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 お家で食べる米は何を選んでいますか? 選ぶ基準は人それぞれだと思います。私はここ数年、福島県喜多方市の山間部で、江戸時代から続く農業用水路を守って耕作している農家の方々のお米を買っています(余談ですが、この方々の取り組みについては昨秋こんな記事<※1>を書きました)。

 福島県は2016年産米の食味ランキングでコシヒカリが全県で特Aを獲得するなど、米の名産地。私がいただいているお米もモチッとした食感とうまみがあって、ついつい食べ過ぎて困るくらい。けれど、東京電力福島第一原発事故以降、店頭での存在感は薄れ、回復できないままの状況が続いています。

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から来月で7年。福島県は、2012年度から行ってきた県産米の放射性物質検査について新しい方針を決めようとしています。

 2011年、県産米の一部で、当時の基準値を超えるセシウムが検出される事例があったため、翌12年から福島県はすべての県産米を対象にして、放射性セシウムの濃度を出荷する前に測定する検査を続けてきました。

 収穫した後、生産者やJAが玄米を米袋に入れて検査場に運び、検査機を通します。県内には約170の検査所が置かれ、検査機器は約200台。約1700人の検査員が携わって毎年1000万点以上を測っています。

 12年産米には1キロあたり100ベクレルの基準値を超えるものが71点(全体の0.0007%)ありましたが、15年産以降、基準値の超過は発生していません。状況をまとめた表を見るとわかりますが、年々濃度も低下しており、17年産米では検査機で検出できる下限値(1キロあたり25ベクレル)未満が99.9989%を占めています。

 

写真・図版

 これは、セシウムの物理的減衰(放射線を出す力が自然に弱まること)、土にセシウムが吸着して動かなくなっていること、そして徹底した吸収抑制対策が行われた結果です。セシウムの濃度が高い水田の場合は表土を除き、稲がセシウムを吸わないよう、吸収を抑えるカリウムを多く散布、稲わらをすきこんで土づくりをするなどの対策をしてきました。

 基準値以下でも比較的高い値が出た場合には詳しく調べて、原因を究明してきました。ゴミが混じっているためだったり、必要な吸収抑制対策をしておらずカリウム不足の水田であったり。県水田畑作課の大波恒昭課長は「2011年の時は、なぜ高濃度のセシウムが検出されるのかわからなかったが、今は稲や土中でのカリウムの動き方も明らかになってきて、対策は確立している。たとえ万一、高い値が出たとしても、なぜそうなったかを追究できる」と話します。

 こうした状況から、今年度、福島県は今後の検査のあり方について検討を進め、1月に「全量全袋」からモニタリング検査に切り替える方針を明らかにしました。他の作物と同じく、市町村や地域ごとに無作為で抽出した一部を測る方式です。切り替える時期は2~3年後を予定しており、3月末までに、時期も含め詳細を正式決定することにしています。

 取材をして私が驚いたのは、福島県で全量全袋検査を行っていることを知らない人が県外でとても多いことでした。県が実施した昨年9月のインターネット調査によると、関東地方に住む20~60歳代の男女約2000人のうち、「毎年1000万点以上を検査していることを全く知らなかった」という人が73%に達していました。検査結果の内容を全く知らない人も76%。

 11年、放射性物質による食品への影響を案じ、検査しなくては安心して食べられないと結果を注視し、多くの人が情報を求めたのに、もう、忘れ去られてしまったの? 正直、その落差に愕然としたのです。

 福島県産米を消費者がどうとらえているのか知りたくて、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也・特任准教授を訪ねました。風評被害を研究し、福島県内外で消費者の意識調査を続けており、福島大学うつくしまふくしま未来支援センターの客員准教授でもあります。

 関谷准教授らが昨年2月に実施した全国調査(20~60歳代男女約9500人を対象)で、全量全袋検査を知っている人は、福島県民では79%、県民以外では40.8%。ほぼ全てが検出限界値未満であることの認知率は、福島県民で50.3%、県民以外は17.5%でした。検査が行われていることも、その結果も県外に知られていない。この状況は3~4年前から変わっていないと関谷准教授は話します。

 福島県産は積極的に避けているという人は県内で12%、県外で19.8%。以前の調査と比べると減ってきており、県民以外でも76.3%が「特に産地を気にして購入することはない」と答えました。拒否感は薄らいでいます。

 しかし、事故後、主食用のシェアは他産地に奪われ、流通側もいったん他産地との取引が始まってしまえば、あえて福島産に戻す動機に乏しい。その結果、福島県産米は「安全でおいしくて安い」と中食・外食などの業務用に使われる率が高くなったまま。「気にしないという消費者が増えても、身の回りに売られておらず、選択肢がないのです」と状況を説明します。

 「必要なのは、全量全袋検査を行っていること、そして検査結果は検出限界値以下がほとんどであることを全国の消費者に知ってもらうこと」だと関谷准教授は言います。不安が薄らいだ理由に、「話題にならなくなった」「何となく」「いつの間にか気にしなくなった」というふんわりしたものをあげる人が県内に比べて県外で多い。「何となくではなく、事実を知り理解して、福島県産米を店頭に置かないのはおかしい、福島産に問題はないという世論を確立することが大事です」と。

 「新しい検査に移行するまでの間に、福島県がこれまできちんとやってきた検査の成果をどれだけ県外の人々に周知できるか。これで、福島県産米の今後20~30年間が決まるのではないでしょうか」

 6年間測り続けた全量全袋検査の結果は、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のサイト<※2>で公開されています。

 個人的には、結果を知って「問題ない」と思う消費者はそのことを声に出して販売する人や周りの人に示していくことが、固定化している状況を変える一歩にならないかと思います。「店で見れば買うかもしれないけれど、見かけないから」と思っているなら、そのことを何かの形で伝えてみる。消費者にもできることがあるのではないでしょうか。忘れて無関心になってしまわぬように。

 

関連リンク

※1 (みちのものがたり)本木上堰 福島県喜多方市 江戸時代からの水路を応援

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13241687.html

※2 ふくしまの恵み安全対策協議会のサイト

https://fukumegu.org/ok/contents/別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)