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 怒りは、自分の価値観と異なる現実に対して生じる感情で、怒ることは相手への要望を適切な形で伝えることです。そこで、事実と思い込みを分ける、事実に自分の感情を添えて相手に伝える、具体的に要望を伝える、といった「怒りを伝えるコツ」を紹介してきました。

 今回は、そもそもどうして怒っているのか、その理由を明確にする、ということについて考えてみます。

 医療や介護の現場に限らず、組織で働く上で求められる重要な業務として、報告・連絡・相談があります。報告する側もされる側も必要だと思っているのに、様々な行き違いが生じます。

 報告したら「そういうことは、もっと早く報告して」と言われてしまった、また一方では、「いつでも相談して」と言うから相談したのに「そのくらいは、いちいち聞かないで自分で考えて」と言われてしまったというような経験を持つ人は多いのではないでしょうか。

 報告も連絡も相談も、日々の業務で避けては通れないのですが、そのタイミングも内容も、実に難しいものです。

 

 このような行き違いは、報告・連絡・相談をする側と受ける側、双方の感覚のズレによるものです。

 しかし、報告を受ける側のほうが上司や先輩、リーダーなど、組織内の力関係が優位にあることが多く、自分の感覚とのズレを表に出しやすいように思います。報告を受けて「もっと早く報告して」と思う時もあれば、「それは後でいいでしょ、そんな些細なことで呼び止めないで」と思う時もあります。この違いはいったい何でしょうか。そして皆さんは、その理由を相手の後輩やスタッフにしっかり伝えることができていますか?

 

 怒りは、自分の価値観が引き金となって生じます。怒るか否かの判断基準は自分の中にあるので、その理由を言葉にしないと相手には伝わりません。そこが伝わっていないと、報告する方は、ある時は「もっと早く報告して」と怒られ、ある時は「それは後でまとめて報告して」と怒られるわけで、そのうち報告を躊躇(ちゅうちょ)するようになってしまうかもしれません。

 普段は報告してほしいのに、今回は報告されてイラッとしたのなら、そこには普段とは違う判断基準があるのでしょう。理由がわかれば相手も納得でき、次から報告の内容やタイミングを判断する材料が増えます。だからこそ、怒る時にはその理由を添えて伝える必要があるのです。ところが、自分が怒っている理由を明確に伝えるのは意外に難しいのです。

 例えば、早く報告してほしかった理由として「あと10分早ければ、その場で医師に相談できた」、「すぐに相談してくれたら、患者さんの痛みが強くなる前に対処できた」などの説明があれば、相手も次回はもっと早く報告しようとするかもしれません。

 これが「後でまとめて報告して」の場合はどうでしょう。例えば、「異常がないなら、いちいち呼ばないで」、「急ぐ内容か後で良い事か見極めて」などの説明は、「早く報告して」と怒られるよりも納得できないような気もします。特に医療現場では「異常なし」が急ぎの報告事項の場合もあるし、報告する側が、異常かどうか、至急かどうかを見極められないから報告するという場合もあるのです。

 少し視点を変えてみると、報告が不要なのではなく、報告を受ける側が急ぎの業務を抱えているなどして余裕がない時に、自分の問題を相手の問題にすり替えていることがあります。「急ぎの対応があるので、その報告は10分後にお願い」と自分の状況を添える、「家族から連絡がきたら、まとめて報告して」と個別の判断基準を添える、という具合に、報告をする側と受ける側の行き違いを埋めるための一言があると、お互いにイラッとせずに済むのではないでしょうか。

 

 怒りの感情は、自分の価値観と異なる現実や相手に対して、何か伝えたい時の感情です。ですから、「怒る」とは、感情を爆発させることではなく、感情を言葉にして、変えてほしい行動をリクエストするということです。ここで紹介してきた怒りを伝えるコツを活用して、皆さんもぜひ「上手に怒る」ことを試してみてください。

 次回からは、新たに自分の感情との付き合い方を考えていきます。

 

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編集部から

 田辺有理子さんの本もご参照ください。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。