拡大する写真・図版監物南美さん

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 『栄養と料理』という月刊誌があります。1935(昭和10)年創刊の老舗雑誌で、一昨年亡くなった料理記者・岸朝子さんが編集長を務めたことでも知られています。タイトル通り、栄養と料理に関する情報が満載、私も「食」を取材する仕事柄、毎月注目して読んでいます。

 インターネットなどに多種多様な食の情報があふれる中、雑誌からの情報発信にはどんな面白さと難しさがあるのか、2011年から先日までこの雑誌の編集長を務めていた監物南美さんにお話をうかがいました。

――改めて、『栄養と料理』をご紹介ください。

 女子栄養大学出版部が発行している月刊誌で、健康管理の仕方や、おいしく栄養バランスのよい食事づくりをするための情報をお届けする一般誌です。もともとは香川栄養学園の前身である「家庭食養研究会」の講義録をまとめて発行したことに始まっています。今はそれとは離れていますが、原点は意識して、できるだけ確かな情報を楽しく生活に役立てやすくと考えています。専門的な内容も一般の方が読んでわかるように、専門用語は解説を入れるなどしています。

――読者層は。

 やや高齢化していますが、幅広い年代にわたっています。若い世代は栄養士を目指しているなど、この方面に関心がある人が多く、高い年齢層になると、主婦が多いですね。

――6年間で、どんな特集テーマが人気でしたか?

 血圧、血糖、ダイエットは定番のテーマ。年1回は取り上げます。血圧は塩(減塩)という切り口の時もありますが。健康がらみで「食で改善できるかも」と期待できるテーマに関心が集まります。

 認知症や歯、食育などのテーマは、読者からの反響はむしろこれらの定番テーマより大きかったのですが、売り上げにはなかなかつながらず、そういう特集を必要としてくれる人に『栄養と料理』の存在を知っていただけなかったということも一因かと考えています。

――2011年に就任された際、どのような編集方針を立てたのですか。

 先ほど「確かな情報」と言いましたが、確かな情報というのは実はなかなかありませんし、素人が調べきれるものでもありません。その情報はどこまで科学的に明らかになっているのか。新しく始めたのが、2011年4月号から今も続く連載「佐々木敏がズバリ読む栄養データ」です。新連載は1月号から、というのが通例だったのですが、編集長になるにあたって、1本はなにか新しいものを始めたい、そして1本しかできないなら何がよいかと考えてお願いしました。日本の栄養疫学研究をリードする佐々木敏・東京大学大学院教授に食べ物、栄養と健康のつながりについて、毎回1つのテーマを選び、栄養疫学の視点で何がどこまでわかっているのかを書いていただいています。連載は、文章と図表で構成されているのですが、キャプションを付けて、そこだけを見てもある程度内容がわかるようにしています。なるべく多くの方に興味を持っていただきたいので。さらに、歴史や食文化もふまえたデータの考察へと進めておられるので、様々な読み方ができるようになっています。読むたびに新たな発見があるんです。

拡大する写真・図版監物さんが編集長として世に送り出した『栄養と料理』。創刊80周年記念号も手がけました

――「○○が××にいい」「こんな食べ方が△△病を防ぐ」など、明快でわかりやすいけれど不正確だったり誇張があったりする情報が多く出回っています。

 歯切れ良く結論があって、というのが広く響くのは確かで、どっちかというと、以前はそこを目指していたところがありました。けれども、そこは歯切れが悪くなっても、分かっていないものはまだ判明していない、と書くようにしていきました。読者は受け止めてくれていました。先ほどの認知症特集もそうですが、結論は出ていなくても、読んで考えるきっかけにしてくれたのだと思います。そこがこの雑誌の役割かと感じています。

 実は、何か怪しい情報がはやった時に、それに関する特集をする時が、売り上げの成績がいいんです。栄養と健康に関して確実に言えることは、そんなに次々と新しく出てくるわけではありません。すると、確実な情報だけでは、見せ方の工夫はしているつもりでも延々と当たり前のことを言っているだけ、この話は去年と一緒だ、時にはウチの情報は古いと言われてしまう。

――皮肉なものですね……。食情報を一人ひとりがいかに読み解くかが問われる時代だと思います。

 「食情報に振り回される」とよく言われますが、振り回されていない人がほとんどではないかと私は感じています。例えば「この食品で痩せる」と話題になったとして、それが手頃で当たり前にある商品なら、本当にそれで痩せるとは思わなくても、じゃあ食べてみるかと思い出してつい手にとる。そういう人が多いから、売り切れにもつながったりしますが、本気で痩せたくて店にかけつけて買う人は実は少数派ではないでしょうか。

 ただ、そうした情報を食に関わる専門家、例えば栄養士が真に受けて、情報発信してしまうのは問題だと思います。私自身のこれからの仕事として、食の専門家がより確かな情報発信ができるための情報提供を何らかの形で探っていきたいと考えているところです。

――雑誌編集をしていて、家庭の食卓で変化を感じた点がありますか。

 料理をしない人が増えているし、なるべく簡単に楽にしたいという層がいる一方、しっかり料理を作りたいという層もいる。多様化が非常に進んで幅が広がっていると思います。また料理家と打ち合わせをしていて、1人前でサケが2分の1切れ、といった主菜とも副菜ともわかりにくい料理を提案されることがありました。料理を専門に手がける人でもそうですから、主菜、副菜という区別がなくなっている家庭も多いのではないかと感じています。居酒屋のおつまみのように、食卓の上に小さなおかずがいくつか並ぶ、そんな光景も増えているのではないでしょうか。

 

監物南美(けんもつ・なみ)さんプロフィール

日本女子大学家政学部食物学科卒業。女子栄養大学出版部で長年『栄養と料理』の編集に携わり、『栄養素の通になる』(上西一弘著)、『お母さんのための「食の安全」教室』(松永和紀著)、『佐々木敏の栄養データはこう読む!』(佐々木敏著)など『栄養と料理』コンテンツの書籍化や初心者向けの栄養計算ソフト《栄養pro》の開発にも携わる。『佐々木敏の栄養データ』の第2弾も秋に刊行予定。2011年4月号から2017年6月号まで編集長を務める。現在、『栄養と料理』編集委員、2017年食生活ジャーナリストの会幹事。

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/(大村美香)

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)