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【まとめて読む】患者を生きる 妊娠高血圧

 待望の第2子の最初の妊婦健診で「妊娠高血圧」を指摘された富山市の公務員渡邉広乃さん。自宅で血圧を測り、食事では減塩を心掛けるなど、日常生活でも注意を続けました。しかし5カ月後、胎動を感じなくなるという異変が。仕事で重要な節目を迎えていたこともあって悩みましたが、やはり病院へ行くことに。この時はまだ、深刻な事態が迫っていたことに気付いていませんでした。

 

血圧150台、胎動感じられず

 富山市の公務員渡邉広乃(わたなべひろの)さん(32)は、待望の第2子を授かり、職場に近い富山市民病院で妊婦健診を受けた。長男晃広(あきひろ)くん(6)の出産から約3年半が過ぎた2015年8月のことだった。

 そこで高血圧を指摘された。上の血圧(収縮期血圧)は130台後半に達し、すぐに降圧剤を飲むように言われた。

 一般に妊婦は高血圧になりやすい。体質によっては深刻化することもあり、胎盤の機能が低下するなどして早産や死産を招きやすくなる。さらに悪化して尿たんぱくが出る「妊娠高血圧腎症」になると、母子ともに命にかかわる。

 晃広くんを出産した時も血圧は140台に上がった。入院せずに出産にこぎ着けたが、産後の3カ月間は降圧剤を飲み続けた。

 幸い、前回と同じように今回の検査でも尿たんぱくは出なかった。医師と相談し、降圧剤を飲みながら様子を見ることになった。

 ただ、「さらに血圧が上がるようなら、別の病院に移ってもらうことになります」と忠告された。病院に、未熟児を受け入れる新生児集中治療室(NICU)がなかったからだ。

 妊娠してもできるだけ仕事は続けたい。そう思っていたため、職場に近いこの病院はありがたかった。昼休みに受診して、午後は職場に戻ることができた。病院を移ればそうもいかなくなる。

 「そうならないよう、自分なりに努力しよう」。購入した血圧計で自分で血圧を測り、食事も減塩を心掛けた。

 ところが、最初の健診から5カ月後、自宅で測った血圧が何度か150台を示した。

 「ちょっとおかしいかも」。そう思いつつ、深呼吸で気分を沈め、血圧測定を何度か繰り返した。すると、少し低い値が出る。「大丈夫」と言い聞かせて気にしないようにした。

 数日後、それまでおなかの中で元気に動いていた赤ちゃんの胎動が、感じられなくなったような気がした。

 「さすがにおかしい」。産休入りまで残り1カ月。職場で進めてきた重要な節目が5日後に迫っていた。迷ったが、仕事を休んで病院に向かった。

 

血圧が急に上昇、緊急入院

 富山市の公務員渡邉広乃さん(32)は、第2子の最初の妊婦健診で高血圧を指摘された。5カ月近く降圧剤を飲みながら血圧をコントロールしていたものの、おなかの中の赤ちゃんの胎動が感じられなくなった。2016年2月1日、職場を休んでかかりつけの富山市民病院を受診した。

 検査の結果、高血圧に加え、これまで出ていなかった尿たんぱくも検出された。早産の危険性が高まり、新生児集中治療室(NICU)がある病院に移ることになった。

 胎動が感じられなかったのは不安だったが、自分の体には全く自覚症状がなかった。翌日、自分で車を運転して富山大付属病院に向かった。玄関で看護師が車いすを用意して待っていた。

 「そんなおおげさな」。その時はそう思ったが、測定してもらった血圧の数値を聞いて、そんな気持ちは吹っ飛んだ。上(収縮期)と下(拡張期)の値は、それぞれ188、129にまで上昇。かつてないほど高い数値だった。

 渡邉さんを診た富山大助教の米田徳子(のりこ)医師(40)は、「いつ脳出血を起こしてもおかしくない状態」と判断。高血圧が悪化し、腎臓の働きも悪くなる「加重型妊娠高血圧腎症」の疑いが強まった。母子ともに危険な状態になりかねず、すぐに緊急入院するよう指示した。

 渡邉さんは、特にリスクが高い妊婦に対応する母体・胎児集中治療管理室(MFICU)に搬送された。米田さんたちが24時間態勢で様子を見守る中、改めて降圧剤の点滴を受けるなどした。

 治療の効果もあり、上の血圧は140~160台に下がった。超音波診察でも、胎児に特に問題は見つからなかった。

 ところが、入院3日目の朝、胎児の心拍監視モニターのデータに異変が見つかった。心拍が急激に低下する徐脈が2回も起きていた。渡邉さんの尿たんぱくも増えており、腎臓の働きがさらに弱まる兆候がでていた。

 「すぐに帝王切開で出産して、赤ちゃんの治療を始める必要があります」。米田さんは、渡邉さんにそう告げた。

 

母子とも危険、帝王切開

 第2子を妊娠していた2016年2月、高血圧が悪化して緊急入院した富山市の渡邉広乃さん(32)。富山大付属病院で、腎機能が低下する重症の「加重型妊娠高血圧腎症」と診断された。胎児は、心拍が急激に弱まる徐脈を起こしていた。母子ともに危険と判断され、帝王切開で出産することになった。

 この時、妊娠29週目。おなかの中の赤ちゃんはどんなふうに成長していくのだろう。生まれた後は家族でどうやって迎えようか――緊急入院する前、そんなことを想像しながら出産予定日を楽しみに待っていた。

 それが、いきなり出産することになり、すべてが断ち切られたように感じた。その一方、たまたま胎動の異変を察知できたのは幸運だったと感じた。「気付いてよかった」と安堵(あんど)した。

 すぐに家族を呼ぶように言われて、夫の勝広(かつひろ)さん(42)に連絡を取った。その約1時間前、午前中の診断後に「問題なさそう」と連絡したばかりだった。勝広さんは、驚いて病院に駆けつけた。

 勝広さんに手伝ってもらい、手術の同意書にサインした。その際、手術法について医師に一つだけお願いした。生まれてきた我が子をすぐに見られるよう、全身麻酔ではなく、下半身の部分麻酔にしてほしい。そう申し出た。

 2月4日午後3時34分、出産。生まれてきた第2子ゆまちゃんは1109グラムだった。少しだけ抱くことができた我が子は軽くて小さく、すぐに新生児集中治療室(NICU)に連れていかれた。

 「まずは、よかった」

 ベッドの上で横になりながら、生まれてきてくれたことに感謝した。

 翌日、NICUの壁のガラス越しにゆまちゃんの姿を見た。小さな体にたくさんの管がつながれていた。医師は「状態は安定しています。今のままなら大丈夫ですよ」と言ってくれた。

 「高血圧にもっと気を付けるべきだったのではないか。せめて、自分の体やこの子の異変にもっと早く気付いていたら……」

 自分を責めるような気持ちがわき上がってきた。(田之畑仁)

 

懸命な娘を見て前向きに

 富山市の渡邉広乃さん(32)は、妊娠中に高血圧が悪化し、さらに腎臓の機能も低下する「加重型妊娠高血圧腎症」と診断された。妊娠29週目で緊急入院し、帝王切開で第2子の長女ゆまちゃん(1)を出産。1109グラムで生まれた我が子を前に、「もっと体調に気を付けるべきだった」と自分を責める気持ちになった。

 特に気になる自覚症状がないまま緊急入院したが、よく思い返すと心当たりはあった。入院前の診察で、医師から「目がチカチカしませんか」と何度も聞かれた。そう言えば、何度かそんな経験をしていた。

 「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる症状で、高血圧がかなり進んでいたことを示す。脳出血、胎盤の早期?離(はくり)や機能不全といった深刻な事態につながった可能性があり、「母子ともにかなり危険な状況だった」と医師から言われた。

 さらに、自宅で測った上の血圧が150台に達していたにもかかわらず、低い数値が出るまで何度か測り直して自分を納得させていたことも思い浮かんだ。

 出産後、高血圧の症状はだいぶ和らいだ。すぐに母乳が出るようになり、搾乳を始めた。出産5日後、管を通して与えた母乳を、ゆまちゃんが初めて飲んでくれた。

 「くよくよしてなんかいられない。母親として、できることをしっかりとやろう」

 小さな口で一生懸命に母乳を飲むゆまちゃんを見て、前向きに気持ちを切り替えようと思えるようになった。

 ゆまちゃんは、肺の成熟を促す治療など未熟児向けの標準的なケアを受けた。出産2カ月後の2016年4月には、早産に伴う網膜症の手術を受けた。その後は特に深刻な異常は見つからず、5月に退院できた。

 昨夏にあった1歳半の発達健診。ゆまちゃんは、身長・体重こそ通常の赤ちゃんより小さめだが、現時点での成長は基準の範囲内と診断された。「問題ない」と言ってもらった。人見知りをほとんどしない明るい性格で、すくすくと育っている。

 次の発達健診は3歳。「これからも明るく成長していってほしい」。そう願っている。

 

情報編 出産後に高い再発リスク

 妊娠・出産は、母体に相当の負担がかかる。

 胎児に酸素や栄養を送るため、母親の血液の量は妊娠前の1・5倍程度に増える。通常は血管が広がることで対応できるが、血管に動脈硬化などの問題があると血圧が上昇し、妊娠高血圧症候群になる。もともと血圧が高い人はもちろん、高血圧とは無縁だった人でも注意が必要だ。

 妊娠中の血圧の急上昇は、母親の脳出血や心筋梗塞(こう・そく)などの危険に直結するだけでなく、胎児にも悪影響がある。まだ詳しい仕組みはわかっていないが、胎盤の剥離(はく・り)や機能不全を引き起こす恐れがあり、最悪の場合は胎児の死亡にもつながりかねない。

 治療は簡単ではない。通常の高血圧では、降圧剤などでできるだけ血圧を下げることを優先させるが、妊娠中は血圧を急に下げすぎると胎児に影響が出かねない。

 日本妊娠高血圧学会は昨年9月、妊娠高血圧症候群の定義と分類の改定を提案。これまで重症の目安とされていた尿たんぱくが出ていなくても、子宮・胎盤の機能が落ちている場合などは重症の「妊娠高血圧腎症」と見なすことを求めている。齋藤滋・理事長(富山大教授)は「重症とみられる患者が少しでも早く入院し、適切な治療を受けられるようにすることが大切。産婦人科医と内科医の連携をさらに進めていく必要がある」と話している。

 妊娠高血圧になった人は、出産後に高血圧を再発する可能性も高い。渡辺員支(かず・し)・愛知医大准教授らは、愛知県内で集団健診を受けた40歳以上で出産経験のある1185人を調査。妊娠高血圧だった人は、そうでなかった人に比べて、高血圧を再発して降圧剤を飲むリスクが4・28倍あったという。

写真・図版

 

 一方、妊娠高血圧と診断された人に出産後、禁煙・運動・食事などの指導を行った結果、脳卒中や心臓病になるリスクが健康な人と同じ水準まで低下したとする海外の研究報告もあるという。

 渡辺さんは「妊娠高血圧は、自分の体を知るきっかけにもなる。リスクを正しく知り、早期発見・早期治療につなげることが大切」と話す。

 

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<アピタル:患者を生きる・妊娠・出産>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(田之畑仁)

田之畑仁

田之畑仁(たのはた・ひとし) 朝日新聞記者

1998年朝日新聞社入社。富山支局、田園都市支局、東京本社・大阪本社科学医療部などを経て、2010年4月からアピタル編集部員。