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 ヨウコさんとメグミさんは内科病棟で働く看護師です。様々な場面を通して、少しずつアンガーマネジメントのスキルを身につけています。

 今回の場面は2人が働く病棟のナースステーションです。後輩のサトウさんの仕事の様子にイライラしているヨウコさんが、同僚のメグミさんに声をかけています。

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ヨウコさん: サトウさんが、○号室のAさんと話し込んでいて、戻ってこないのよ。昼食の配膳時間が迫っているのだから、ちゃんと時間をみて動いてほしいわ。

メグミさん: Aさんはちょっと話が長いけど、丁寧に話を聞くのは良いことじゃないかな。

ヨウコさん: でも、患者さんはAさんだけではないのだから、一人に時間がかかり過ぎると、他の患者さんにケアが行き届かないでしょ。話が長くならないように切り上げないと。

メグミさん: Aさん、検査の結果を気にしているみたいだし、不安が強いのかもね。

ヨウコさん: 昼食の配膳時間に戻ってこなければ、他のスタッフにも迷惑がかかるわ。

メグミさん: そうかなぁ・・・。配膳は私たちだけでも対応できるし、サトウさん、がんばっていると思うけど。

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 なかなかナースステーションに戻ってこないサトウさんに対して、ヨウコさんは、「一人の患者さんの対応に時間をかけ過ぎている」と怒っています。一方でメグミさんは、「丁寧に患者さんの話を聞いている様子を温かく見守りたい」と感じているようです。

 私たちは自分が怒っているとき、同じ状況なら他の人も怒るだろうと考えがちです。でも、怒りは自分の中に引き金があり、同じ状況に対して怒る人もいれば、怒らない人もいます。

 この引き金は、「コアビリーフ」といって、自分が正しいと信じていること、心地よいこと、期待していることなどの価値観です。これは自分にとって当たり前なことなので、普段は意識しにくいのですが、「○○すべき」あるいは「××すべきでない」といった表現に当てはめることができます。自分がこうすべきと思っていることと異なる現実に対して怒りが生じるのです。

 「コアビリーフ」については、以前のコラムで解説していますので参考にしてください。

 ▼怒りの核心に迫る(2017年5月30日) https://www.asahi.com/articles/SDI201705296511.html

 

 人の価値観は多様で、ひとつの場面をいくつもの価値観に照らして判断しています。

 ヨウコさんの怒りの引き金はどのような価値観でしょうか。

「業務のタイムマネジメントをするべき」

 ヨウコさんは、昼食の配膳時間が迫っていることが気になっていました。仕事をする上で時間管理をしっかりしてほしいという思いが強いようです。

「患者さんへのケアにかける時間は平等にすべき」

 複数の患者さんを受け持つ業務のなかで、一人に時間をかけることで他の患者さんにケアが行き届かないことも気になっています。

「配膳はスタッフ全員でするべき」

 ヨウコさんにとって配膳は重要な業務のようです。食事を楽しみに待っている患者さんのために速やかに配膳したい、配膳はスタッフ総動員という認識が強いのかもしれません。

 

 では、メグミさんにはどのような価値観があるのでしょうか。

「患者さんの訴えは丁寧に聞くべき」

 メグミさんは、対応に時間がかかっても患者さんの話を丁寧に聞くことが大事と考えています。

「患者さんの状況に応じて柔軟に対応するべき」

 また、不安の強い患者さんがいれば、対応に時間をかけることも必要と考えています。

「業務は手の空いているスタッフが協力してカバーするべき」

 サトウさんが配膳時間に戻ってこられなくても、手の空いているスタッフがお互いに補い合えば良いと考えれば、怒ることなくサトウさんの対応を見守ることができますよね。

 

 看護の仕事は自分の予定通りに進むことばかりではありません。患者さんの話を一定時間で切り上げることが必要な時もありますし、時間がかかってもその場でしっかり対応することが必要な時もあります。ヨウコさんの価値観も、メグミさんの価値観も全て正しいのですが、実際には全て思い通りにはいきません。

 怒りが生じたときは、自分の価値観を振り返る良い機会です。どんな価値観を持っているのかを考えてみてください。また、周りの皆が同じ価値観を持っているとは限りません。ヨウコさんとメグミさんのように、話したり聞いたりすることで、自分や相手の価値観がみえてくることもあります。違う物の見方や考え方もあるのかと気づくことができれば、怒りが少し落ち着くかもしれません。

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 ささいなことが目に付いて、すぐにカッとなって同僚や上司や患者さんたちについ口を出してしまうヨウコさん。これに対して、ついつい相手に合わせてしまい、自分の気持ちを表に出せないメグミさん。2人が、怒りの感情とうまく付き合っていくためのヒントを、一緒に考えていきましょう。 (ヨウコさんとメグミさんは架空の人物です)

 

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◆編集部から

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<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。