」と呼ばれる。

 対策は、10年前にがん対策推進基本計画が策定されたころから加速した。ラグの要因は、海外と比べて承認申請に向けた準備に時間がかかる申請ラグや、承認を得るための審査に時間がかかる審査ラグがあげられる。厚労省研究班の調査によると、12年度に32・9カ月だった申請ラグは13年度に5・7カ月に、審査ラグは1・6カ月がゼロになったという。

 この問題に詳しい国立がん研究センター中央病院(東京)の藤原康弘副院長は「臨床試験を実施する体制が整い、医療機関側が慣れたこともあってラグは短縮した。中には海外よりも臨床試験が短い例も出ている。5大がん(大腸、胃、肺、肝臓、乳)については、ドラッグラグはほぼ解消されたと言って良いだろう」と話す。

 今後の課題の一つは、希少がんへの対応だ。

 同センター希少がんセンターの川井章センター長によると、希少がんは肉腫や悪性脳腫瘍、皮膚がんの一種の悪性黒色腫(メラノーマ)など約190種類。GISTのように比較的うまくいくケースもあるが、ほとんどの場合、患者数が少ないため臨床試験の実施が難しい。その一方、すべての希少がん患者を合計すると、がん全体の2割ほどに上るという。

 川井さんは「限られた参加人数の試験でも、治療薬として評価できるようになってほしい。ゲノム情報を利用したり、承認後の追加調査で補ったりする方策を関係機関と検討している」と語る。

写真・図版

 

効く人、見分ける手法必要 新タイプ治療薬、対象拡大の流れ

 新たなタイプの薬の登場が別の課題を生んでいる。

 免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)は、免疫のブレーキ役の分子の働きを抑え、免疫ががん細胞を攻撃できるようにする。14年にメラノーマの治療薬として承認され、その後、対象のがんは広がったが、承認されたがんの患者全てに効くわけではない。

 オプジーボは非小細胞肺がんや腎細胞がん、血液がんのホジキンリンパ腫、頭頸部(けいぶ)がんの一部でも承認され、胃がんでも承認が申請されている。免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」(同ペムブロリズマブ)はメラノーマや肺がんで承認され、今年2月に販売が始まった。この二つの薬は、他のがんへの適応拡大に向けた臨床試験も進む。

 日本がん免疫学会理事長の河上裕・慶応大教授(腫瘍免疫学)によると、免疫チェックポイント阻害剤を単独で使った場合、がんが完全に消えるか30%以上小さくなる「奏効(そうこう)率」は約10~30%。多くの患者に効くわけではない。このため、複数を組み合わせたり、他の標準療法や免疫調節剤と併用したりする研究が進んでいるという。

 河上さんは「がんの組織や血液の検査で、薬が効くかどうかを見分ける手法の開発が重要」と話す。

 一方、米国の食品医薬品局(FDA)は5月、切除できないか、または転移性のがんの患者で特定の酵素に異常がある人に対し、がんの種類にかかわらずキイトルーダの適応を認めた。

 河上さんは「画期的な承認の方法だ。今後、日本でも同じようになっていくだろう。ただ、薬の対象となる患者さんがかなり少ない場合がある。そうした人を検査で見つける体制を整えていかねばならない」と指摘する。(服部尚、南宏美)

 

(アピタルがんインタビュー)患者会活動 在宅緩和ケア支援へ、地域連携を 全国がん患者団体連合会副理事長・松本陽子さん

 

 父親をがんで亡くし、1999年には子宮頸(けい)がんを経験した全国がん患者団体連合会副理事長の松本陽子さん(51)。どこでも一定の質の「緩和ケア」を受けられるよう活動してきました。この10年の変化と課題を聞きました。

 2008年4月、愛媛県のがん患者・家族会「愛媛がんサポートおれんじの会」を立ち上げた。当時の「緩和ケア」は、「限られた患者を対象に、医療者が、限られた時期にだけ提供するのが現状だった」と振り返る。

 それから約10年。「すべての患者ががんと診断された時から緩和ケアを始めようとなり、医師への研修やがん拠点病院の整備など、受け皿作りはずいぶん進んできた」と評価する。

 「ただ、せっかくできた受け皿に患者・家族がすべてつながっているわけではない」と話す。実際「おれんじの会」にも緩和ケアをめぐる対応の不満や情報不足の声が寄せられている。「緩和ケアチームや緩和ケア外来はできたものの、患者や家族が情報を集め、力を振り絞ってやっとたどり着いているケースが少なくない」という。

 今後の大きな課題は、在宅医療での緩和ケアだ。「在宅で緩和ケアを必要とする患者や家族を支えるため、患者会を含めた地域のいろんな社会資源が連携を深めていくことが大事」と訴える。(林敦彦)

     *

 1965年、愛媛県生まれ。「愛媛がんサポートおれんじの会」理事長。全国がん患者団体連合会副理事長。2012~14年、厚生労働省の緩和ケア推進検討会委員。

     ◇

 がんインタビューでは、この10年をテーマごとに振り返ってもらいます。詳報は朝日新聞の医療系サイト「アピタル」(http://www.asahi.com/apital/)でお伝えします。

 

 

 ◆告知板

東京逓信病院公開講座「肺がん治療の今」 7月1日午後2時~3時半、東京逓信病院(東京都千代田区)。同院の呼吸器内科と呼吸器外科の医師が肺がん治療について講演。後半には、がん化学療法看護認定看護師が患者の生活支援について話す。無料で、申し込み不要。定員約70人。問い合わせは同院地域連携室(03・5214・7497)。

 

小児がん支援のレモネードスタンド体験 日本医科大千葉北総病院(千葉県印西市)と認定NPO法人キャンサーネットジャパン(東京都文京区)が7月15日午後1時半~3時半、同院の災害研修センターで、夏休み公開講座「小児がん支援のレモネードスタンド体験」を開く。レモネードの販売を通じて子どもが小児がんの患者を支援する取り組み。同院小児科医が小児がんについて解説、患者が体験談を話す。レモネードの作り方やスタンドの開催方法も学べる。小中高校生が対象で参加無料。定員50人。申し込みはレモネードスタンドジャパンのウェブサイト(http://www.lemonadestand.jp/別ウインドウで開きます)から。問い合わせは事務局(03・5840・6072)。

 

 ◆日本対がん協会だより

夏の乳がん検診クーポンプレゼント

 日本対がん協会が発行する乳がん検診(マンモグラフィー)の無料クーポン(来年3月末まで有効)を、抽選で100人にプレゼントします。対象は40歳以上(来年3月末時点)で、乳がん検診を受診していない人。希望者は、受診施設を日本対がん協会のホームページ(http://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/coupon.pdf別ウインドウで開きます)で確認して住所、氏名、年齢、電話番号を明記し、日本対がん協会「夏の乳がん検診プレゼント」係宛てにFAX(03・5222・6700)で申し込む。締め切りは7月24日。発送をもって発表にかえます。

 

 ◇次回の掲載は7月の予定です。

 

<アピタル:がん新時代・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/gan/