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 医学・医療情報の信頼性を判断する際の基準として、これまでいくつかの研究デザイン(方法)を見てきましたが、今回は、中でも「最も信頼性が高い」と言われている方法について取り上げます。研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べる「ランダム化比較試験」と呼ばれるものです。

 

 ▼ランダム化比較試験の結果は、最も信頼性が高い

 ▼ランダム化比較試験を実施するには、多くの手間(人、時間、研究費)がかかる

 ▼「害のあるリスク」について介入する試験は実施できない

 

 前回紹介した「コホート研究」で残された問題点の一つに「交絡バイアス」がありました。「交絡バイアス」とは、交絡因子(第三の因子)による影響でゆがんだ結果を導く誤りです。

 例えば、「食物繊維の摂取量」と「大腸がんの発生頻度」に関係性が認められたとしても、実はその裏で他の「隠れた真の原因」があるのかもしれません。これまでの研究結果では、大腸がんの予防や発症に影響をおよぼしている因子としては、予防に良いとされる「運動習慣」や、逆に発症リスクとされる「肥満」「飲酒」「赤肉・加工肉の摂取」などが明らかになっています。これらの第三の因子である交絡バイアスの問題を解決するためにはどうしたら良いでしょうか。

 ひとつの方法として、「関連性を調べようとしている因子(予防法や治療法など)」を実施するグループと、実施しないグループとに対象者を振り分けて、その結果を比較する手法があります。ポイントは、比較するグループ間では、「関連性を調べようとしている因子」のみが異なり、その他のさまざまな因子はグループ間で変わらないという点です。その結果、交絡バイアスの影響を少なくしようという解決策になります。このような研究方法が、「比較試験」になります。

 

 研究のために対象者を、ある意味で強制的に治療内容や生活習慣を操作(コントロール)することから「介入試験」ともいいます。

 なお、対象となる集団を複数(2群以上)のグループに分ける際に、

 ・ランダムに振り分けをする→ランダム化比較試験

 ・ランダムに振り分けをしない→ランダム比較しない試験(非ランダム化比較試験)

と区別することができます。

 この「ランダム化」について、少し補足説明します。「ランダム」とは日本語で「無作為」と訳します。つまり、人為的な操作が入り込まないということを意味しています。

 例えば、通常、サイコロの目の数字の出現確率は均等です。介入試験においても、各群において、年齢、性別、病気の進行度、合併症の有無などの特性が各群において均等であることが重要になってきます。均等であるということを図にすると、このような感じになります。

 

 なぜ、介入試験で対象となる集団を複数のグループに振り分ける際に、ランダム化が重要になってくるのでしょうか。研究者の立場からすると、少しでも効きそうな人に、自分たちが確かめたい治療法や予防法を実施して、少しでも良い成績を出したいというのが心情だと思います。

 例えば、ある治療法の効果を試したいときに、

 「若くて元気な人=治療成績は良い」

 「お年寄りで様々な病気を抱えている人=治療成績は悪い」

というのは容易に想像できるかと思います。

 ですから、この「研究者の心情」は、先ほどのサイコロの話で言えば、「人為的」「作為的」「イカサマ」ということになってしまいます。つまり、これまで、この連載で繰り返し説明してきた、研究の結果に歪みを与えてしまう「バイアス」に他なりません。

 そこで、試験群と対照群が同じ特性を持つように試験の対象者を振り分けることが重要になってきます。そのため、対象者となる集団を「ランダム」に振り分ける方法である「ランダム化比較試験」の方がバイアスの入る余地が少なくなるため、「非ランダム化比較試験」より情報の信頼性が高くなります。これは、科学でもっとも重要な「再現性・普遍性」を保つために重要な仕組みにもなります。

(※全ての研究者が臨床試験の際にイカサマ行為をするというわけではありません。あくまで、イカサマ行為が行われてしまう可能性が残っている状況・状態を回避することが目的です。)

 

 では、「ランダム化比較試験」と「コホート研究」の違いについて、これまで架空の話として紹介した「大腸がんの予防に食物繊維?」を例に比較してみましょう。

 

【コホート研究】

 

【ランダム化比較試験】

 

 繰り返しになりますが、

 ・コホート研究は、ある時点での食物繊維の摂取量を調査するだけ(介入なし)

 ・比較試験は、ある時点から食物繊維の摂取量を操作する(介入あり)

になります。

 これを学術的には

 ・コホート研究 = 対象者の経過を観察する = 「観察研究」

 ・比較試験 = 対象者に操作(介入) = 「介入研究』

ともいいます。

(※これまでに紹介してきた、「ケースシリーズ・症例報告」「患者(症例)・対照研究」も観察研究になります。)

 

 コホート研究も比較試験(介入研究)も、関連を調べようとしている出来事(例:「食物繊維の摂取量」と「大腸がんの頻度」)の時間的な前後関係(順序)は明らかなので、原因と結果の関係を推論しやすくなります。

 さらに、比較試験(介入研究)の最大の利点として、ある集団に対して関連を調べようとしている因子(例:食物繊維の摂取量)のみを強制的に操作することで、その関連性がより原因と結果の関係(因果関係)に近づきます。つまり、交絡バイアスの影響が少なくなります。ただ、「タバコ」など害のあるリスクを強制することはできないため、タバコの発がんリスクをランダム化比較試験で検証することはできません。また、あれもこれもと複数の介入をおこなうことも現実的には不可能です。

 

 今回紹介した、「非ランダム化比較試験」「ランダム化比較試験」の利点と欠点についてまとめます。

 

<利点>

 ◎ 予防効果や治療効果の程度を数字で表すことができる

 ◎ 既存の治療法と比較して、治療効果が優れているのかどうかわかる

 ◎ 関係を調べようとしている二つの出来事の発生順序がわかる(コホート研究と同じ)

 ◎ 測定バイアスは少ない(コホート研究と同じ)

 ◎ 交絡バイアスは少ない(コホート研究より優れている点)

<欠点>

 × 多くの手間(参加者・研究費・時間)がかかる

 × 介入する操作(生活習慣など)を強制することが無理な場合もある(たばこの害などリスクがあるかどうかを調べたい場合、タバコを強制するのは不可能)

 × 一度に多くの操作(生活習慣など)を同時に調べるのは困難

 

 次回は、「大腸がんの予防に食物繊維?」について、実際には、どこまで、どのように検証されているのかについて解説します。

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku

 (アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。