[PR]

 米国の食品医薬品局(FDA)が8月、「CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法」という免疫細胞療法を承認しました。B細胞性白血病が対象です。臨床試験では、他の治療法に乏しい患者さんの80%超が寛解に至ったそうです。

 がん免疫療法をめぐっては、日本でも最近、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)などの本当に効果の療法が保険適用になりました。ニボルマブは、「免疫チェックポイント」と呼ばれる免疫のブレーキ役の分子と結合することで効果を発揮します。

 一方、自費診療クリニックで行われていたがん免疫療法は、ニボルマブのような薬ではなく、生きた細胞を使うものもあります。免疫細胞療法と呼ばれます。患者さんから採血して得た免疫細胞を培養・増殖させて体に戻したりします。正直言って、値段が高いわりにいまいち効果がありません。がん細胞は免疫系から逃れるような仕組みを持っているためでしょう。

 これまでのあまり効かない免疫細胞療法と、米国で認められた新しいCAR-T療法との決定的な違いは、体に戻す免疫細胞の遺伝子を改変していることです。つまりCAR-T療法は、免疫細胞療法であると同時に遺伝子治療の一種でもあるわけです。患者さんから取り出した免疫細胞であるT細胞に遺伝子操作を施すことで、がん細胞に結合しやすくさせます。

 ニボルマブも画期的な薬ですが、それでも生体内で作用のある分子と結合して阻害するという薬のメカニズムはよくあるお馴染みのものです。一方、遺伝子を操作した細胞を使うCAR-T療法は「来ているな、未来!」という感じです。お値段も高いです。47万5000ドル、約5200万円だそうです。

 副作用はもちろんあります。がん細胞だけが持つような都合のよい目印(抗原)はそうそうありません。今回承認されたCAR-T療法は、より正確には「小児及び25歳以下成人の難治性または2回以上の再発を認めるB細胞性急性リンパ芽球性白血病」が対象で、B細胞が持つ抗原を攻撃します。だからこそB細胞性白血病に効くのですが、正常なB細胞も巻き添えとなって攻撃されてしまいます。B細胞はガンマグロブリンを造る作用がありますので、副作用の一つに低ガンマグロブリン血症があります。

 理論的には、攻撃対象となる抗原を変えればB細胞性白血病以外のがんにも効くはずです。ただし、がん細胞が多く持ち、正常細胞があまり持っていない抗原を探す必要があります。つい最近、大阪大学のチームが、CAR-T療法の治療対象として有望な多発性骨髄腫のがん抗原を発見したというニュースがありました。(「血液がん治療、新たな免疫療法で」http://www.asahi.com/articles/ASKC724Q5KC7UBQU001.html

 こちらはまだ動物実験の段階ですが、研究が進み、多発性骨髄腫の患者さんが救われるようになることを願っています。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

こんなニュースも