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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半、独身一人暮らし)のお話を続けています。前回までに、おっくうな仕事を期限内に終わらせるためには、ステップをこまかく分けて計画を立てることが大切、ということをご紹介しました。(リョウさんは架空の人物です)

 ところで、世の中には、計画立てに関するさまざまな方法論がありますね。書籍や、テレビや雑誌の特集などもたくさんあります。なぜでしょうか。

 それは、計画を「立て続ける」ことが難しいからです。

 

 例えば、毎年先延ばしにしがちで、私たちの頭を悩ます大掃除や年賀状づくり。重い腰を上げて、計画を立ててとりかかったおかげで、今年はうまくいったとしましょう。「こんなふうなら、来年はもっと早くから計画を立てて、大掃除にとりかかろう」と決意したとしても、次の年も同じように計画を立てられるとは限りません。

 一度うまくいったことでも、それが続くかどうかはまた別の問題なのです。

 

 ADHDの方の時間管理の支援で最も難関なのも、この「続ける」という作業です。

 これまでも解説してきたとおり、ADHDの方の脳は、「新しいもの」によってやる気が湧いてくるのが特徴でしたね。反対に、日々の「ルーチンワーク」には「やらなくちゃ!」「義務!」と思っても、なかなかやる気が湧いてこないのでした。

 計画立てを実践する具体的なツールとしてスケジュール帳を買って、一度使い始めたものの、忙しさがピークを迎えたり、3カ月ほどたったりした頃などに、ふとスケジュール帳を使うことや、計画立てそのものに疲れてしまう瞬間が訪れることがあります。

 

 こうした計画立てに対する疲れの背景にはいくつか原因が考えられます。

①飽きてしまった

②目の前のことをこなすのに精一杯で計画立てまでエネルギーがまわらなくなった

③計画倒れに終わることが多く、「どうせ無駄だ」と思っている

④やることが多すぎて、目を背けていたい

⑤もともと気乗りしないことだから、それをリストアップしてしまったら、やらざるを得なくなりそうで、いやだ

 

 こうした問題を抱えるADHDの方を対象に、私たちは今、スケジュール帳を使って時間管理のコツを学ぶ臨床研究を進めています。そこで今回は、この研究に興味を持って下さり、手帳を提供していただいている、能率手帳でおなじみの手帳メーカー「株式会社NOLTYプランナーズ」(以下NOLTY社)の高梨文明社長に、「計画立て疲れ」への対策についてインタビューした内容をご紹介したいと思います。

 NOLTY社は、手帳の企画販売だけでなく、中高生を対象に手帳を使って生活習慣や学習習慣を身につけるプログラムを学校向けに提案されている「時間管理のプロ」でもあります。

 

 ――「①飽きずに」計画を立て続けるコツはありますか。

 高梨社長: ある男子中学生は、手帳に書き込む計画をすべて、自分で作った31種類の記号で記入していました。自分で作った記号を使って計画を立てることで、手帳で計画をたてるのが楽しくなり、飽きることがなくなったそうです。イラストやお気に入りのシールなどを使うのもいいと思います。

 また、手帳そのものを自分のお気に入りにする方法もあります。表紙を自分仕様にデコレーションするのです。透明ビニールの表紙であれば中に自分で描いたイラストを入れたり、お気に入りの写真を入れたりできます。また手芸で使うスパンコールなどを使って表紙をデザインしてみる方法もあります。飽きずに手帳を使うことができますので、計画をたてることも苦にならなくなるのではないでしょうか。

 また、あまりに無理をして「計画を立てなければ」と思って手帳を開くよりは、手帳を開いて、眺めながら、「最近はどういうすごし方だったかな」とか「今日はどんな嬉しかったことや達成感をもったことがあっただろうか」などと振り返るのです。その「ついで」に将来の計画を立てるといった流れを組んで、プレッシャーを減らすのも手ですね。

 

 ――「②目の前のことをこなすのに精一杯で、計画立てまでエネルギーがまわらなくなる」という場合はどうしたらよいでしょうか。

 高梨社長: 漠然と目の前のことに追われてしまう原因は、やることがはっきりわかっていないことにあります。忙しく、不安な気持ちになってしまっているのではないでしょうか。そのような時は一度立ち止まり、自分がやることを「棚卸し」するのがよいと思います。自分がやることがわかると、自然と、忙しいと思う気持ちがなくなります。そして漠然とした不安もなくなります。その時に「棚卸し」をした自分のやることを時間軸に落とせば計画になります。

 

 ――「③計画倒れに終わる」ことを防ぐにはどうしたらよいでしょうか?

 高梨社長: 計画倒れに終わってしまう背景には、そもそもの計画が漠然としていることがあります。計画は、ある目標に対してそれを達成するためのタスクです。言い換えれば、to do リストです。タスクやto do リストは、実際の行動レベルまで落とす必要があります。

 たとえば企画書を作成する場合、計画として「企画書を作成する」としてしまうと、納期ぎりぎりに作り始めて結局納期に間に合わないことがあります。この場合、まずは企画書をつくるまでにどのような行動があるかを考えます。たとえば対象になる「市場についてネットで調べる」「顧客へインタビューしてニーズをまとめる」「企画書をパソコンで作成する」など、企画書をつくるまでには様々なやる事があります。これら、やるべき事をなるべく小さな仕事に分解して、タスクとして整理し、それぞれのタスクに日付をつけることで計画倒れがなくなります。

 

 ――やるべき事を、小さなステップに分けるのですね。では、「④やることが多すぎて、目を背けていたい」という気持ちになってしまった時の対処法は。

 高梨社長: ③と同じようにタスクを細分化して取り組むのがいいのではないでしょうか。

 また、「そもそもこれは本当にやるべきことなのか?」「目的はなにか?」「やらずにすむ方法もあるのではないか?」という視点から、やること自体を見直す作業もよいでしょう。習慣化していて、やらなければならないと思っていることでも、意外と余計に背負い込んでいるかもしれません。

 

 ――「⑤もともと気乗りしないことをリストアップしてしまうと、やらざるを得なくなりそうで、気が進まない」という場合もあります。

 高梨社長: たとえばダイエットだったり、片付けや掃除などであれば、ひとつはできたときの自分を具体的にイメージするのがよいと思います。イラストにするのもよし、目指す人や事の写真を手帳に貼り付けるのもよいです。それができるだけいつも目につくところにあると自然とやる気も出ます。手帳ですと、前見返し(はじめにある少し厚めの紙のページ)にあると、手帳を使うときに自然に目に入ります。これによりいつも目指すものが見えて前向きに動けるようになるのではないでしょうか。

 もうひとつは、できたら自分にご褒美を用意しておくのもよいと思います。終わったら目いっぱい好きなことをする。そのためにちょっとがんばってみるという心持ちになれば気乗りしないものにも取り組めると思います。

 そんな気乗りしないことをやり遂げることのできた「新しい自分」をイメージしてみるのも、やる気を引き出す方法です。やらなければならないことと引き換えに手に入るものが何かあるかもしれません。

 

 いかがでしたか?

 スケジュール帳を用いた計画立てを続けるヒントがたくさんありましたね。このコラムでご紹介してきたようなto doリストやスモールステップのお話も出てきましたね。

 ちょうど来年の手帳が店頭にならぶ季節です。今度こそ、途中で挫折しない時間管理を目指してみませんか?

 

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。