[PR]

 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半、独身一人暮らし)のお話を続けていきます。リョウさんは、なかなか朝早く起きることができずにいました。本当は6時に起きることができれば、ちゃんと朝ご飯を食べることができたり、服を納得いくまで選んだり、身だしなみを整えたりすることができるはずなのです。

 しかし、実際には、ゲームで夜更かししていて、何度も目覚ましを止めて、ようやく7時過ぎに起きて、朝食をとる暇もなく、ボサボサの髪のまま家を飛び出すのが常です。

 こんな調子なので、午前中はいつも調子が出ません。

 同じ部署の、きれいにブローされて手入れの行き届いた髪の女性を見ると、自分がとてもみじめな気持ちになります。トイレの鏡でむくんだ顔の自分を見るたびに嫌になります。頭もうまく働かず、仕事に集中できません。おなかもすいてきて、お菓子をつまんでみますが、余計身体がきつくなるばかりです。

 

写真・図版

 みなさんにも朝起きられないという悩みはありませんか。

 特にこれほど冬の寒さが厳しくなってくると、布団から出たくなくなりますよね。

 目覚ましのスヌーズ機能に甘えて、毎朝葛藤している方もいらっしゃるかもしれません。

 今回は、どうしたら早起きできるかを、ステップを追って考えてみます。

 

STEP1.前の晩、少しでも早く寝る。

 当たり前のことのようですが、早く寝るためにはまず、自分の「夜更かしタイプ」を明らかにして、タイプに応じた対策をとる必要があります。

 

 【過集中タイプ】 ゲームがやめられないなど、好きな活動に没頭(過集中)して、夜更かししてしまう。

   >>時計をみて、実際にかかっている時間を意識する。ゲーム開始時にタイマーをかけておく。

 

 【日中の計画が終わらないタイプ】 日中にすべきことが計画的にこなせていないため、夜遅くまでそれに追われる。たとえば、「あ!明日までに子どもの体操服にゼッケンをつけなきゃいけなかったんだ!」と深夜0時を回って気づく、などがそうです。

   >>日中にやるべきことをto-doリストにまとめ、先延ばしにせずに計画的に片づける。

 

 【夜だけは自分の時間タイプ】 日中に仕事や家事や育児などに追われて、全く自分が好きにできる時間を持つことができなかった人が、「夜だけは誰にも邪魔されずに好きにできる」とのびのびして夜更かしに至る。

   >>自分の時間を日中にもつことができないか、発想を変えて検討してみる。

 

 【現実逃避タイプ】 「翌日苦手な人と顔を合わせなければならない」などの気の進まない用事がある場合に、「もうこうやって起きていれば永遠に明日が来ないような気がする」と夜更かしして現実逃避をする。

   >>現実逃避は問題をこじらせるだけなので、「避けたいほど嫌で怖い問題」と早めに向き合う。1人が無理なら、誰かに一度その気持ちを吐き出したり、一緒に取り組んでもらったり、励ましてもらったりする。

 

 →これで朝起きることができれば、OK

 →寝た時間に関係なく朝起きられない場合には、STEP2へ

 

STEP2.もう少し早寝を続けてみる

 睡眠習慣を変えるのは、案外大変なことです。1日、2日早く寝ることができても、やることに追われている場合には、毎日早く寝るのは難しいことでしょう。「夜9時に寝る」などの大幅な変更は、お仕事や家庭の都合上無理もあります。「今より10分でも早く寝る」ことから始めることが長く続けられる秘訣です。まずは2週間ほど試して、様子を見てみてください。

 →これで朝起きることができれば、OK

 →それでもまだ朝起きられない場合には、STEP3へ

 

STEP3.早起きする理由を改めて考えてみる。本当に起きる必要がありますか?

 朝、これまでどおりの時間に起きると確かにバタバタでギリギリだけど、それで死ぬわけではないし、なんとか生活が回ってきたという場合には、がんばって早起きする必要がないのかもしれません。

 では、それが一生続くとどうなるでしょう? いつも、「こんなはずではなかった」という身だしなみと、身体に悪い食べ物と、集中できないまま過ごすことで、長期的にはどんな結果が待ち受けているでしょう? 自問自答してみるのです。

 →これで早起きを決意できて、改善できれば、OK

 →それでもどうしても起きられない場合には、STEP4へ

 

STEP4.起きないととんでもないことになる必然性をあえて、作る。

 朝起きた時のご褒美をつくる作戦を、私はさまざまなADHDの方におすすめしてきましたが、効果のあった方は一握りでした。たとえば、「朝●時までに起きることができたら、プリンが食べられる」といったぐあいに、朝起きたご褒美を設定したとしても、「プリンよりも、少しでも寝たかった。」と食欲より睡眠欲が勝ることが多いようなのです。睡眠欲は食欲と並ぶ生理的欲求のひとつですから、なかなか強力なのです。

 そこで、あえて早起きしなければどうにもならない環境を自分で設定してしまうという荒ワザをご紹介します。

 たとえば、

 「明日までに書かなければならない書類を夜書くのではなく、明日の朝5時に起きて書く」

 「朝5時にテレビ電話の英会話レッスンを予約する」

 「家族に1万円札を預けて、朝5時に起きることができなかったら、あなたにあげると宣言する」

 「朝5時に大音量でリビングのテレビがついてしまう(オンタイマー)」

 「朝5時に仕上がるように洗濯機を予約する。早く干すかたたむかしないと洋服がしわになる」

 

 なかなかハードな設定だと思います。皆様にとって、これは厳しいようにみえるかもしれませんが、長年早起きができないことで自分を責めて、家族に責められてきたADHDの方からすれば、「かえって、楽になった」「たすかる」と言われることが多いです。

 

 第三者に協力してもらう方法もあります。ADHDの方の多くが、「家族以外の誰かに見てもらう緊張感」に非常に助けられるとおっしゃいます。

 例えば、「朝起きて仕事に行く前に朝ご飯を食べる時間を持つ」ことが目標である場合に、もし、通院中の医療機関の主治医やカウンセラーがOKしてくれるなら、毎朝、時計と朝食を並べて写真にとって、食べる直前に主治医やカウンセラーにメールをすると、張り合いを持って取り組むことができます。

 医療機関などとかかわりのない方におすすめなのは、同じようなADHDの特徴をもつ仲間の存在です。こうした仲間同士で「早起き同盟」を作って、メールやLINEなどの即時性のある通信手段を使いながら、「今起きたよ」とか「起きて今日はこれができたよ」とかやりとりできれば、こんな強いものはありません。ポイントは3名以上で実施するよりは、2名でやりとりするのをおすすめします。3名以上のコミュニケーションでは、オンラインの場合はとくに、ついつ受け身になってしまうからです。逃げ場をなくして、励まし合いながらできるとよいですね。

 

 「そんなに大げさに対策しないとは朝起きられないのか?」なんて心ない人の言葉は、はねのけましょう。ADHDの人の場合、他の人が当たり前のようにしている、そう難しくなさそうな日常の行為に対して、そのくらい特別な対策が必要なこともあるのです。その代わり、他の人にはまねできないほどに能力を発揮できた分野もあったはずです。

 「どうしてこんな当たり前のことができないんだろう」と、自分を責めてきた方もいるかもしれません。自分自身にとって、難しいことであれば、大げさと言われようとも有効な方法が見つかるまで模索することは、とても前向きなことではありませんか?

 

 今年の目標に「早起き」を挙げていた方で、達成できなかった方は、ぜひともお試しください。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。