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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半・独身一人暮らし)のお話を続けていきます。今回は、これまで友達は多い方で、恵まれてきたのに、社会人になってから、どうもうまくいかないというエピソードに切り込んでいきます。

 学生時代から続く女友達は、20代後半から次々に結婚していきました。結婚すると、皆夜飲み歩くことになかなかつきあってくれなくなりましたし、土日にも家族を優先してなかなか会ってくれなくなりました。それでも独身の友達同士で集まっていたのですが、それも最近はなぜか徐々に疎遠になっています。

 人間関係の悩みは、本当にあいまいで難しいですね。リョウさんは明るい性格なので、当初はあまり気にしていませんでしたが、最近では仕事でうまくいかないこともあり、

 リョウ 「もしかして私、友達まで失おうとしているの?」

 と不安になってきました。

 同性の友達とうまくいかない理由を挙げればキリがありません。リョウさんはもともと、まめに連絡をとったり、細やかな配慮で人の輪を乱さないようにしたり、といったことが苦手なタイプです。リョウさんからすれば、

 リョウ 「グループLINEで、毎回みんなのいうことにちゃんと答えている人を心底尊敬するなあ。私には無理。もう誰がなんて言ったかとか追えないし。そのうち流れについていけなくなって、結局面倒になって放置してしまうんだよね」

 こんなかんじなのです。でも、これでも学生時代まではうまくいっていたのです。周囲が「リョウって面倒くさがりだけど、悪気はないんだよね」とか、「また返事しなかったでしょ? まったくー」と理解してくれていたのです。それに、メールや電話などを使わなくても授業やサークルにいけば直接会うことができていましたから、そこで話すことで補えていたのかもしれません。

 

 社会人になり、家庭を持つ友達も多くなってくると、これまでのようには直接会う機会が減ってきました。この状況では、リョウさんのようにメールや電話のまめなやりとりが苦手なタイプは疎遠になりがちかもしれません。

 しかし、リョウさんの不安はそれだけでは説明のできないものでした。独身の友達同士でもなんとなく、こう、前みたいにしっくりこなくなってきているのです。それが明らかになったのは、昨年の夏前のことでした。

 

 学生時代から、仲良しの4人組で、毎年のように夏の旅行を計画していました。しかし仲間のうち2人が結婚し、子どもが生まれてからは、ここ4年ほど旅行にいくことができていません。リョウさんは、これまで自分から旅行の企画をしたことはありませんでしたが、

 リョウ 「ここらで皆でぱーっと海外にでも行って、また学生の頃みたいにはじけよう!」

 そう思いついたのです。家庭を持っても独身でも、変わらずに会える関係でいたかったのです。リョウさんは旅行会社のサイトをいくつか調べました。すると、女性のグループ旅行に最適で、しかも1組4名以上で限定40名、今週末までに申し込めば間に合う!という、平日出発の超特価プランを見つけ出すことができたのです。

 リョウ 「すごい!グアムがこの値段で!4名以上のグループじゃないと申し込めないプランなんて!まさに私たちのためのものだ!すごい!」

 「限定40名」「今週末までに申し込み」という言葉が興奮を加速させました。リョウさんは、まだ他の3人の都合を聞いていませんでしたが、

 リョウ 「これ以上いいプランはないわ!みんなだって、その気になればどの日程でも休めるはずよ。小さな子どもがいたって、たまには他の家族にまかせて、女同士で旅行にいってもいいはずよ」

 そう考え、すぐに申し込みました。ちなみに限定プランは、一切の変更やキャンセルのきかないものでした。そのため、格安になっていたのです。リョウさんはみんなを休日のランチに誘い出して、プランを発表しました。

 

写真・図版

 得意げな顔で旅行の提案をしたリョウさん。他のみんなは驚いています。特に、このランチにも2歳の子どもを連れてきていたモナミさんは、目を丸くして、

 モナミ 「え??グアム! しかも5日間?? そりゃ行きたいけど・・・この子まだ小さいし」

 想定していたこんな反応に対して、リョウさんは遮るように

 リョウ 「そう。そうだと思うのよ。でもさ、今しかないのよ。だって限定プランだよ?その気になれば、旦那さんかお母さんか誰か見てくれるって!」

 明るく説得しました。モナミさんは「でも。。そんな、主人に聞いてみないと、お金だって」といいながら、2歳の娘が食べこぼしたものを拭くのに追われ始めました。

 

 見かねたもうひとりの友達が口をはさみました。

 サエ 「さすがに5日間っていうのが…。私は仕事休めなそう。思い切り平日でしょう?」

 リョウ 「でも平日じゃないと安く行けないよ? その気になれば夏休みって取れない? それに、私その休みが無理そうならまた転職したっていいかなとか思ってる(笑)」

 サエ 「リョウみたいに次々に仕事みつけらんないよー。難しいわ?」

 リョウ 「ね、なんとかここはみんなで頑張ろうよ!だって4年ぶりの旅行なんだよ?こんないいプランないし、限定企画だったから、もう申し込んじゃった!」

 それを聞いた一同は、顔色を変えました。それを見て、「しまった」と気づいた時には既に遅し。リョウさんは初めて、やらかしてしまったことに気づきました。結局旅行はキャンセルとなりました。キャンセル料はリョウさんが全額出すと申し出ましたが、それよりショックだったのは、皆が誰一人喜んでくれなかったことでした。

 リョウ 「みんな、あの頃のノリではもうないんだな。昔ならノリで都合つけてくれたし、おもしろがってくれていたのに。やっぱり大人になるとこうして女友達って続かなくなるのかな」

 こういう時、リョウさんはたまらなく孤独な気持ちになります。確かに手順を踏んで皆に確認をとりながら事を進めなかったことはまずかったでしょう。しかし、だからといってあんなふうに皆がのってくれなくなったのは一体どうしてでしょう。

 

 リョウさんの一連の行動では「衝動性」がまず目立っていましたね。衝動性とは、やりたい!ほしい!と思ったら、その気持ちが抑えられずに即行動にうつしてしまうことでした。これはADHDの大きな特徴です。「限定」という言葉で焦りを感じたこともあり、ますますリョウさんの衝動性は加速しました。

 この衝動性だけでは、ここまで事態は悪化しませんでした。

 リョウさんの予想する以上に、みんなの生活環境は変わってしまっていました。想像だけでは及ばないそれぞれの変化について、理解しようという丁寧なやりとりの積み重ねがなかったのです。

 例えば、2歳の子どもを休日のランチに連れてきているモナミさんの背景には、休日にも子どもを代わりに見てくれない夫や、近くに気軽に頼れる人がいない事情、もしくは2歳の子どもがお母さんであるモナミさんと離れたがらないのか、モナミさん自身が離れない子育てがよいと思っているのか、さまざまな事情がありそうです。休日のランチの数時間にも子どもを連れてきているモナミさんからすれば、5日間のグアム旅行など、ハードルが高すぎることです。たとえモナミさんがリョウさんのことを大好きで、学生時代のように同じノリではしゃぎたいと思っていたとしても、そこには多くの物理的なハードルがあるため手放しで喜べないのです。

 こうしたそれぞれの事情の変化だけでなく、社会人になったり親になったりしていく中で、私たちはどうしても社会から要求される事が多くなっていきます。こうした要求に答えるために、日頃は「大人モード」全開で生活しているわけです。

 リョウさんはこの「社会からの要求」にうまく応えることができておらず、もがいているところでしたね。それで、学生時代のノリを共有している友達と、またはしゃごうとしたのですが、友達もまたそれぞれの置かれた場所での大人としての役割を求められ,応えようと生きていたのです。つまり、学生時代のままストップしていたわけではなかったのです。

 そんなわけで、リョウさんが望むような学生時代のノリは、思うように共有できなくなってしまっていたのです。

 

 みなさんにも経験がありませんか? 同窓会で短時間顔を合わせる分には、一気に昔に戻ることができたような気がして、本当に楽しいものですね。でも、その仲間と長期間また過ごしていくと、「お互いあれから時間がたったのだな。変化したのだな」と実感するものですよね。リョウさんの場合には、自分だけは変化していないのに、周りが変化してしまった寂しさがあるのです。それでますます孤独を感じているのです。

 

 このように、大人の発達障害の方から多く聞く対人関係の悩みが、「大人になってから特にみんなと合わなくなってきた」ということです。

 他人からみれば「子どもっぽい」とか「好きにできていいね」などと言われることも多いそうですが、ご本人の中では、なんとか社会からの要求に応えようと必死にもがいているのに、うまく応えられず、「自分はダメだ」という意識にさいなまれているようです。

 もしかすると、リョウさんも他の仲間からみれば、「次々に転職できて軽やかでうらやましい自由な人生」なのかもしれません。「5日間のグアム旅行を気軽に申し込めてしまう身軽さ」も、子育て中のモナミさんからすれば「気楽でいいなあ」という感覚かもしれません。こうしたお互いの背景の違いを埋め合わせるほど、頻繁に会ったりやりとりをしたりできるわけでもなく、この日を境にこのグループに生じた溝は深くなっていきました。

 

 難しいですね。ますます細やかなやりとりや、想像を超えるほど変化した相手の状況をくみ取る努力がいるわけなのですね。リョウさんはこんな時、

 リョウ 「やっぱり無理。これまでだって、細かいやりとり、できなかったのに。そんな努力までするくらいなら・・・」

 こうやってたどり着くのが、問題の男性とお酒なのです。このお話は次回も続きます。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。