[PR]

 怒った勢いで相手に攻め込んでいく人がいる一方で、怒っているのに何も言えない人もいます。何も言わないからといって怒っていないのではなく、うまく表現できないだけという場合もあります。

 内科病棟で働く看護師のメグミさんは、職場で納得できないことがあってもその思いを上手に表現できず、それがまた自分をイライラさせる原因になっているようです。

+++++

 今日は朝から忙しく、担当の患者さんの検温をして、処置をして、検査の説明をして、あれこれやって、ようやくナースステーションに戻ってきました。点滴の準備をして、昼食までに食前の薬を配って、と業務の手順を考えながら、ワゴンに必要なものを詰め込んでいきます。担当の部屋に行こうとしたその時、ナースステーションの電話が鳴りました。

メグミさん:(誰か出てよ)

 心の中でそう思いながらも、まわりのスタッフも皆忙しそうにしているので、電話に対応します。電話は入院患者の家族からで、面談の時間を変更して欲しいという内容です。メグミさんは担当のスタッフ(Aさん)に、電話を替わるように声をかけましたが「いま手が離せない」と断られてしまいました。おまけに、主治医との時間調整まで頼まれてしまいました。

メグミさん:(えー!私も忙しいんだけど! 対応を私に押し付けるつもり?)

 心の中で文句を言いながら、主治医に連絡して家族に伝えて、電話対応を終わらせます。

メグミさん:(昼食の時間が迫ってきた。食前の薬を急がないと、点滴の交換もギリギリだ)

 そこに、ナースステーションを訪ねてきた患者さんから、「今週の食事のメニューが掲示板に貼られていないのだけど、今日のメニューはなんですか?」と質問が。メグミさんは患者さんに謝って、担当の事務員(Bさん)にメニュー表の貼り替えをお願いすると、「そこの机の上に出してあるので、貼り替えお願いします」と逆に頼まれてしまいました。

メグミさん:(いやいや。メニュー表の貼り替えは、事務員さんの仕事でしょう)

 と、言いたいところをぐっとこらえて、患者さんに説明して、廊下の掲示板に今週のメニュー表を貼ってきました。

メグミさん:(これじゃ自分の仕事が進まない。患者さんの薬を待たせてしまって、申し訳ないな)

 と思いながら、患者さんの病室に向かってナースステーションを出たところで、会議から戻ってきた師長に呼び止められました。「会議の報告書で訂正があって、ここを書き換えて欲しいの。それから・・・」と話し始める師長に、

メグミさん:「師長!いま無理ですから!!!」

 と言ってしまいました。こんなふうに言うつもりじゃなかったのに。

+++++

 メグミさんは、次々に割り込んでくる仕事をこなせてしまっているようですが、あまり無理して請け負ってしまうと気持ちに余裕がなくなって、思わぬミスをしてしまう危険もあります。イライラをため込んでいくと、何かのきっかけで一気にあふれ出てしまうこともあります。

 不満をためたままで患者さんに対応すると、それが患者さんにも伝わってしまうでしょう。そうならないために、ギリギリまでがまんせずに断ることも必要です。

 

 メグミさんの怒り方の改善ポイントを整理してみましょう。

・自分の状況を伝えてみる

 メグミさんは、急ぎの業務を抱えて焦っていましたが、それは言わなければ相手には伝わりません。相手はメグミさんの状況に気づいていないだけで、悪気はないのでしょう。

 「患者さんを待たせているので、すぐに行かなくてはならない」という自分の状況を伝えてみましょう。

・代替案を提示してみる

 メグミさんが心の中でつぶやいていた不満をそのまま口にしてしまうと、相手との関係が険悪になってしまいますが、こちらの状況と合わせて代替案を提案していくと、少し負担を軽減できることもあると思います。

 Aさんに「私も時間がなくて主治医の調整まではできないので、Aさんからご家族へ電話をかけなおすということで、一度電話を切らせてもらってもいいですか」

 Bさんに「私も時間がなくて、貼り替えまではできません。患者さんへ説明しておくので、午後に貼り替えてもらってもいいですか?」

 師長に「いま急いでいるので、午後にうかがいます」

といった具合に、提案して折り合えるところを探ってみましょう。

 コミュニケーションの取り方は、練習すれば変えられます。その時は、何も言わずに自分でやってしまった方が早いと思うかもしれませんが、少しずつ伝える練習をしてみてはいかがでしょうか。

   ◇

 ささいなことが目に付いて、すぐにカッとなって同僚や上司や患者さんたちについ口を出してしまうヨウコさん。これに対して、ついつい相手に合わせてしまい、自分の気持ちを表に出せないメグミさん。2人が、怒りの感情とうまく付き合っていくためのヒントを、一緒に考えていきましょう。 (ヨウコさんとメグミさんは架空の人物です)

**************************************

◆編集部から

田辺有理子さんの本が出版されました

 タイトルは「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規、2160円)です。(詳しくはアマゾン:https://goo.gl/sxK6md別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。