[PR]

 健康と要介護の中間を「フレイル」と呼ぶ。そのフレイルを高齢者自らが確認する「フレイルチェック」が各地に広がっている。体の状態だけでなく、社会との関わりを含む日常生活全般を見つめ直すことで、より活動的になることを促す取り組みだ。3年前から導入している神奈川県茅ケ崎市を訪ねると、「タ、タ、タ、タ、タ」と奇妙な声が聞こえてきた。

 1月中旬、茅ケ崎市内の体育館。おそろいの黄緑のTシャツ姿の人たちが設営準備に追われている。フレイルチェックを支える「フレイルサポーター」の13人だ。あいにくの雨だったが、開始予定の約30分前には参加者が来場。会場全体が活気にあふれている。

 この日の参加者は60歳~80歳代の28人。進行役の大海(だいかい)正春さん(58)が、パンフレットを手にフレイルの説明を始めた。「フレイルとは、年をとって活力が低下した状態のことです」。そしてすぐに、「簡易チェック」が始まった。

指輪っかテストでリスク判定

 簡易チェックは、「指輪っかテスト」で行われる。両手の親指と人さし指で一つの輪を作り、ふくらはぎを囲むという簡単なテストだ。「ズボンの裾を上げてやってみて下さい」と大海さんが声をかけると、参加者が次々とかがみ込んでふくらはぎに指をあてていく。ふくらはぎが太くて輪っかで囲めない場合や、ぴったり囲める場合には、用意された紙に青いシールを貼る。輪っかの方が大きく、隙間ができてしまう場合は赤いシールだ。

 フレイルチェックを作った東京大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授によると、ふくらはぎが細い人ほどフレイルの度合いが進んでいる。千葉県柏市で約2千人を対象に実施した調査では、隙間ができる人の総死亡リスクが、輪っかでふくらはぎが囲めない人の3・2倍だった、との結果も出ているという。

ご飯、誰かと一緒に食べてる?

 その次は「イレブンチェック」だ。「栄養」「口腔(こうくう)」「運動」「社会性・こころ」の4分野11項目について、当てはまるかどうかを確認していく。サポーターの高木強子さん(61)が「さきいかやたくあんの硬さの食品をかみ切れますか」「1日に1回以上は誰かと食事をしますか」などと読み上げる。当てはまれば青のシール。そうでなければ赤のシールを貼る。青いシールばかりの人や、赤いシールがまじる人など、用紙は色とりどりだ。

 参加者の一人、岩田力さん(65)はすべての項目が「青」だった。仕事をリタイアした後、週5回ペースでテニスをしているスポーツマン。「改めて自分の状態をチェックしたかったので参加しました。これは楽しいですね」と手応えを感じている様子だ。

滑舌を測定、口まわりの元気度を調査

 最後に「深掘りチェック」へと進む。握力や体組成計を使った筋肉量の確認。さらに、フレイルチェックが重要視する、口まわりの元気度をみる滑舌の調査もある。かんだり飲んだりする力が落ちると、食べ物がのどに詰まりやすくなりがちだ。そこで、のみ込むための筋力が低下していないかをみる。「タ」と「カ」を1秒に6回以上発音できれば合格。参加者は専用の計測器の前で必死に「タ、タ、タ、タ、タ……」と声をあげていた。

 5年前に仕事を辞めたという平牧千枝子さん(69)は、滑舌の成績があまりよくなかったという。「以前はお遍路に行くほど元気だったけど、最近は歩く機会が減っていた。もっと体を動かさないとだめですね」とこぼす。

2015年度以降、800人が参加

 まもなくチェック項目がすべて終了し、大海さんが振り返りの言葉を投げかけた。「指輪っかテストや、滑舌をよくする唾液(だえき)腺のマッサージは自分でもできます。ベッドの上でもいいのでぜひやってみて下さい。あと、カラオケでもいいので自分にあった活動を見つけて、元気に過ごして下さい」。こうして2時間弱のフレイルチェックは終わった。

 茅ケ崎市では2017年度に計15回のフレイルチェックを予定している。事業開始の15年度以降、総参加者は約800人。18年度も継続し、参加者が再びフレイルの度合いを確認できるようにするという。担当する同市企画経営課の古賀正明さんは、「市民のセカンドライフをサポートすることは自治体の大事な仕事。フレイル対策は欠かせない」と話す。

支える側にも貴重な機会

 一方、サポーターにとってもフレイルチェックは大切な場だ。高木さんは、自宅で母(92)の介護をしながら参加している。「勉強になるし、リフレッシュにもなる。こういうやりがいのある取り組みを続けていきたい」。東京に職場がある大海さんにとっては、地域とつながる貴重な機会でもある。「退職が近づいてくる中で、地元のつながりを持てることがありがたい」という。

 いまフレイルチェックは自治体事業として千葉、東京、神奈川、和歌山、福岡などに広がっている。飯島教授は「フレイル対策は健康寿命をのばすことにつながる。自治体や元気なシニアとともに、フレイルチェックを市民運動として広げていきたい」と語る。

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/野瀬輝彦