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患者安全を求めて

 皆さん、はじめまして。今回から、「患者安全を求めて」というコラムを連載させていただくことになりました勝村久司です。本職は高校の理科の教員ですが、子どもの医療事故をきっかけに、さまざまな市民運動に関わってきました。近年、医療にも、様々なリスクがつきまとっていることが意識され、医療安全という言葉が広がってきました。しかし、まだまだ、患者の視点が重視されているとは言えず、患者への情報提供も不十分だと思います。「ペーシェント・セーフティ」、つまり患者安全を求めて、まずは、出産に関連するお話から始めて行きたいと思います。

 昨年(2016年)の一年間の出生数は、ついに100万人を切って、97万6978人となりました。うるう年だったので366日で割ると2669人となります。つまり、全国で毎日、赤ちゃんは2669人ずつ生まれていることになるわけですが、実は、日によって、生まれる赤ちゃんの数は大きく異なっているのです。例えば、昨年(2016年)12月の出生数は、厚生労働省の人口動態統計によると以下のグラフのようになっています。

 平日の出生数が多く、土日や休日は少ないことがわかります。特に、火曜日が最も多く、日曜日が最も少なくなっています。2016年一年間を通した火曜日の出生数の平均は3124人、一方、日曜日の出生数の平均は1916人で、その差は1200人以上になっています。また、同じ火曜日でも、年末になるほど出生数が増えていくのがわかります。一方、その後の大晦日やお正月の間は、ずっと休日が続いて、出生数が少なくなります。

 下の図は、2015年12月から2016年1月にかけての出生数のグラフです。

 12月30日から1月3日まで、5日間連続で出生数が少なくなっており、特に、大晦日とお正月三が日は4日間連続で2000人を切っています。また、この年は、天皇誕生日が週の真ん中の水曜日であったために、年末に出生数が大きく乱高下してジグザグになっています。特に12月25日と、その二日後の12月27日は、倍以上の開きがあります。なぜ、このようなグラフになるのでしょうか?

●予定帝王切開と計画分娩(分娩誘発)

 出産の曜日に偏りが出る理由は二つ考えられます。一つは帝王切開です。何らかの理由で最初から予定されていた帝王切開は、平日にされることが多いからです。厚生労働省の医療施設調査によりますと、全出生数の約20%が帝王切開で、同省の社会医療診療行為別統計によりますと、その帝王切開の4割強が緊急帝王切開になっています。つまり、最初から予定されている帝王切開は、全出生数の12%くらいだと考えられます。その数を平日の日数で割ると、平日の出生数のうちの400~500人くらいが予定帝王切開だと考えられます。

 それでは、予定帝王切開の数を引いても、曜日の偏りが残る理由は何でしょうか?それは、子宮収縮薬(陣痛促進剤)などによる、計画分娩(分娩誘発)です。その数は公式に発表されていませんし、子宮収縮薬は妊婦が知らない間に使われることも少なくなかった薬で、正確な使用実態はよくわかりません。産科医の中には、「人手の少ない休日や夜間の出産になるより、子宮収縮薬などを使って平日の昼間に出産を誘導した方が安全だ」と考えて、子宮収縮薬を積極的に投与する人がいます。一方で、安易な計画分娩(分娩誘発)は、かえって出産を危険にしている、と考える産科医もいます。

 いずれにせよ、これらの曜日の偏りは、医療が手薄になる土日や休日の出産を避けるために起こっています。あらかじめ、どの出産が土日や休日になるかはわかりませんから、自然にまかせておけば土日や休日の出産となった分だけに、帝王切開や計画分娩という医療介入がなされているわけではありません。逆に、土日や休日の出生数は、それらの医療介入が全くなかった場合の数である可能性があります。つまり、平日の出生数のうちの、土日や休日の出生数よりも多い分には、何らかの医療介入がなされていると考えられないでしょうか。

●年末年始の出産で注意すべきこと

 年末年始や、ゴールデンウィーク、秋のシルバーウィークなど、土日や休日が続く時期は、出生数の変動は特に大きくなり、中でも、年末年始は最も大きくなります。このような時期に出産が迫っている人が、安全のために注意すべきことは何でしょうか。

 2009年から始まった、公益財団法人「日本医療機能評価機構」が運営する「産科医療補償制度」では、出産時の事故で重度の脳性麻痺になった事例を全て原因分析し、それらを元に事故の再発防止に取り組んでいます。その役割を担う、同制度の再発防止委員会は、毎年一度、「再発防止に関する報告書」をまとめ、公表しています。そしてこの報告書が公表されるたびに、計画分娩によく使われる子宮収縮薬に関連する問題が報道されてきました。十分な説明や同意がないまま、子宮収縮薬が投与されている事例が報告されていたからです。どういうことでしょうか。

 現在3種類ある子宮収縮薬の添付文書には、「患者に本剤を用いた陣痛誘発、陣痛促進の必要性及び危険性を十分説明し、同意を得てから本剤を使用すること」と赤字で明記されていますが、それが守られていないケースがあることが指摘されているのです。それを受けて、子宮収縮薬を販売している製薬企業も、たびたび医療関係者向けに注意喚起をしてきましたが、今年(2017年)8月にも、「適正使用に関するお願い」として必要性や危険性を十分説明し、同意を得てから使うことなどを呼びかける文書を一斉に発信しました。主なものは以下の通りです。

○プロスタグランジンE2錠の「適正使用に関するお願い」(科研製薬)

https://www.pmda.go.jp/files/000219120.pdf別ウインドウで開きます

○アトニン-O注の「適正使用に関するお願い」(あすか製薬)

https://www.pmda.go.jp/files/000219118.pdf別ウインドウで開きます

 上の「プロスタグランジンE2錠」は、白い錠剤を1時間おきに1錠ずつ口から飲む薬です。十分な説明をせず、妊婦の同意をとらない事例では、「子宮口をやわらかくする薬」という説明だけで投与される場合がありますので要注意です。下の「アトニン-O注」は、点滴の中に入れられる薬です。点滴がされる場合は、中に何が入っているかを聞くと良いでしょう。正式名称で聞いておけば、インターネットで検索することもできます。

 薬には必ず副作用がありますので、それ以上のメリットがあると考えられる場合に使用すべきです。出産を控えている人は、子宮収縮薬を使用するかどうかを必ず医師に確認しておきましょう。そして、「使用する」と言われた場合には、必ず、その「必要性」と「危険性」について十分に説明を受け、わかりにくいことは質問した上で、同意するか否かを決めるとよいでしょう。特に、個人ごとに、必要性や、危険性は異なりますから、一般的な説明ではなく、それぞれの妊婦や胎児の状況に応じた説明をしてもらうことが大切です。

 子宮収縮薬のアトニンの添付文書には、冒頭に赤字・赤枠で目立つ形で、「本剤の感受性は個人差が大きく,少量でも過強陣痛になる症例も報告されているので,…(略)」と記載されています。同様に、現在の子宮収縮薬に関する注意の記述には、「感受性の個人差が大きい」旨が常に出てきますが、どれほどの差があるのでしょうか。

 1990年1月に日本母性保護医協会(現日本産婦人科医会)が発行した「産婦人科医療事故防止のために」という冊子には以下のような記述があります。「オキシトシン(筆者注:アトニンなど)の感受性は個人差が大きく、同量でもほとんど陣痛の起こらない症例から過強陣痛になる症例まである。すなわち感受性の幅は、0.5mU/minから128mU/minと極めて広く、僅少でも過強陣痛の起こる可能性がある」。つまり、子宮収縮薬がどれだけ影響を及ぼすのかの個人差は200倍以上と言われているのです。もし、その影響が大きく出やすい妊婦の場合は、強過ぎる陣痛によって子宮破裂など命が危険な状況になったり、子どもが重度の脳性麻痺になったりするリスクに気をつける必要があるのです。

 こうしたことを考えると、知らない間に子宮収縮薬を使用されることは絶対に避けるべきだということがわかります。そして、必要性と危険性の説明を受けた上で、子宮収縮薬を使用することに同意した場合は、妊婦に付き添う家族も、子宮収縮薬について詳しくなっておくべきです。「プロスタグランジン」や「アトニン」などの薬名でインターネット検索すれば、薬の説明書きである添付文書も見ることができますので、目を通しておくと良いでしょう。

 「再発防止に関する報告書」で検索をすれば、報告書も読むことができます。産科医療補償制度のホームページでは、既に、1600件を超える原因分析報告書の要約版も公表されていますが、子宮収縮薬使用時に、その使用に関する添付文書やガイドラインの規定を全てきちんと守っている場合は、ほとんど事故が起こっていないこともわかってきました。また、「再発防止に関する報告書」には、子宮収縮薬を使った場合の分娩の監視がどうあるべきかも記載されています。

 幸せの瞬間である出産が不本意なものとなってしまわないために、患者側が安全のための知識を持っておくことはとても大切なことだと思います。(妊娠した場合の医療機関の選び方等については、改めて別稿で書く予定です。)

 追記:産科医療補償制度は来年、制度創設から10年目を迎えますが、創設時から、原因分析委員会の委員長を務められてきた岡井崇医師の突然の訃報に接しました。産科医療事故の原因分析によって、再発防止と医療の質の向上に努めてこられたことに改めて敬意を表すると共に、謹んでご冥福をお祈りします。

<アピタル:患者安全を求めて>

http://www.asahi.com/apital/column/anzen/

(アピタル・勝村久司)

アピタル・勝村久司

アピタル・勝村久司(かつむら・ひさし) 医療情報の公開・開示を求める市民の会 世話人

京都教育大学理学科卒。高校教師。長女の医療事故をきっかけに市民運動に関わる。厚生労働省「中央社会保険医療協議会」、群馬大学病院「医療事故調査委員会」などの委員を歴任。現在、産科医療補償制度「再発防止委員会」委員。著書に「ぼくの『星の王子さま』へ~医療裁判10年の記録~」(幻冬舎)など。