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 インフルエンザにかかったら、他の人に感染させないように学校や会社には行けません。とくに学校については法律で出席停止の期間が定められています。季節性インフルエンザだと「発症して5日を経過し、かつ、解熱して2日を経過するまで」です。登校する前に医師が書いた「登校許可書」や「治癒証明書」といった書類を提出させる学校もあり、議論になっています。

 NHKニュースは「インフルエンザ『登校許可書』が波紋呼ぶ」と報じました。「学校で感染が広がることはできるかぎり避けたい。法律に基づいたものではないが、感染予防の観点から強くお願いしている」とする学校側の立場もある一方で、そうした書類は「簡単な診察や家族や本人から症状を聞き取って『治った』とするだけ」なので不要だとする医療機関の立場もあります。学校側の主張を知ることができ、よい報道だと思いました。

 実は2012年の『医心電信』でも「インフルエンザの治癒証明書は要らない」というコラムを書いています。このテーマは6年ぶり2回目です。私は最近では治癒証明書を書くよう求められることはめったにありません。地域によって差があるようです。

 法律では出席停止の期間は定められていますが、登校に際し医師の証明書が必要だとはしていません。校長先生が「保護者が体温を測り、解熱して○日たったと確認すれば登校してもよろしい」と決めればそうなります。インフルエンザが流行しているシーズンに、わざわざ書類をもらうためだけに再び受診するのは、単に面倒なだけではなくリスクもあります。また、夜間や休日にしか開いていない急患センターに受診した場合は治癒証明書の発行を断られることがあります。

 とはいえ「治癒証明書は必要だ」という意見があるのもわかります。多くの生徒を預かる以上は、インフルエンザを感染させないためにできるだけのことを行う責任が学校にはあるのでしょう。医師は医学的な観点から意見を言うことはできますが、最終的に判断するのは学校です。一医師としてはその判断に従います。

 その上で、意見を述べます。登校許可証や治癒証明書といった書類は医学的には不要だし意味がないと私は考えます。体温は家庭で測れますので、解熱して何日たったかは専門的な知識がなくてもわかります。また、医師が診察したところで、今現在の体温や体調はわかっても、解熱して何日たったかなんてわかりません。検査してもわかりません。家族や本人の申告を信じてそのまま書類に書くしかありません。「自己申告は信用できない。嘘をついて治っていない子どもを登校させる保護者もいるから、書類は必要だ」という声もありますが、そういう嘘を見抜く能力は医師にはありません。

 熱が下がればすぐに登校させたがる理由として、子どもの看病のために何日も仕事を休めない保護者もいるのでしょう。本来は、本人や家族が体調不良ならば気軽に休めるし、むしろ休む方が社会全体のためになるとみなが考えるの理想です。ですが、現実にはそうも言っていられないので、治癒証明書を要求する学校もあるのでしょう。ただ、そうなると「インフルエンザだと長く休ませなければならないし、治癒証明書をもらいにまた医療機関に行くことになって面倒だ。熱が出てもインフルエンザでないことにしよう」と考える保護者も出てくるのではないかと心配になります。

 こうして議論になることで、治癒証明書なんて誰も要求しない、理想的な社会に少しでも近づくことを願っています。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。