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 この春、マーガリンメーカーがトランス脂肪酸対策を積極的にアピールしています。明治は、家庭用マーガリン類全商品の原料から、トランス脂肪酸を多く含む「部分水素添加油脂」を外し、3月にリニューアル発売。商品のパッケージにその旨のロゴを刷り込みました。雪印メグミルクも同様に3月から家庭用全商品を部分水素添加油脂不使用にしました。

 部分水素添加油脂は、マーガリンの固さ調整に使われる原料で、常温では液状をしている油に水素を添加して固形・半固形化した油脂。水素を添加する過程でトランス脂肪酸が発生します。

 トランス脂肪酸は、脂質の構成成分である脂肪酸の一種。過剰摂取すると、心筋梗塞などの冠動脈疾患を増加させる可能性が高いと指摘されています。世界保健機関(WHO)は、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるという目標を示しています。米国、デンマークなど摂取量が多い国で、含有量の規制や表示が義務づけられ、その影響で日本でも10年ほど前から表示の議論が起こり、食品安全委員会が日本人の場合の健康影響を調べるなど、注目を集めるようになりました。

 ただ、食品安全委員会によると、日本人の場合は平均値で総エネルギーの0.3%とWHOの目標を下回っていて過剰摂取になっておらず、「脂質に偏った食事をしている人は注意が必要だが、通常の食生活では、健康への影響は小さい」と結論を出しています(※1=本文末にURL)。

 それでなぜ今、改めてトランス脂肪酸低減をPRするのか。各社は米国での規制強化の余波を警戒してのことだと言います。

 今年6月以降米国では、部分水素添加油脂をGRAS(以前から食品に使われて安全とされる食品の区分)から外し、食品に使用する場合は米国食品医薬品局(FDA)の承認が新たに必要になります。明治によると、マーガリンはトランス脂肪酸を含む代表的食品としてあげられ、この問題が取りざたされるたびに消費が低迷、この5年で市場規模は100億円以上小さくなったといいます。雪印メグミルクも米国の規制強化方針が発表された2015年以降「トランス脂肪酸へのネガティブイメージが広がった」と。

 今年、米国の動きが話題になれば再び、「お客様に不安な気持ちが生まれると考えられる」(明治)。ならば積極的に、自社の取り組みを説明して知ってもらおう。打って出る道を選んだわけです。サイトや広告での情報発信にも力を入れるといいます(※2)。この方針、「かえってやぶ蛇になりはしないか」という業界関係者もいますが・・・。

 以前から食品メーカーは、自主的に食品のトランス脂肪酸削減に取り組んでいました。例えば、今回特にメッセージを出していないJオイルミルズのマーガリン「ラーマ」でも減らしています。現在、10gあたりのトランス脂肪酸は0.1g。これはリニューアルし、2005年の商品の9分の1にしたという明治の商品「コーンソフト」の含有量と同じ値です。

 「体に悪い成分を減らしたんだから、いい動きだ」。そう感じる方もいらっしゃると思います。ただ個人的には、日本でのトランス脂肪酸の問題は注目され過ぎなのではないかなあ、とモヤモヤを感じてもいるのです。こうした原稿を書いていて言うのも何なのですが。

 脂肪酸の中には、摂り過ぎると動脈硬化を促進し心筋梗塞などを増やす原因となる飽和脂肪酸というものもあります。肉や乳製品の脂質に多く含まれています。摂りすぎを防ぐため、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2015年版)では、成人で総エネルギー摂取量の7%以下と目標量が定められています(※3)。

 2010、11年の国民栄養調査によると30~49歳の値は、男性で6.6%、女性7.6%。女性は目標量を上回ってしまっています。日本人の場合、心筋梗塞などのリスクを減らすために脂質のとり方を考えるなら、トランス脂肪酸よりも飽和脂肪酸の方をより重視しなくてはならないはず。けれど、社会的にはトランス脂肪酸ほどの注目は集めていないように思います。なお、食事摂取基準ではトランス脂肪酸にも触れていますが、特に基準は示していません。

 ちなみにトランス脂肪酸を避けるにしても、食卓のマーガリンだけを気にするのは、的を射ていないようです。食事調査による日本人のトランス脂肪酸の摂取源をみると、マーガリンよりも、菓子類、パン類、油脂類の方が大きな割合を占めています(※4)。

 花壇の草取りをしていて、目の前の土から芽を出した小さな草を一生懸命抜いているのだけれど、その脇にある伸びた雑草に気がつかない……今の状況に、そんな連想が浮かんできます。

 似たような混乱は、食と健康の関係で数々あります。ちょうど2月に発行された『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(女子栄養大学出版部)は、世の中に出回る食と健康の情報を整理し、科学的に何がどこまで確かめられているのか、研究の結果を示しながら解き明かしています。「夏バテにはビタミンB1が豊富な豚肉を」は本当か、低糖質ダイエットは糖尿病の予防と管理に有効か、野菜1日350gの根拠は? など、一度は耳にしたことがある話題がいくつも。著者の佐々木敏さんは東京大学大学院教授で栄養疫学を専門とし、「EBN(科学的根拠に基づく栄養学)」を提唱。「日本人の食事摂取基準」の策定では中心的役割を担っています。

 実は昔、夏バテ対策に豚肉料理を紹介した記事を書いたことがある身、「うっ!」と胸に手をあてつつ頁をめくりました。どこに問題があるのか? ぜひ本をご覧になってみてください。

関連リンク

※1 食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について

http://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html別ウインドウで開きます

※2 明治のサイトはhttp://www.meiji.co.jp/dairies/transfat/別ウインドウで開きます

雪印メグミルクのサイトはhttp://www.neosoft-brand.com/別ウインドウで開きます

※3 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041824.html別ウインドウで開きます

※4 Yamada M,et al. Estimation of trans fatty acid intake in Japanese adults using 16-day diet records based on a food composition database developed for Japanese population. J Epidemiol 2010;20:119-27.

(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)