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 医学・医療の領域で、その情報の信頼性を判断するには、どのような研究デザインで検証されたかが重要です。今回は、そのなかでも調査方法が「現在」から「未来」に向かう「コホート研究」について取り上げます。

 

 ▼コホート研究は、特定の因子と病気の発生との関連を調べる比較的優れた方法

 ▼特定の因子と病気の発生の時間的前後関係がわかるため、因果関係を類推しやすい

 ▼多くの労力や費用が必要で時間もかかり、まれな疾患の研究には向かない

 

 健康・医療情報の信頼性を検証する研究デザイン(方法)を、情報の信頼性が高いものから順番に並べたものが下の表になります。

 

 まず、これまでに紹介した研究デザイン(方法)をおさらいしましょう。

 病気の経過を観察したり、治療の効果や影響を調べたりする「観察研究」のうち、ある患者さんの診断や治療、その後の経過についてカルテなどの過去の情報を参考に詳しくまとめたのが「症例報告」です。症例報告は、新たな病気の診断法や治療法の発見においてとても重要な研究方法です。しかし、情報としての欠点として「対照群」がないことを指摘しました。例えば「健康食品を摂取したらがんが消えた」といった情報は、その健康食品を利用しなかった場合はどうなるのか、標準治療である抗がん剤や放射線治療をした場合と比べて治療効果はどうなのか、が分かりません。つまり対照となる人たち(=対照群)と比較してみなければ、本当に優れた治療法なのか判断できないのです。

 そこで、対照群と比較するための研究方法として、「症例・対照研究」があります。ただ、この研究方法の欠点は、「偏り(バイアス)」が入り込みやすいことでした。研究の対象者の選び方における偏り(選択バイアス)、データを集める際における人間の記憶違いや心理的影響(測定バイアス)、交絡因子(第三の因子)の存在(交絡バイアス)などが研究結果に影響を与える可能性があります。

 

 これらの問題を解決するためにはどうしたら良いでしょう。

 問題の原因のひとつに、「症例報告」「症例・対照研究」では、現時点から「過去」の情報を収集して解析することがあります。そこで、時間軸を逆にとって、現時点の情報を収集して「未来」に向かって追跡調査すれば、解決できるかもしれません。このような研究方法が「コホート研究」になります。

 

時間軸に注目することの重要性

 コホート研究の定義は、一般的に「特定の要因の有無により選択した集団を追跡して予後を調べ、要因との関連性を明らかにする研究」となっています。

 ちなみに、この「コホート」とは、古代ローマにおける歩兵隊の一単位とされています。医学研究では、共通の因子や特性を持った人間集団を「コホート」呼んでいます。

 それでは「症例・対照研究」と「コホート研究」の違いは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?前回、架空の話として紹介した「大腸がんの予防に食物繊維?」を例に比較してみましょう。下の二つの図をご覧ください。

 

 【症例・対照研究】

 

 【コホート研究】

 

 「症例・対照研究」は、ある時点において起こってしまった過去のことを解析するものです。「大腸がんの予防に食物繊維が有効か」を確かめるには、まず、「大腸がん患者」(症例)のなかに食物繊維をたくさん取っている人がどれくらいいるかを調べます。さらに比較のために、「大腸がんになっていない人」(対照)で食物繊維をたくさんとっている人の割合を調べます。その結果、「大腸がんになっていない人」の摂取量が多ければ、「食物繊維は大腸がん予防に効果あり」といえます。

 一方、コホート研究は、これから起きる未来の事象を追跡して解析するものです。例えば、「○○市在住の住民」(コホート)を、食物繊維の普段の摂取量で、「食物繊維をよく摂る」群と「あまり摂らない」群に分け、それぞれを追跡調査し、大腸がんになる割合を比べます。その結果、「食物繊維をよく摂っている群」に大腸がんが少なければ、「予防的」だと言えます。

 これを学術的には

 ・症例・対照研究 = ある時点での調査 = 「横断研究」

 ・コホート研究 = 時間の経過を追跡して調査 = 「縦断研究」

ともいいます。(※横断研究は、ある一時点で時間の断面を切り取って、二つの出来事の関連をみるものなので「断面調査」ということもあります)

 コホート研究(縦断研究)の最大の利点は、関連を調べようとしている二つの出来事(食物繊維の摂取量/大腸癌の発生頻度)の時間的な前後関係(順序)がわかるということです。一方、症例・対照研究では、関連を調べようとしている二つの出来事を同時に調べてしまうので、その時間的な前後関係がわかりません。

 つまり、二つの出来事のうち、どちらが原因でどちらが結果なのかが、症例・対照研究ではわからないのです。「大腸がんの予防に食物繊維?」を例に挙げると、「大腸がんになった人は、食物繊維を摂る量が少なかったからがんになった」と当然の事実のように説明してきましたが、もしかすると「大腸がんになった人は、がんのため腸が詰まり気味になり、食物繊維を摂ることができなかった」とも言え、原因と結果が入れ替わってしまう可能性も考えられます。

 ここで強調しておきたい点は、統計学的に「相関関係」を認められたからと言って、それが「原因と結果」といった「因果関係」があることを意味しているわけではないことです。

 

相関関係と因果関係の違いに注意!

 では、相関関係と因果関係はどう違うのでしょうか。

相関関係とは、一方の変数が変化するにつれ他方の変数が同時に変化する関係をいいます。

因果関係とは、一方の変数が他方の変数の変化を引き起こす原因と結果の関係をいいます。

 相関関係と因果関係の違いについて、身近な例で考えてみましょう。下の図をみてください。これは、日本人女性の「平均寿命」と日本の一般家庭に普及したある家電製品の「普及率」の関係を、年代ごとにプロットしたものです。

 

 グラフが右肩上がりになっています。つまり、ある家電製品の普及率が高くなるのにともなって、平均寿命が伸びている相関関係のグラフになります。そうすると、昭和40~50年代にかけて、女性が長生きできる秘密が隠された家電製品が日本で普及したのでしょうか?この期間に普及したのは、いったい、どのような家電製品なのでしょう?

 もったいぶってしまいましたが、実は、この家電製品は「カラーテレビ」です。(厚生労働省や内閣府が発表しているデータから作成してみました)

 しかし、カラーテレビが、人間の寿命に影響を与えるとは考えにくいですよね。このように相関関係があっても、因果関係はないということはよくあります。ですが、人の脳は、このような相関関係のグラフをみると、ついつい、そこに意味付けをして原因と結果といった因果関係を見出そうとするくせがあるので要注意です。

 「カラーテレビと平均寿命」と同じように、因果関係はないのに強い相関関係がある事例ばかりを集めた面白いサイトもあります。

 ◇ spurious correlation (擬似相関)(http://www.tylervigen.com/spurious-correlations別ウインドウで開きます

 こちらのサイトでは、例えば、

「米国における科学研究予算額は、首吊り自殺の件数と相関している」

「プールで溺死した人数は、ニコラス・ケイジの映画出演本数と相関している」

「一人あたりのチーズの消費量は、ベッドシーツに絡まって死亡した人数と相関している」

「メイン州(米国)の離婚率は、一人あたりのマーガリンの消費量と相関している」

「米国における日本製の乗用車販売台数は、自動車を使った自殺件数と相関している」

などのグラフが掲載されています。興味のある人はアクセスしてみてください。

 

 話が少し横道にそれましたが、「症例・対照研究」は、時間の前後関係がわからないので、仮に統計的に相関関係があったとしても、それが「原因と結果の関係(因果関係)」にあるわけではありません。

 一方、コホート研究では、時間的な前後関係が明らかですので、因果関係も類推しやすくなります(※あくまで類推しやすくなるということで、確実に因果関係が立証されたわけではありません)。また、一つのコホート研究で、複数の病気について調べることもできます。先ほどの例で言うと、大腸がんだけでなく、脳卒中、心筋梗塞などの予防因子についても調べることができます。こうしたことから、コホート研究は、特定の因子と病気の発生との関連を調べる比較的優れた方法だと評価することができます。

 コホート研究により明らかになった事例として、「喫煙とがん」や「高血圧と脳卒中」など数多くあります。有名な事例には、米国・ボストン郊外のフラミンガムで生活習慣と心疾患などの関係を調べた「フラミンガム研究」があるほか、日本でも、福岡県久山町での大規模研究や国立がん研究センターによる研究などがあります。

 良い事ずくめに思えるコホート研究ですが、前回紹介した「偏り(バイアス)」の問題が解決したわけではありません。測定バイアスは「症例・対照研究」に比べて「コホート研究」は少ないとされていますが、交絡バイアスは「コホート研究」においても問題点として残されています。例えば、大腸がんと食物繊維の関係でみると、肉の摂取など食物繊維以外の生活習慣が「第三の因子」として、結果を歪めている可能性もあります。そうした点で、少し厳密さに欠けると言えます。さらに、研究結果がわかるまでに10~20年といった時間がかかることや、多くの人を追跡調査するための手間や費用がかかるといった欠点もあります。

 

 今回紹介した、「コホート研究」の利点と欠点についてまとめました。

<利点>

◎ 予防効果や治療効果の程度を数字で表すことができる

◎ 既存の治療法と比較して、治療効果が優れているのかどうかわかる

◎ 関係を調べようとしている二つの出来事の発生順序がわかる

◎ 測定バイアスは比較的少ない

◎ 一つの研究で複数の病気のことが調べられる(一つのコホート研究から、がん、脳卒中、心筋梗塞などの予防因子を調べることが可能)

 

<欠点>

× 少し厳密さに欠ける

× 他のの生活習慣が違っているかもしれない(交絡バイアス)

× 多くの研究費や手間がかかる

× 多くの参加者が必要(通常、数万人から数十万人)

× 研究を実施して結果を得るまでに時間がかかる(予防効果の場合、10~20年)

× まれな病気には向いていない

 

 次回は、「非ランダム化比較試験」と「ランダム化比較試験」をとりあげます。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku

 (アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。