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 医療現場で治療方針を決めるといった意思決定をする際、医療者側は患者に病状や治療法などを分かりやすく説明しなければいけません。一方、患者側は医療者から提示された正確な情報をもとに、自身が納得のいく判断をする必要があります。そうした意思決定を支援する取り組みも始まりつつありますが、まだまだ十分とはいえない現状があります。今回は、意思決定の場面に足りないことは何かを考えてみたいと思います。

▼医療の不確実性は、意思決定において迷いを生じさせる原因となる

▼患者の意思決定を医療者が後押しするために「大丈夫」という言葉が必要

▼患者には医療の不確実性を受け入れる覚悟が必要

 健康・医療情報をどう見極めるか、つまり、正確な情報とは何か?ということが、治療方針の決定といった意思決定の場面では重要です。そうした観点では、この連載で繰り返し述べている通り、「研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べる「ランダム化比較試験」の結果が「正確な情報」になります。

 

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 しかし、ランダム化比較試験をいくら繰り返したとしても、今後医学がどれだけ進歩したとしても、「100%確実に病気が治る」という完璧な治療法が開発されることは残念ながらありません。これは、ランダム化比較試験で有効性が証明された治療を受けたとしても、病気が治る人と治らない人がいることを意味します。つまり、「正確な情報」には、医療としての「不確実性」が必ず伴います。つまり、白なのか黒なのかと言われれば「灰色(グレー)」と言わざるを得ません。

 その一方で、その治療を「する・しない」という決断・行動は、白黒がはっきりとしています。つまり、「灰色(グレー)(※ただし、正確な情報)」の情報から、「白黒」の決断・行動の意思決定をおこなわなければなりません。

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 そして、この意思決定においては、医療者と患者が、お互いの価値観や経験を踏まえて、よく話し合って治療方針を決めていくことが求められており、最近では、医療現場における意思決定を支援する取り組みも始まっています。

 

◎「説明と同意」だけ?インフォームド・コンセントの意味(https://www.asahi.com/articles/SDI201801241789.html

 

 それでも、治療方針を意思決定する際に、なかなか決められない人、決めた後に迷いが生じる人が、まだまだ多いという現状を医療者や患者さん自身から聞くことがあります。場合によっては、医師が提示する治療方針を受け入れることができず、健康食品などの補完代替療法に傾倒してしまう患者さんもいます。

 もちろん、意思決定を支援する取り組みが、まだ十分に浸透していないことが原因かもしれません。しかし、個人的には、それ以外にも原因があるのではないかと考えます。

 ここからは全くの個人的な私見になりますが、医療現場でのコミュニケーションにおいて、医療者側・患者側ともに欠けている言葉や足りない視点について述べたいと思います。

医師が言いたくても言えない言葉

 いま医療現場に求められているのは、医師の「大丈夫!」という一言ではないかと考えます。もちろん、無責任に「大丈夫、大丈夫」と言えばいいわけではありません。

 また、「この治療が効かなかったとしても、次の選択肢があるから大丈夫」「もし副作用が出ても、きちんと対処するから大丈夫」といった「条件付きの大丈夫」でもありません。

 ここでの「大丈夫」は、患者さんに無条件に安心感を与える、あるいは受ける治療を心から納得してもらうための「大丈夫!」です。つまり、結果がどうなろうと、他人がどう言おうと、悩んだ末にあなたが選んだのなら、その選択は間違っていませんよ、と後押ししてあげるのです。しかし、医師の多くは、治療方針を決定する際に、患者さんに対して通常「大丈夫」などと言いません。

 それはなぜでしょうか?

 医師は患者に治療方針の説明をする際に、科学的根拠(エビデンス)に基づいた情報を提供します。ランダム化比較試験などの結果である科学的根拠(エビデンス)は、重要な情報であることは間違いありませんが、あくまで統計学的な数字でしかなく、「効く・効かない」といった白黒はっきりつけられるものではありません。前述の通り、白か黒かと問われたら「灰色(グレー)」ということになります。

 科学的根拠(エビデンス)は、どの治療法が確率的に優れているかということを示す判断材料に過ぎません。また、目の前にいる患者さんが、臨床試験の結果(統計)に示された多数の患者と同じ経過をたどるのかは誰にもわかりません。つまり、医療には必ず不確実性が伴うため、「あなたは100%治る」「絶対に大丈夫」などとは安易に言えない事情があります。

 ですが、命にかかわるような選択をしなければならないとき、医療の不確実性は、患者さんにとって、迷いや悩みの原因以外の何物でもありません。治療方針の意思決定における患者さんの精神的負担は相当なものだと思います。

 そんなときに、医師から「この治療方針で大丈夫」と少し後押ししてもらえたらどうでしょうか。もしかしたら、迷いが解消するかもしれません。

 もちろん、「大丈夫!」という言葉は、医師と患者との間に相互の信頼関係があることが前提です。医療者は、意思決定において、単なる情報を提供する中立的な立場にとどまるのではなく、一緒に治療方針を決める当事者・パートナーであることを意識してもらえたらと思います。そのうえで、「大丈夫!」の一言が、患者さんの意思決定における精神的負担を軽くできる有効な方法ではないかと私は考えます。

 

患者側に求められる覚悟

 良くも悪くも治療の結果の責任を身をもって負うのは患者さんですから、最終的な決定は患者さん自身がおこなわなければなりません。ただ、誤解しないでいただきたいのですが、自己責任論を振りかざそうとしているわけではありません。

 繰り返しになりますが、医学が進歩した現在においても、効果が100%で副作用が0%といった夢のような治療法は残念ながらありません。医療においては、常に「不確実性」が伴うことを知っておく必要があります。

 もちろん、人間の心は、そんなに強いものではありません。「医療の不確実性を許容し、覚悟を決めろ」と言われても、「はい、わかりました」と簡単にはいきません。

 そこで、「セカンドオピニオン」を活用することができます。

 セカンドオピニオンとは、患者さんが納得のいく治療法を選択することができるように、治療の進行状況、次の段階の治療選択などについて、現在診療を受けている主治医とは別に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることです。セカンドオピニオンを受けることで、主治医の意見を別の角度からも検討することができ、もし同じ診断や治療方針が説明された場合でも、病気に対する理解が深まることもあります。また、別の治療法が提案された場合には選択の幅が広がることで、より納得して治療に臨むことができます。

 主治医の説明(ファーストオピニオン)を聞き、さらに違う病院の医師からも説明(セカンドオピニオン)を聞くことで、患者さん自身あるいは家族も、納得して治療選択を行う。そのために「セカンドオピニオン」が活用されることに、私自身、異論を挟むつもりはありません。

 しかし、ときに「効果が100%」の治療法を探し求めてセカンドオピニオンを受けようとしているケースが散見されます。病気の進行度によっては治癒が困難な場合があります。しかし、自分が置かれた状況を無視して、ないものねだりのように治癒を目指すような治療法を探し続けても、納得する情報にたどり着くことはいつまでもできません。

 「セカンドオピニオン」「サードオピニオン」と「ドクターショッピング」を繰り返してしまうことになってしまいます。場合によっては、科学的根拠のない怪しげな治療法にだまされてしまうかもしれません。医療者側に足りない言葉として「大丈夫」を挙げましたが、世の中には患者の不安に漬け込むような怪しい「大丈夫」が氾濫していますので気をつけなければなりません。やはり、どこかの時点で、医療の不確実性を受け止める覚悟が患者さんには求められます。

 前回の記事でも取り上げましたが、決断・行動の意思決定をすることは、唯一の正解を選ぶということではありません。また、どのような判断をしたとしても「正しい・間違い」ということでもありません。

◎正しい情報と正確な情報、その違いは?(https://www.asahi.com/articles/SDI201801302065.html

 患者さんやその家族にとっては、厳しい意見になってしまうかもしれませんが、決断・行動の意思決定において重要なのは、選んだ結果を受け入れる覚悟なのだと思います。

<アピタル:これって効きますか?・健康・医療情報の見極め方>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。