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 連載に登場した認知症の男性(80)が通う「暮らしの保健室」(東京都新宿区)。男性が保健室のボランティアや職員と交わすとりとめのない会話から、男性の生活にどのように保健室が関わっているのかが見えてきました。

 「土日、何かした方がいいですよ。若い人は回復して元気になるけど、年寄りはじっとしていると後で逆にきつくなるから」

 「月曜日は特に調子が悪い」とぼやく男性に、ボランティアの植田良治さん(69)が言います。「僕も病気を経験していて、土日にゴロゴロすると同じ状態になるから分かるんです」。そういえば、7月2日の日曜日は都議選だから外に出る用事ができますね。そんな声もかかりました。

 男性の外出をいかに増やすかが、いまの課題です。

 カレンダーに書いておいて、と言いながら、保健室の看護師、杉本弥生さん(62)が男性にメモを渡しました。「7月24日6時半、小学校のラジオ体操に参加」と書かれています。7月からだからね、6時半の体操だよ、と言い添えます。男性は自宅のカレンダーの24日の予定にラジオ体操を書き込みました。「(体操で)跳べないけど行くよ」と杉本さんに伝えました。

 杉本さんが「区が主催するハイキング、行ってみない? お友達もできるかも」と声をかけます。男性はまだ気乗りしないようです。返答がありません。杉本さんはあきらめませんが、焦りもしません。暑さが和らいだら、また催しのチラシを渡して誘ってみようと考えています。「お年寄りだから、声をかけてすぐ決断するとか、すぐ行動するとかは少ないですけど、何度も同じ働きかけを続けると、受け入れてくれることもあるんです」と杉本さん。

 受け入れてくれたことの一つが、温水洗浄便座。ちょうど6月、男性の自宅トイレについたばかりです。「そういえば、洗浄便座をつけてから調子はどう?」。ボランティアの1人が男性に聞きました。「うん、いいよ」と男性が返します。いつも「俺はやらされている」が口癖の男性ですが、珍しく素直で肯定的です。

 半年ほど前、便秘気味だという男性の自宅トイレが詰まったとき、杉本さんが「つけるといいよ」と勧めたのがきっかけです。

 便通をスムーズにしたり、拭き残しで肛門(こう・もん)周りの皮膚が荒れるのを防いだりするのが目的ですが、男性は近所の電器店が信用できないと警戒して当初は渋りました。「何かの折りに、つけたら? つけたら?って何度も何度も言い続けたんです」と植田さん。保健室の温水便座を体験したり現物を見に行ったりするうち、男性はある日「つける」と言いました。

 小さなことかもしれません。だけど、誰かとつながり続けることで生活が保てたり少しだけよくなったりする。保健室がその場になっていることを、男性と保健室のメンバーとのやりとりから感じました。

 

 ◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

 ◇患者を生きる「暮らしの保健室」の全4回をまとめた【まとめて読む】を、明日掲載する予定です。こちらもご覧ください。 

 

<アピタル:患者を生きる・我が家で>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(錦光山雅子)