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 「がん細胞は1日に5000個も生じます」なんてフレーズ、聞いたことありませんか。その後に、「がん細胞ができても、通常は免疫系によって排除されてしまうものの、免疫の攻撃からすり抜けるとがん細胞が成長して命を脅かします。だから免疫力を上げましょう」などと続きます。

 前回お話したように、がんにも免疫が働くことは確かです。「免疫監視機構」といって、がん細胞を免疫系によって排除する仕組みがあります。がん細胞が日常的に発生しているのはその通りなのでしょう。ただ、「1日に5000個」って、どうやって数えたのでしょうか?ずっと気になっていました。

 原典を引用しているサイトがないか、インターネットで検索してみたところ、興味深いことが明らかになりました。1日に発生するがん細胞の数がサイトによって異なるのです。冒頭で紹介した「1日に5000個」が一番ポピュラーでしたが、その他に、「数百から数千個」「毎日1000~2000個」「毎日1000~5000個」「毎日2000~4000個」「毎日3000個」「毎日3000~5000個」「毎日3000~6000個」「毎日4000~6000個」「毎日5000~6000個」「毎日1万個以上」「数万個から数十万個ほど」などという記述が見つかります。

 見つけた中で一番数字が大きいのは「毎日100万個」というのがありました。小さい方は「毎日数個」。幅が広すぎでしょう。引用元を明示しているサイトはほとんどなく、明示していても論文ではなく一般書でした。おそらく、それぞれのサイトで伝言ゲームのように引用し合ううちに、数字を盛ったり、書き間違えたりしたのではないかと考えられます。

 英語圏まで広げて検索してみましたが、一次文献までさかのぼることはできませんでした。いろんな情報を総合すると、フランク・マクファーレン・バーネットというオーストラリアの医学者が、突然変異の起こる確率、がん細胞の発生に必要な突然変異の数、一日に分裂する細胞の数などから推測したようです。それぞれの数字は仮定に基づくものですから、一日当たりに発生するがん細胞の数もかなり大雑把な推測に過ぎません。インターネットで検索して出てきた数字がバラバラなのは、ある意味、事実に即しているのかもしれません。

 なお、免疫力を上げるためにいろいろな方法が推奨されていますが、インターネットにはあてにならない情報もたくさんあるので注意してください。免疫力を上げたりがんを予防したりできることが証明された特定の食べ物やサプリメントはありません。

 がんの予防には、国立がん研究センターの「日本人のためのがん予防法 現状において推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法」(http://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html別ウインドウで開きます)を参考にしてください。食事については、「食事は偏らずバランスよくとる」「塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする」「野菜や果物不足にならない」「飲食物を熱い状態でとらない」です。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。