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 今回も、ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半・独身一人暮らし)のお話を続けていきます。前回までに、リョウさんはお酒の問題に取り組んできました。今回はお仕事について、改善を試みます。(リョウさんは架空の人物です)

 まずは、リョウさんが前回取り組んだ「お酒を減らすための対策」の後日談をご紹介します。リョウさんがお酒を飲み過ぎてしまう一番の理由は、「お酒を飲めば嫌な気持ちに蓋(ふた)をすることができるから」でした。でも実際には、お酒は一時しのぎにしかなっていませんでした。そこで、リョウさんは「お酒を飲まなきゃやっていられない!」という日には、自分にこう言い聞かせるようにしました。

 リョウ 「そうかあ、私今日はそんなに辛い気持ちなんだ。お酒で辛さをごまかすよりは、辛さをそっと包み込んで癒やしてあげた方がいい」

 そして、お酒を飲む代わりに、リョウさんの大好きなマッサージ店に行きました。日頃は「マッサージを受けにいくなんて、自分には贅沢(ぜいたく)だ」と躊躇(ちゅうちょ)するところですが、心を癒やしてくれて、さらに体も楽になるのなら、よい対処法です。「こんな辛い時のために、贅沢はあるんだ」と自分にはずみをつけて向かいました。

 マッサージを受けて、人の手で触れてもらうと、リョウさんはどれだけ自分の体が固くなっていたかわかりました。自分が思うよりも身体は正直でした。身体をもみほぐしてもらうと、心まで温まるようでした。いかに職場で緊張して、びくびく顔色をうかがっていたかがわかりました。そして、こんなに辛い気持ちを恋人にも言えない自分の現状を再認識しました。

 リョウ 「こんな辛い時に、素直な気持ちすら打ち明けられない恋人って・・・一体なんのためにつき合っているんだろう。いや、私たちつき合っているって言えるんだろうか。マッサージ店の店員さんの方が余程私を癒やしてくれている。私はもう少し自分をいたわってあげてもいいんじゃないか。もはや、自分をいたわってあげられるのは、自分しかいないんだから」

 

 リョウさんはお酒を飲みたくなるたびに、「また疲れたんだね。よしよし」とゆっくり入浴したり、自分のためにわざわざ温かいカフェオレを作って来客用のカップに入れてみたり、柔らかい布団にくるまってみたりと、自分で自分を癒やすことを心がけました。

 そのたびに、リョウさんの心は「お酒が欲しかったわけじゃないんだ。とにかく辛いっていうのを分かって欲しかったんだ。癒やされたかったんだ」と言っているようでした。その証拠に、翌日のリョウさんは少し持ち直していました。

 そんな中で、リョウさんは少しずつお酒の問題を克服していきました。リョウさんがお酒を飲むのは、楽しくて体調の良いときだけになりました。

 

 ここまでくると、次のステップに進みます。そもそもお酒の力を借りたいほど嫌な気持ちになる原因には、仕事や恋愛がうまくいかないことがありました。リョウさんは次に仕事のことに取り組みます。どうしたら仕事で悩まなくてすむのでしょう。

 リョウさんの仕事がうまくいかないパターンのひとつに、「上司に確認しないまま自分の判断で仕事を進めてしまう」ことがありました。

 例えば、上司に「議事録をとるように」と指示された時には、素直に指示に従って、細かいところまで聞き漏らさないよう集中して、長文の議事録を作成しました。しかし、実はその職場では毎回決められた形式で議事録を残すことになっていて、リョウさんが何の確認もとらずに別の形式の長文でまとめたことで、上司があとから内容を要約して形式を整え直すことになったそうなのです。

 初めて経験する仕事でも、事前に「◯◯する前に確認して」とは明確に言われないことも多いのではないでしょうか。そういう時は、決まったやり方があるかどうかなどを、自分から尋ねる必要があるのです。

 こうしたとき、リョウさんは「しまった! そうなんだ。確認しなくちゃいけないんだ。どんな当然と思えることでも」と反省します。比較のしようはありませんが、おそらく人一倍ミスを気にして、今度こそ同じミスを繰り返さないようにと一生懸命反省します。これまで転職も多かったので、「この職場でこそは、なんとかうまくやりたい」という思いから、「次は確認するぞ」という決意は人一倍です。

 しかし、その決意が必ずしも次に生かされるかというと、そうではないのが辛いところなのです。なぜなら、時間とともに「決意」を忘れてしまうからです。

 

 それでは一体どうしたらいいのでしょうか?

 強い決意を次に生かすためには、その決意を忘れずに実践するための「具体的な対策(行動のプラン)」を考えておく必要があるのです。どの仕事をするときの、どんな状況で、どんな行動をとればいいのか、ADHDの特性を踏まえた上で、組み立てる必要があります。

 例えば、リョウさんはこれまでこんな風に反省していました。

 「次に経験のない仕事を頼まれた時には、必ず上司に確認しよう」

 わりと具体的ですし、かなりよい行動プランのように見えます。

 しかし、問題は、そもそも次に経験のない仕事を頼まれるときまで、この「上司に確認する」ということを覚えていて、いざという時に「立ち止まる」ことができるか? という視点が抜けていることです。

 

 「メールに添付ファイルをつけるつもりだったのに、本文を書いたあと、ついつい添付し忘れて送信してしまう」とか、「約束の日時が決まった時点で、かならず手帳に書き込もうと強く決意したにもかかわらず、やっぱり記入し忘れる」などの例でも同じです。

 「あ!ここ、立ち止まるところだった。何かし忘れてないかな!」

 と考えて、立ち止まれるかどうかが第一関門なのです。

 

 対策はいろいろありますが、

 「立ち止まる必要のある時に、自分はどこにいる? そのときに必ず使うもの、目にするものは何?」 ということを考えるのも、一つの方法です。

 たとえば、リョウさんの場合は、仕事で必ずパソコンを用います。そのパソコンの画面の真ん中(作業するのに邪魔なところ)に大きな付箋(ふせん)を貼り付けておくのです。その付箋には「ちょっと待て」とか「STOP」といったようなひと言を大きく書いておきます。視覚情報でぱっと目に入るとよいでしょう。

 パソコン関係の仕事でミスを連発している方には、まず第一歩としてこうした工夫が功を奏するでしょう。

 

写真・図版

 立ち止まることができれば、その後のアクションを考えるためのスタートラインに立つことができます。続きは次回です。

 

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【大人のADHDの集団認知行動療法研究の参加者の募集を終了しました】

 こちらで募集させていただいておりました、大人のADHDの特徴で、日々の生活でお困りの方を対象にした集団認知行動療法(グループカウンセリングの一種)の研究は、おかげさまで多数のご応募をいただき、定員に達しましたので、終了致しました。

 今後はインターネットを用いた同様のプログラムや、福岡や東京以外の場所での提供を予定しております。情報をご希望の方はこちらまで。

https://jp.surveymonkey.com/r/DVHDQT8別ウインドウで開きます

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。