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 世の中にあふれている健康・医療情報は、あやふやで不確かなものが多いのが現状です。今回は科学的な視点で重要な再現性や普遍性に焦点を当て、情報の信頼性の見極め方を考えてみたいと思います。

 

 ▼ある治療法が効くかどうかの裏付けを科学的根拠(エビデンス)という

 ▼重要なのは再現性・普遍性が担保されていること

 ▼再現性や普遍性を見極めることで、情報の信頼性を知ることができる

 

 「情報の見極め方」をテーマに始まった連載も今回で9回目になります。これまで、経験談・体験談、権威者の意見、細胞・動物実験の結果などを取り上げ、それぞれの情報としての信頼性の限界や問題点について解説してきました。

 医療現場では、治療方針などの意思決定において判断材料となる情報を「科学的根拠(エビデンス)」といいます。科学的根拠(エビデンス)は、ある治療法が病気に対して効果があるかどうかの裏付け、と言い換えることができます。そして、この科学的根拠(エビデンス)を参考に、「臨床現場の状況・環境(具体的には、患者の病状や社会背景、医療アクセス環境など)」や「医療者の技術・経験を含む専門性」、「患者の意向・行動(価値観)」を踏まえ、より良いケアに向けた意思決定をおこなうための行動指針を、「科学的根拠に基づいた医療(Evidence-based Medicine: EBM)」といいます。もしかすると初めて聞いた人がいるかもしれません。図にすると、このようになります。

 

 では、そもそも「科学的根拠」の「科学」ってなんでしょうか?

「科学」で重要なのは、再現性・普遍性

 「科学」を辞書で引くと次のように書かれています。

 自然や社会など世界の特定領域に関する法則的認識を目指す合理的知識の体系または探究の営み。実験や観察に基づく経験的実証性と論理的推論に基づく体系的整合性をその特徴とする。【大辞林 第三版】

 法則を見出したり合理的な知識体系を確立したりするためには、常にそれが誰にでも再現できること、言い換えると「再現性」や「普遍性」が重要になってきます。そして、再現される事象を見極めることができれば、これから起こること、つまり未来が予測できてきます。これは、科学が発展・発達してきた目的の一つになります。

 科学的根拠(エビデンス)の話に戻ると、その情報に再現性や普遍性が保証されているかどうかを見極めることができれば、情報としての正確性・信頼性が自ずと明らかになってくることになります。

 では、これまでの連載で取り上げた「経験談・体験談」「権威者の意見」「細胞・動物実験の結果」。未来をどれくらい正確に予測できるのか、自分にどれくらい当てはめることができるのかといった再現性・普遍性を、科学的視点から判定してみたいと思います。これは、筆者が学生講義や講演会などでクイズとして用意しているスライドです。なお、注意点として、行為や行動そのものの是非ではなく、赤字になっている部分について「情報としての信頼性」が「高い」か「低い」かで考えてみてください。

 

 まずは、「経験談・体験談」です。

 

 経験談・体験談で問題になってくるのは、その人が過去の記憶を正確に覚えているかどうかという点です。ともすると、人は都合の良いことばかりを覚えており、ときに記憶をすり替えてしまうような習性も持ち合わせています。これを専門用語で「思い出しバイアス(偏り)」といいます。

また、そのサプリメントを利用したら、たまたま偶然同じタイミングで症状が改善したのかもしれません。「飲んだ、治った、だから効いた」という「3た論法」に注意が必要なのは、人はたまたま偶然起こった現象に対しても、そこに原因と結果という因果関係に結びつけて捉えてしまう傾向があるからです。

 

 つぎに、「権威者の意見」です。

 

 こちらも、経験談・体験談と同様に、思い出しバイアスの可能性はもちろんあります。さらに気をつけておきたいのは、利益相反の問題です。もしかすると、イラストに出てきたサプリメントの権威は、グルコサミンの会社から多額の出演料をこっそり受け取っているかもしれません。

 

 そして、「細胞・動物実験の結果」です。

 

 細胞や動物を用いた実験は、医学研究において必要不可欠で重要な位置付けにあることは間違いありませんが、細胞や動物で効果があったからと言って人で効果があるとは限りません。

 

 ここまでの内容を整理すると、「経験談・体験談」「権威者の意見」「細胞・動物実験の結果」は、科学的視点から評価すると、バイアス(偏り)や偶然が入り込む余地が残されており、「再現性や普遍性は低い」と言わざるを得ません。つまり、情報としての信頼性を低く見積もる必要が出てきます。

 

情報には信頼性の高いものと低いものがあることを知る

 「経験談・体験談」「権威者の意見」「細胞・動物実験の結果」も情報であることは間違いありません。しかし、その信頼性が高いか低いかといえば、人の治療法として有効であるかという科学的視点で言えば低いということになります。

 では、信頼性の高い情報とは、どのようなものでしょうか。

 医学・医療の領域では、その情報の信頼性が高いか低いかの判断する基準として、その情報がどのような方法で検証されたものなのかを確認することが有用とされています。情報の信頼性が高いものから順番に並べたものが下の表になります。

 

 次回から、それぞれの研究デザイン(方法)について解説していきます。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。