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 インターネットや書籍などで発信される健康・医療情報のなかには、科学的(あるいは科学を装った怪しい)主張があります。そうした情報を見極めるためのヒントをこの連載で解説してきました。そうした議論は、科学界においても行われています。過去のコラムでも触れたことがありますが、関心の高いテーマなので、改めて2013年に国際的な総合科学雑誌の「Nature」が取り上げた「Twenty tips for interpreting scientific claims(科学的主張を解釈するための20のヒント)」(※1)という記事について紹介したいと思います 。

 

 Nature誌の記事では、「科学的主張」を解釈する上での注意点として、科学に対する理解の向上を助けるためのヒントを分かりやすく解説しています。このヒント集は、政治家のみならず、公務員、政策アドバイザー、ジャーナリストなど科学や科学者に接点のある人達に対する教育の一環として取り入れるべきとも著者らは述べています。

 では、早速、科学的主張を解釈するための「20のヒント」を紹介していきたいと思います。

 

1.Differences and chance cause variation.(差異と偶然が変化の原因となる)

 現実の世界では、さまざまな変化がおこります。科学は、その変化について、「私達が見えている範囲」の中で、何がその変化の原因となっているのかの法則を見つけ出そうとします。そして、ある特定の指標を測定し、その値に違い(差異)がないかどうかによって検証していきます。

 例えば「なぜ、この10年で地球の気温は上昇したのか?」「なぜ、他の地域より多くの鳥が飛来してくるのか?」という事象をつなぎ合わせて、「地球の温暖化が、鳥の飛来に影響したのではないか?」といった具合に法則を見出そうとすることが該当します。

 しかし、鳥の生死に関わる要因は多岐にわたっています。つまり、世の中におこる現象は、数えきれないほど多くの因子が複雑に絡み合って刻々と変化している点を忘れてはなりません。

 ですから、変化の原因は、たったひとつの差異によって説明できるものではなく、偶然も含め多種多様であることを知っておく必要があります。

 

2.No measurement is exact.(正確無比な測定法はない)

 どんなに科学技術が進歩しても、全ての測定方法には、誤差が存在します。もしかすると、実際に起きている差異よりも、測定誤差の方が大きい可能性だってあるかもしれません。

 

3.Bias is rife.(どのような科学的データにも多くのバイアスが潜んでいる)

 バイアスとは、研究結果に「偏り」を生じさせ、本来の姿を歪(ゆが)めるものです。そもそも、研究には必ず目的があり、その目的のために、実験のデザインが組み立てられ、測定装置が選定され、データが集められます。ここで、よくよく考えてみると、既にこの時点で、「目的に沿った対象のみが選択されている」「測定には必ず誤差が生じる(前述の項目2)」など少なからずバイアスが存在している可能性があります。

 なお、バイアスには、多くの種類があります。細かく分類していくと、数十種類にもおよびます。主なものに「選択バイアス」「測定バイアス」「交絡バイアス」などがあります。

 詳しい解説は過去のコラムを参考にしてみてください。

比べることはなぜ重要か 

http://www.asahi.com/articles/SDI201709113281.html

 

4.Bigger is usually better for sample size.(サンプルサイズは通常大きいほうが良い)

 観測されたサンプルの数が多い方が、少ない時に比べて、有益で詳細な情報を得ることができます。至極当然のことだと思います。サンプル数が少ない極端な例は、「症例報告」と位置づけることができます。 症例報告には「バイアス(偏り)・偶然」が入り込み余地が大きく、情報としての信頼性が低くなってしまう欠点があることは、過去のコラムでも解説しました。

「症例報告」の意味を考える 

http://www.asahi.com/articles/SDI201709052928.html

 

5.Correlation does not imply causation.(相関関係は因果関係を意味するものではない)

 このヒントは、とても重要ですが、つい忘れがちです。二つの要因の間に「相関関係」が観察されただけなのに、そこに原因と結果(「因果関係」)を意味付けてしまうのは、人間の性(さが)かもしれません。

 「『AはBと相関している』ゆえに『AがBの原因である』」と早合点して意味を解釈せず、まずは、以下のことを気をつけてください。

 1)偶然の一致:「AとBは、直接の関係はなく単に同時に起こっただけ」

 2)因果の逆転:「AがBの原因ではなく、BがAの原因である」

 3)交絡因子:「第三の要因Cが、AとBの原因かもしれない」

 具体例については過去のコラムでとりあげていますので興味のある人は確認してみてください。

相関関係と因果関係の違いに注意 

http://www.asahi.com/articles/SDI201709203719.html

 なお、少し横道にそれますが、「疑似科学」「ニセ科学」といわれるような領域では、この相関関係を巧みに用いて、さも因果関係があるかのように自説を主張していることが多くあります。ときに、テレビや新聞などの一般メディアにおいても、このような誤謬(ごびゅう)をしている記事を目にすることがあります。

 「相関関係は因果関係を意味するものではない」

 本来は情報を発信する人が気をつけるべき注意点なのですが、情報を受け取る人も是非身に付けておきたい知恵(情報リテラシー)のひとつだと思います。

 

6.Regression to the mean can mislead.(平均への回帰は誤解を招く可能性がある)

 「平均への回帰」という、ちょっと難しい用語が出てきました。ですが、将棋の藤井聡太四段が朝日新聞のインタービューで、この言葉を使ったので、聞いたことがある人もいるかもしれません。

20歳の頃、比べものにならない強さに 藤井四段が語る

http://www.asahi.com/articles/ASK6V0BQTK6TUCLV014.html   

 身近な例で考えてみると、例えば、特別に寒い日(あるいは暑い日)があっても、次の日には過去のデータから算出された平均値に近くなるようなことは皆さんもお分かりかと思います。このように、特に原因や理由があるわけではなく、普遍的な統計学的現象として「平均への回帰」は認められることが知られています。

 さらに気をつけておいてほしい点として、「回帰の誤謬(ごびゅう)」があります。例えば、特別に寒い日(あるいは暑い日)の深夜24時に北極星に向かってお祈りをしたら次の日に暖かく(涼しく)なったとしたら、どうでしょうか。お祈りのおかげで暖かく(涼しく)なったのでしょうか?ともすると、人間の心理の癖として、「お祈りが効いたのでは?」と原因と結果のように考えがちですが、単なる「平均への回帰」にすぎません。このような「回帰への誤謬」にも是非注意をしてください。

 

7.Extrapolating beyond the data is risky.(データを超えた推測は危険)

 動物で効果のあった薬は、ヒトでも同じように効果があるでしょうか?実際には、効果はない可能性のほうが高いです。つまり、このヒントでは、「『この薬は動物で効いたのだから、ヒトでも効くだろう』と安易に推測することは危険である」ということをメッセージとして伝えています。

 

8. Beware the base-rate fallacy.(基準となる率から誤った推測をしないように注意)

 「1+2+3+4+5+6+7+8+9+10」を暗算できる人は多くても、「1×2×3×4×5×6×7×8×9×10」を暗算できる人は少ないと思います(※足し算の答えは「55」、掛け算の答えは「362万8800」です)。人の脳は、数値の見積もりに弱い可能性があります。Nature誌の記事では、ある検査法が具体例としてとりあげられていました。

 「99%の正確性(信頼性)のある検査法で、非常にまれな病気を検査したところ『陽性』とでた。

仮に、この病気が1万人に1人しか罹らないような病気だとすると、『陽性』と判定されたとしても、本当にその病気にかかっている確率は1%にも満たない」

 これは、本当でしょうか?確認してみましょう。

 「1万人に1人が罹る病気」ということは、東京都民1300万人のうち1300人が患者ということになります。この検査法の正確性(信頼性)は99%ですから、東京都民全員に検査をおこなった場合、1300人x0.99=1287人が「陽性」と判定されます。ここで気をつけなければならないのは、病気ではないのに「陽性」と判定されてしまう1%の人数です。

 計算してみましょう。

 東京都民1300万人のうち病気に罹っていない人は、1300万人-1300人=1299万8700人となります。その1299万8700人の1%、つまり12万9987人が病気ではないのに「陽性」と判定されてしまいます。

 まとめると、この検査法で、東京都民全員を検査すると、1287人+12万9987人=13万1274人が「陽性」と判定されます。この13万1474人のうち、「本当に病気に罹っている患者」の割合は、1287人÷13万1274人x100=0.98%ということになります。

写真・図版

 つまり、99%の正確性(信頼性)の検査法で「陽性」と診断されても、検査の対象となる病気が非常にまれ(今回の例では1万人に1人)だった場合、本当にその病気に罹っている確率は、非常に低い(今回の例では1%に満たない)ということになります。

 

9. Controls are important.(対照群=コントロールは重要)

 下の図を見てください。

 

 「治療」をした後、時間の経過とともに体の状態が悪くなっていますが、一定期間は生存しています。この治療は、効いたのでしょうか、それとも効いていないのでしょうか。

 実は、これだけのデータでは答えは分かりません。

 しかし、「わからない」ということは、「どうとでも言えてしまう」という危険性をはらんでいます。

 つまり、その治療法を推奨している人にとっては、図中3.の説明を用いれば、どのような経過をたどったとしても治療の有効性を主張できてしまいます。補完代替療法を実践・推奨している人の中には、この論法を用いることがあるので注意が必要です。

 では、効いたのか、効いていないのかを明らかにするためにはどうすればよいのでしょうか。解決策の一つに、「治療をおこなわなかった時にはどうなるのか?」という対照群を設定し、治療をおこなった時と比較することが挙げられます。対照群の重要性は、過去のコラムでもとりあげましたので参照してみてください。

比べることはなぜ重要か

http://www.asahi.com/articles/SDI201709113281.html

 

10.Randomization avoids bias.(ランダム化によってバイアスを避けることができる)

 「ランダム」とは日本語で「無作為」と訳します。つまり、人為的な操作が入り込まないという意味になります。

 ある治療法の効果を検証するために臨床試験を計画し対象となる集団を複数のグループに振り分ける際、研究者の立場からすれば、少しでも効きそうな人に、自分たちが検証したい治療法を実施して、少しでも良い成績を出したいというのが心情だと思います。例えば、「若くて元気な人=治療成績は良い」「高齢で様々な病気を抱えている人=治療成績は悪い」ということは容易に想像できるかと思います。しかし、この「研究者の心情」は、いわば「人為的」「作為的」言い換えると、「イカサマ」ということになってしまいます。つまり、これまで、このコラムで繰り返し説明してきた、研究の結果に歪みを与えてしまう「バイアス(偏り)」につながってきます。

 そこで、試験群と対照群が同じ特性を持つように試験の対象者を振り分けることが重要になってきます。そのため、対象者となる集団を「ランダム」に振り分ける方法(ランダム化比較試験)は、バイアスの入る余地が少なくなり、結果の信頼性が高くなります。逆に、ランダム化がおこなわれていない比較対照試験には、バイアスが入り込む余地が残っていることになります。

 ランダム化比較試験の詳細については、過去のコラムを参考にしてみてください。

「ランダム化比較試験」を知っていますか?

http://www.asahi.com/articles/SDI201709264149.html

 

 今回は、Nature誌に掲載された20個のヒントのうち10個について紹介してきました。次週は残りの10個について紹介したいと思います。

 

[参考文献]

※1.Sutherland WJ, et al. Policy: Twenty tips for interpreting scientific claims.Nature. 2013 Nov 21;503(7476):335-7.

 

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。