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 米国でもインフルエンザが猛威を振るっています。今シーズンでは、インフルエンザに関連した子どもの死亡がすでに37人に達したと報道されています。インフルエンザ関連死は、インフルエンザによるウイルス性肺炎、脳炎、心筋炎による死亡のほか、インフルエンザ感染後に起こった細菌性肺炎などや、もともと持っていた基礎疾患の悪化による死亡も含みます。

 「子どもが何十人も死ぬなんて、今年のインフルエンザは恐ろしい」とお考えの読者もいるでしょう。確かに今年は例年と比較してハイペースではありますが、米国では、今年だけではなく毎シーズン、インフルエンザに関連して100人前後の子どもが亡くなっているのです。

 米疾病管理予防センター(CDC)のサイトに、ここ4シーズンの小児(18歳未満)死亡のグラフがありました。

 2014~2015年のシーズンは148人でした。以降、92人、110人ときて、現時点(2018年1月31日)での今シーズンの死亡は37人です。もともと健康な人がインフルエンザにかかって亡くなることはまれなのですが、なにぶんインフルエンザにかかる人の数が多いため、死亡に至るケースもこれだけの数になるのです。

 CDCはインフルエンザワクチンを接種するよう呼びかけています。ワクチンは小児インフルエンザ関連死を予防するのでしょうか。また、予防するとしてその効果はどれぐらいでしょうか。2017年に、米国における小児の死亡に対するワクチンの有効性の研究が発表されています(※1)。

 インフルエンザによる死亡はめったに起こらないので、ワクチンによる死亡の抑制効果をランダム化比較試験で評価しようとすると何十万人もの対象が必要になり実現は困難です。また、これまでの研究でワクチンに一定の効果は認められていますので、ワクチンを打たない対照群を設定することは倫理的にできません。よって、この研究は対象をワクチン群と対照群に研究者が振り分けるのではなく、「観察研究」といって起きた現象を観察して解析する方法で行われました。

 インフルエンザが直接の死因なのか、それとも別の病気が直接の死因となのか、区別はしばしば難しいです。たとえば、肺炎球菌による細菌性肺炎を合併して亡くなった場合、直接の死因がインフルエンザウイルスなのか肺炎球菌なのか、区別は困難です。ただ、インフルエンザの疫学的な影響を評価するときには無理に区別はしません。直接の死因だろうとなかろうと、インフルエンザウイルスに感染しなかったら死亡しなかったであろうとは言えますので、インフルエンザ関連死として数えます。

 2010年7月から2014年6月の間に報告されたワクチン接種状況がわかる小児(生後6カ月から17歳まで)のインフルエンザ関連死は291人でした。うち75人(26%)がワクチンを接種していました。一方、同時期の同様の年齢の子どものワクチン接種割合は48%でした。

 この時点でわかるのは、ワクチンを接種してもインフルエンザで亡くなることもあることと、しかしワクチンを接種していればその確率を減らすことができそうだということです。

 数学的な手法でワクチンの有効率を計算すると65%でした。小児に対してワクチンを接種すると、しない場合に比べて、インフルエンザ関連死を65%減らすことができるという意味です。

 比較試験と比べると、観察研究はバイアス(偏り)が多くなり、エビデンスレベルとしては低くなります。しかしながら、インフルエンザワクチンに関するそのほかの知見(インフルエンザの感染や発症を減らす、など)を合わせると、ワクチンがインフルエンザ関連死を減らすのはほぼ確かと言えます。

※1. Flannery B et al., Influenza Vaccine Effectiveness Against Pediatric Deaths: 2010-2014., Pediatrics. 2017 May;139(5).

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。