怒りにまかせて人を攻撃していませんか?
皆さんは怒ったとき、どんな怒り方をしますか? 怒りの引き金は自分の中にあり、「誰か」や「出来事」のせいではありません。でも、怒っているとつい、誰かに対して攻撃的になってしまうことがあります。
さて、内科病棟で働く看護師のヨウコさんとメグミさんは、少しずつアンガーマネジメントを実践しています。今回の場面はベテラン看護師のヨウコさんと若手看護師のサトウさんとのやりとりです。
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ナースステーションに、入院患者のAさんが訪ねてきました。「明日の検査について、サトウさんに確認を頼んでいたのですが、なかなか戻ってこないので……」とのこと。サトウさんは今、昼食休憩中です。
ヨウコさんはAさんにおわびをして、いったん病室へ戻っていただきました。休憩前に、サトウさんから特に引き継ぎはなかったのに、おかしいなと思いながら、ヨウコさんは休憩室に行ってみました。
ヨウコさん: Aさんが明日の検査について聞きたいと、あなたを探していたけれど、何か対応中のことがあるの?
サトウさん: そういえばそんな話をしていたかも。
ヨウコさん: (のんきな返事にイラッ)患者さんに頼まれたなら、ちゃんと対応しないと。
サトウさん: でも、わざわざ確認しなくても、検査は予定通りで何も特別なことはないですよ。Aさんが気にし過ぎなんです。
ヨウコさん: (イライラッ)私たちにとってはいつものことでも、初めて検査を受ける患者さんは不安なことだってあるでしょ。そういうときこそ丁寧に対応しなくてはいけないのに!
サトウさん: でも、患者さんはたくさんいるし、午後もいろいろと忙しいんですよ。Aさんだけに時間をかけてはいられませんよ。
ヨウコさん: (カッチーン!)そういう不誠実な態度ってどうなのかしら。困っている患者さんにすぐ対応しないなんて、あなたみたいな自分勝手な人とは一緒に働きたくないわ!
サトウさん: 自分勝手なのは、ヨウコさんも同じではないですか。私はいま休憩時間なのに、緊急でもないことで休憩室にまで来るなんて!
険悪な雰囲気になってしまいました。
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チームで仕事をしていると、考えが合わなかったり、意見が対立したりすることもあります。そんなとき、怒ってはいけないわけではありません。怒りが生じるのは、きっと何か自分が大事にしている価値観に触れたからです。でも、勢いにまかせて言葉を発してしまうと人間関係を崩してしまう危険性がありますから、怒るときは、少しコツをつかんでおく必要があります。
ヨウコさんの怒り方は、どこがいけなかったのでしょうか。改善ポイントを整理してみましょう。
・相手を攻撃しないこと
意見や考え方が異なるからと言って、相手を責めるような言動は控えましょう。怒るととことん相手を追い詰める、完全に打ち負かそうとする人もいますが、勝敗を決めるために怒るのは間違いです。
・人格を否定したり、決めつけたりしないこと
勢いにまかせて、確認しようとしている話題から逸(そ)れて相手の人格を否定するような発言をするのはいけません。不誠実だとか、自分勝手だとか、今回の出来事だけで決めつけてしまってよいのでしょうか。
今回ヨウコさんが大切にしたかったのは、「検査に不安のある患者さんを早く安心させたい」ということでした。それなら、サトウさんに早く対応してもらうように交渉する、休憩中のサトウさんに代わってヨウコさんが対応できるように引き継ぐなどの方法で対処できます。
「休憩から戻ったらすぐに対応してもらえますか」「検査について、私から説明しても良いかしら」など、患者さんを安心させるという目的から逸れないようにすることが大切です。
アンガーマネジメントでは、怒るときには上手に怒れるようになることを目指します。誰か相手がいるときには、怒りに任せて誰かを攻撃して傷つけたりせずに、「こうしてほしい」「これはやめてほしい」とリクエストとして伝えてみてください。
<上手に怒るための参考記事>
・上手に怒るとは(2017.7.11)
https://www.asahi.com/articles/SDI201707109404.html
・怒りを伝えるコツ「事実と感情を分ける」(2017.7.25)
https://www.asahi.com/articles/SDI201707240231.html
・怒りを伝えるコツ「お願いする(2017.8.8)
https://www.asahi.com/articles/SDI201708071207.html
・怒りを伝えるコツ「理由を添える」(2017.8.22)
https://www.asahi.com/articles/SDI201708171880.html
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ささいなことが目に付いて、すぐにカッとなって同僚や上司や患者さんたちについ口を出してしまうヨウコさん。これに対して、ついつい相手に合わせてしまい、自分の気持ちを表に出せないメグミさん。2人が、怒りの感情とうまく付き合っていくためのヒントを、一緒に考えていきましょう。 (ヨウコさんとメグミさんは架空の人物です)
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◆編集部から
田辺有理子さんの本が出版されました
タイトルは「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規、2160円)です。(詳しくはアマゾン:https://goo.gl/sxK6md)
<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

- アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ)精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士
- 横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。