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 怒った勢いで余計なことを言って人間関係がギクシャクしたり、場の雰囲気が悪くなってしまったりという経験はありませんか? 怒ることが悪いのではありません。不適切な怒り方をするから失敗してしまうのです。

 前回、上手に怒るというのは、自分の価値観と異なることがあって怒りが生じたとき、それを相手に適切な形で伝えることだという話を書きました。今回は、伝えるスキルを磨くための一つのステップとして、事実と感情を分けることを練習してみましょう。

 上手に怒るとは、具体的には、怒りの背後にある感情や自分が相手に求めていることを明確にして、相手への要望、提案、お願いとして伝えることです。

 相手に提案する前段として大切なのは、出来事・事実を客観的に描写することです。そこに自分の感情を添えて伝えます。私たちは怒ったときに、出来事や事実とその時の感情や自分の解釈を一緒に話していることがあります。

 

 病院の外来に勤務するAさんが怒っています。

 Aさん:「Bさん、どこに行っていたのよ。探している時に限っていつもいなんだから。」

 Bさん:「病棟へ書類を届けに行っていました」

 Aさん:「病棟に行くだけなのに、なんでこんなに時間がかかるのよ」

 

 この場面で「事実」は、AさんはBさんを探していたことと、Bさんは病棟に行っていたということです。Bさんは病棟に書類を届けて戻ってきたら、いきなりAさんに怒った口調で呼び止められました。

 もしかしたらAさんは、Bさんが見当たらないので仕事をサボっている、どこかで油を売っているという思い込みがあったのかもしれません。「探している時にいつもいない」とは限らないし、外来と病棟の往復に「時間がかかりすぎていた」かどうかは、わかりません。これではいきなり怒られたBさんも不本意です。「決めつけ」や「思い込み」は、上手に怒ることを邪魔します。

 またこの時、Aさんはどんな気持ちだったのでしょうか。Aさんの気持ちや感情は、言葉で表現されていません。話の内容や口調から怒っているのだろうということは伝わりますが、言葉として表現されているのはBさんを責める内容になっています。急ぎで確認したいことや頼みたい仕事があって、探しても居場所がわからず困っていた、もしかしたら焦っていたのかもしれません。

 「出来事」や「事実」と、「思い込み」や「決めつけ」を分けて、「出来事」や「事実」に、その時の「気持ち」や「感情」を添えて言い換えてみましょう。

 Aさん:「Bさん、探していたのよ」

 Bさん:「病棟へ書類を届けに行っていました」

 Aさん:「見当たらないから焦ったよ。実は急ぎでお願いしたい仕事があるの」

 状況によっては「次は誰かに行き先を伝えて行ってね」と提案しても良いかもしれません。

 

 ここでポイントは、怒ったときについ出てしまいがちな言葉に気をつけることです。以前のコラムでも紹介しましたが、例えば、「いつも○○だ」や、「必ず」「絶対」というように相手を一方的に決めつけるような言葉は、あまり使わないほうが良いでしょう。「なんで?」というのも使い方によっては相手を責めるように聞こえます。

▼怒ったときの口癖に注意 http://www.asahi.com/articles/SDI201612225586.html

 

 また、相手に怒りを伝える時は、相手が主語になる言い回しになりがちです。「(あなたは)どこに行っていたの」「(私が)探している時に(あなたは)いつもいない」「(あなたは)時間がかかり過ぎ」などです。これを、主語を「私」に置き換えて話すように工夫してみましょう。「(私が)Bさんを探していた」「(私は)焦っていた」などです。そうすると少し、印象が変わりませんか?

 

 怒った時はつい相手を責めてしまいがちですが、ここで一度冷静になって、事実と思い込みを分ける、そして、思い込みはいったん横に置いて、事実に自分の感情を添えて相手に伝えてみるようにしましょう。

 

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編集部から

 田辺有理子さんの本が出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。