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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半・独身一人暮らし)は、仕事でのつまずきを減らそうと、改善を試みています。前回から、つまずきを減らす3つのステップの2つ目、【計画立て】について話を進めていますが、今回はその中でも「時間の見積もり」について詳しく解説していきます。(リョウさんは架空の人物です)

□ 間に合うだろうと思っていた電車を逃す

□ ちょっとのつもりが気づけば2時間ネットサーフィンをしていた

□ 締め切りが迫っているのはわかっているんだけどなぜかいつもギリギリ

□ 上司に仕事の進捗状況を尋ねられてもうまくこたえられない

 

 突然ですが、こんなことはありませんか?

 ここに挙げた項目は、どれも「時間の見積もり」に関するものです。ADHDの方は、こういった時間感覚が不正確な傾向にあると言われています。時間を正確に体感しにくいということです。

 (もちろん上記の例は、この時間感覚だけにすべて由来するものではありません。時間感覚にプラスして、「好きなネットサーフィンに没頭してやめられない(過集中)」「そもそも時間を逆算して計画を立てていない」「仕事の全体像と、段取り、それぞれの段階にかかるであろう時間の見積もりをしていない」なども、うまくいかない原因です)

 

 前回、ADHDの方が時間管理をする中で、多く抱えるお悩みとして、以下の2つを挙げていたことを覚えていらっしゃいますか?

 ①「どうしても気が重くて乗り気になれないことを先延ばししてしまう」

 ②「いざとりかかっても、思ったより時間がかかって途中で投げ出してしまう」

 

 ①については前回解説しましたが、実は②は、「時間の見積もり」が正確でないことに起因しているのです。

 こうした時間感覚の不正確さは、自分のルーチンワークにかかる所要時間をあらかじめ把握することで、ずいぶんカバーできます。朝起きてから家を出るまでの準備や、毎日やらなければならない仕事などにかかる時間を、実際に計測して(タイムログをとって)把握するのです。

 大切なポイントは、時間感覚自体をトレーニングしていくというよりは、実際に計測したタイムログデータをもとに生活を組み立てて習慣化することで困らなくするという発想です。

 

 さて、さきほどから何回も登場している「タイムログ」ですが、内容はとてもシンプルです。何にどれだけの時間をかけているかをストップウォッチで計測するだけです。

 なかなか日常生活でそんなことしないですよね。でも、身支度に何分、朝ご飯の用意から片付けまでに何分、持ち物をそろえるのに何分かかっているのかは、案外、正確に把握されていないものです。

 私はこれまで、多くの方にこのタイムログを勧めてきました。すると、こんな発見があります。

 「驚いたことに、自分は朝服を選ぶのに10分もかかっていた。あんなにバタバタしている朝なのに、もったいない!」

 「スマホをいじっている時間は少しのつもりだったのに、2時間にもなっていてぞっとした」

 「朝テレビを見ながらだらだらと化粧をしていたら、きづけば30分たっていた」

 「朝余裕を持って起きているはずなのに、雨が降るとか、急に肌寒くなったとか、気候の影響で服装や傘とか靴まで変わってしまって、結局バタバタした」

 「部屋のあちこちをかけまわっている自分に気づいた。洗面所で一気にできることをすませて台所へ行ってまたそこで一気にできることをすませて・・・と動線を意識して物の配置を考えていきたい」

 

写真・図版

 どうでしょう。

 やってみなくてはわかりません。

 やり方は簡単です。

 

 タイムログの最初のステップとしては、まず朝起きてから出かけるまでの間の作業に、それぞれ何分かかるかを計測することをおすすめしています。

 朝起きてから家を出るまでの時間帯は、生活スタイルにあまり左右されないルーチンワークの多い時間帯です。この朝のタイムログをとることで、「本当はしっかり食べたかった朝食」にありつけたり、「本当は納得いくまで選びたかったコーディネート」の服を着ることができたり、「本当は新聞に目を通してから出勤したい」といった希望が叶ったりするかもしれません。

 

 【朝のタイムログの測り方】

 ① 朝起きてから出かけるまでにすることを、順番に箇条書きにします。(例えば、歯を磨く、着替える、化粧をする、朝ご飯を作る、など)

 ② スマホのストップウォッチ機能(あらかじめインストールされているアプリです)を起動させます。活動の始まりに「開始」ボタンを押し、次の活動に移る時に「ラップ」ボタンを押します。「停止」ではなく「ラップ」ボタンを押すのがポイントです。これを繰り返すことで、各項目の所要時間がアプリ内にたまっていきます。練習して確かめてみましょう。

 ③ 朝することを書き出した紙とスマホを枕元に置いて寝ます。起きてすぐから計測スタートできるようにするのです。

 *ポイント: 項目ごとに計測するのがあまりに慌ただしい方には、部屋ごとの計測をお勧めしています。洗面所で10分、台所で15分、食卓で10分というかんじです。この計測方法がむいているのは、動線がすっきりしている人かもしれません。

 *ポイント: タイムログをとるとなると、誰しも少し緊張して、いつもより速くしなければ、とはりきりすぎてしまうものです。そうではなくて、あくまでタイムログをとるのは、平常時の無理のない実態を把握するのが目的です。いつもより早起きすること、いつもより時短メニューにすること、いつもより雑に済ませてしまうこと等を避けて、なるべくいつもどおりに動いてみましょう。

 

 タイムログの次のステップとして、お仕事をされている方は、自分が何にどれだけ時間をかけているのかを計測してみましょう。

 最初はルーチンワークからがよいでしょう。メールチェック、会議、資料の送付・・・。お仕事内容もさまざまですが、実際に自分がこういった種類の仕事を何分くらいでできる、と正確に見積もることができれば、失敗しない計画が立てられますよね。

 経験年数が増えていくにつれて、タイムログが多く自分に蓄積しますから、より正確な見積もりができるようになります。正確に見積もれるようになると、不安が減ります。見積もりがいつも不正確ですと「うーん、やってみないとわからないな。ちゃんと終わるか心配だ」と不安にかられます。見通しがもてないと、永遠に終わりが来ないような気がして、やる気も失せるものです。反対に、「だいたいこのくらいの期間があれば、私はやり通せる。大丈夫だ」と思えれば、自信を持って取り組むことができますよね。

 

 それでも初めての仕事が来た場合には、こういう見積もりはいかがでしょう。

 ここでは単純な例「初めてカレーを作る仕事をまかされたら」を用いてわかりやすく述べてみます。

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 ① 完成のイメージと期限を具体的にする。

 例:上司に「何風のカレーですか?何時までに仕上げなければなりませんか?」と確認する。「なるほど、欧風か。1時間後ですか」

 ② 完成までの細かいステップを作成する。

 例:カレーを作る工程を洗い出す。「洗う、切る、炒める、煮込むだな」

 ③ それぞれのステップにかかる所要時間を見積もる。

 例:初めてなので、試しに最初の5分でどこまでできるかやってみよう。あら、意外にじゃがいもの皮むきで時間がかかった。このかんじだと材料を切り終わるのは全部で15分かかるな。

 ④ 見積もりに応じて計画を立てる。

 例:材料を切るのに15分。炒めて、煮込むまでにトータル1時間30分かな。え?1時間で仕上げろって?んじゃ、圧力鍋を使うか、材料を細かく切って火を通りやすくするか。

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 時間の見積もり、イメージしていただけましたか?

 次回も引き続き、計画立てのお話をしていきます。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。