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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半・独身一人暮らし)のお話を続けていきます。今回も、リョウさんの仕事でのつまずきを改善する方法を考えます。(リョウさんは架空の人物です)

 リョウさんのような女性が仕事でのつまずきを減らすためには、3つのステップをおさえることがポイントです。まず、(1)ミスしがちな仕事にとりかかるときに、「待てよ、これって私がいつも間違うパターンの仕事ではないか?」と【立ち止まる】ステップ。それから、(2)動き出す前にどのような過程で取り組めばよいか、段取りを考える【計画立て】のステップ。そして、(3)最後まで飽きずにやる気を継続させる【集中する】ステップの3つです。

 前回は、最初のステップ【立ち止まる】について簡単に解説しました。今回はこのステップについて、具体的な「つまずきパターン」を挙げながら、もう少し詳しくみていくことにします。

 

パターン① 「だいたいわかるから、大丈夫」と自己判断で進めてしまい、間違える

 例えば、リョウさんは「議事録をとるように」と上司に指示されて、それ以上の確認をしないまま独自の書式で議事録を作成して、失敗してしまいました。

 このとき、「もしかして、これまでに社内で用いられてきた書式はないだろうか?」と考え、事前に上司に確認すればスムーズに物事が進んでいました。

 これは、「隠れた指示を探る」という、とても難しい課題です。対策としては、「いつも謙虚に心配する癖を付けておく」という方法がおすすめです。

 仕事を依頼されたとき、特にそれが新しい依頼の場合には、「待てよ。もしかしたら指示されたこと以外にも、隠れた指示があるのかも!」と、あえて謙虚に心配する癖をつけておくのです。「注意欠陥・多動性障害」のADHDと「心配性」という組み合わせは両極端ですが、仕事の面では自分を助けてくれます。

 リョウさんは「さっさと仕事を進めたい」「スイスイとやってしまいたい!」「分かる分かる! 簡単簡単!」と思ってしまいがちな性格で、ちょっぴりお調子者なところがあります。ですから、自分にいつも「仕事のときには心配性なくらいでちょうどいいんだ」と言い聞かせるようにしました。

 

→対策 【隠れた指示があるかもしれないと心配しよう】

 

 そしてもう一つ、立ち止まるための「道具」を取り入れる方法もおすすめです。

 リョウさんは先日、初めて参加する会議で、こんなことがありました。初参加のリョウさんに、先輩の出席者が、「初めて参加するよね。ここでは●○をするんですよ。△×するとうまくいきますよ」と教えてくれました。その時初めてリョウさんは「あ、そうか。ついついまた『私は大丈夫。だいたいわかるから』って気持ちで参加してしまっていた」と気づきました。「『初めて』なんだ。謙虚な気持ちで向かわなければ」と実感した出来事だったといいます。

 リョウさんはいつでも謙虚に立ち止まることができるように、冷静なイメージを連想させる水色の付箋(ふせん)に「心配性でちょうどいい」「ちょっとまて」「他にやり方あるかも?」など、自分を立ち止まらせることのできるような(立ち止まる必要性を思い出すことのできるような)さまざまなメッセージを書いてデスク周りの目につくところに貼りました。また、ブレスレットを買いました。毎朝身につけるたびに「よし、今日も立ち止まって、立ち止まって」と決意を新たにするためです。

 

→対策 【付箋や身につけるものなどで視覚的に立ち止まることを思い出そう】 

 

パターン② 勢いよく仕事に取りかかったものの、上司への「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)を忘れていたことに後で気づく

 毎日繰り返しの仕事で、時間の決まっているものならば、その時間にアラームをかけておくのも手です。たとえば、朝出社して9時ごろにほぼ毎日顧客に電話をかけることになっている人の場合には、その時間に合わせてアラームをかけておきます。そして、アラームを聞けば「待てよ」と立ち止まって、「事前に上司に確認しておくことはないか」など、見逃しがないかを見渡すきっかけにするのです。

 リョウさんはこれまでも、顧客に電話を発信して相手が出るまでの呼び出し音が鳴っている間に、「あ!しまった。上司に確認せずに自分ひとりで決めてしまっていた」と気づいて焦ることがありました。相手が出るまでの間に気づけばよい方で、ひどい時には顧客への説明が終わった後に、「そういえば。これって本当は上司に相談してから進めるべき話だったのかもしれない」と気づくこともよくありました。そういう見切り発車を防ぐために、顧客の電話をかける時間帯に注意喚起のためにアラームをかけておくのです。

 

→対策 【アラームで立ち止まることを思い出そう】

 

パターン③ 勢いよく仕事にとりかかるが、脱線して本来の目的を忘れる

 皆さんは、旅行ガイド本や料理本といった実用書を読む時に、目次を見て読みたい記事を選べばずっと効率的に読みたい物が読めるはずなのに、ついついぱらぱらとめくってしまうことはありませんか? インターネットをしていても、最初は調べ物のはずだったのに、SNSやショッピングなど他のことに脱線してしまい、結局何を調べていたのか忘れてしまうこともあるかもしれません。

こうしたときに、途中で「あれ? いったい何を探していたんだっけ?」と自分で気づくことができれば、まだ引き返せます。「ちょっと待て。そもそも何をしようとしていたのだ?」と早めに気づくことができればよいわけです。

 こうした脱線癖のある方には、どんな仕事をしているときでも、とにかく就業中には、10分おきにアラームをかけておくことをおすすめしています。10分ごとに「私、また計画せずに仕事に飛びついていないか?」「脱線していないか?」と確認することができるわけです。

 

→対策 【10分間隔アラームで脱線を防止しよう】

 

パターン④ メールの誤送信や持ち物忘れ・・・ケアレスミスが頻発

 これは、ひとつの仕事を終えたときの安堵(あんど)感や、「面倒なものを早く終えてしまいたい!」という嫌悪感から、見直しをしないパターンです。

 学生時代のテストの時、問題が裏面にもあるのに読み飛ばしてしまったり、計算や誤字脱字などのケアレスミスのあるまま提出してしまったりした経験はありませんか? まさにそれです。それを、仕事でもしでかしてしまうのです。

 こういった場合には、自分の仕事のどの場面で「見直し忘れ」が生じるのかをリストアップしてみるとよいでしょう。たとえば、次のようなかんじです。

 

a メールを書き終えたあと

b 郵送物を封書に詰めたあと(封をする直前)

c 朝持って行く物を全部かばんに入れたあと

d 手紙の宛先を書いたあと

 

 そして、この中から「特に今日は直したい!」と思っている場面を1つ選んで手を打つのです。「いつもちゃんとチェックしよう!」と全ての場面で一気に改善を目指そうとしても、おそらくその決意を忘れてしまうものです。一気にa~dにとりかかるのでなく、ひとまず今日はaだけ、と決めて取りかかるのです。

 取り組む項目を決めたら、さらに具体的に、チェック項目を「to-doリスト」にまとめます。メールを書き終えた後にチェックすべき項目はなんでしょうか。

 

 □ 宛先は合っているのか

 □ 件名は書いたか

 □ 相手の名前の部署や漢字を間違えていないか

 □ 本文におかしなところはないか

 □ 添付ファイルを忘れていないか

 

 こんなところでしょうか。

 to-doリストを作ってから仕事にとりかかる習慣をつけると、見直すことでミスが減るだけでなく、仕事の終わりに、終えた項目のチェックボックスに「レ」を入れる儀式を行うことで、達成感を味わうこともできます。

 そして、これらをチェックするために、メールの送信ボタンを押す前になんとか立ち止まる必要があります。メールをする時間が決まっている場合には先ほどのアラーム作戦も有効です。

 

→対策 【to-doリストを作って確認作業をしよう】

 

写真・図版

 いかがでしたでしょうか?

 漠然と「うっかりしないように気をつけなきゃ」と気を張るよりも、場面を特定して付箋やアラームなどにも上手に頼りながら、まずは立ち止まること習慣をつけていきましょう。

 

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【大人のADHDの集団認知行動療法研究の参加者の募集を終了しました】

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 *9月中は応募が殺到しており、アンケートフォームの上限を超えたため、送信がうまくできない不具合があったようです。お詫び致します。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。