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 「朝日 健康・医療フォーラム2018」が1月27日、東京都千代田区のJPタワーで、2月4日、大阪市北区の中之島会館(中之島フェスティバルタワー・ウエスト内)でそれぞれ開かれた。東京会場では最新の長寿研究や、口まわりのささいなトラブルから全身の機能の衰えをとらえる「オーラルフレイル」をテーマに、初開催となる大阪会場では運動と健康をテーマに専門家が解説した。

■ご当地体操で、やる気続く 柳田昌彦さん(同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科教授)

 

 2010年に世界保健機関が公表した世界の死亡者の危険因子をみると、1位は高血圧だが、身体不活動、つまり運動不足が4番目だった。筋肉を維持し、鍛えることが健康長寿を促進するカギになる。

 健康づくりのための運動には3種類ある。一つは柔軟運動。ストレッチングがなじみ深い。腰痛やぎっくり腰の予防につながる。次は有酸素運動でウォーキングやジョギングだ。持久力を高め、生活習慣病の予防、改善効果をもつ。

 もう一つがレジスタンス運動。筋トレのようなものと思ってほしい。最近のデータでは週2、3回の筋トレで生活習慣病による死亡率が約20%下がるという。

 この運動は低い強度でも回数を重ねれば効果がある。有名なのが東京大学の石井直方先生が考案したスロートレーニング。低負荷でゆっくりやる。スクワットなら、腰を伸ばし切らず、手前で止める。筋肉が緊張したままとなって乳酸などの代謝産物が蓄積され、成長ホルモンの分泌を促進するので、低強度でも筋肥大が起こる。

 

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 レジスタンス運動と有酸素運動を組み合わせると、効果が大きい。私たちの研究では、筋トレと有酸素運動の自転車こぎを組み合わせ、高齢者に10週間してもらった。中強度の方が、動いている時のバランス能力はより上昇したが、筋力は低強度でも効果があった。

 運動を続けるにはどうするか。一番はやる気、そして環境だ。家族や地域のサポートがあるとよい。仲良しの人と一緒にやるのも大切。私は山形県の花笠踊りを、笠でなくダンベルでするご当地体操をつくった。山形県尾花沢市では十数年間、夏祭りで踊られている。福井県でも地域ぐるみでご当地体操をやってもらっている。

 これからは健康づくりを地域でサポートし、文化に昇華させることが重要だ。

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 やなぎた・まさひこ 福井県立大学看護福祉学部教授などを経て、現職。専門は体力医学、運動疫学、スポーツ栄養学。

 

■体重管理、カロリー計算を 河南こころさん(オリックス・バファローズ管理栄養士)

 

 栄養サポートは、基本的に一般の人もアスリートも同じだと思う。

 ロードレースではいかにエネルギーをためておくかがポイントになる。マラソンをする一般の人も参考になると思う。ある選手は山盛りのパスタにご飯を食べる。「カーボローディング」や「グリコーゲンローディング」と呼ばれ、炭水化物を食べてエネルギー源になるグリコーゲンを蓄える栄養戦略だ。レースの3日前くらいから取り組む。

 トップアスリートも特別なものを食べているのではなく、いたって普通だ。私たちと同じものを食べている。選手には、色々とりましょうと言う。カラフルにとも伝える。

 細いプロ野球選手の体を大きくしようとするなら、こまめに食べるように勧める。1日に5、6食くらいだ。栄養サポートが関われるのは、体重のコントロールと、疲労回復を含むコンディション維持だと思う。「何を食べたら足が速くなるか」「速い球を投げられるか」とたまに聞かれるが、それにはトレーニングが必要だ。

 

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 体重の管理は一般の人も参考になる。私はまず必要なエネルギー量(キロカロリー)を算出する。あくまで目安だが計算式は「基礎代謝基準値×体重(キログラム)×身体活動強度」。基礎代謝基準値は年齢と性別で変わり、30代女性は21・7。活動強度は3段階で、普通は1・75。

 そのエネルギー量をベースに、体重を増やすなら摂取量が上回るように、減らすなら少なくなるようにする。これで半年間に10キロ増量できた選手がいる。

 減量したいとき、食べないと、どこかで我慢できなくなると思うので、しっかり計算して、その数値に合わせてコツコツ減らしていくのが、リバウンドしない方法だと思う。

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 かわなみ・こころ 自転車やラグビーのチーム、女子フィギュアスケーターらの食事、栄養をサポートし、昨年から現職。

 

■選手の動き解析、けが防ぐ 中田研さん(大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学教授)

 

 2020年の東京五輪に向けて大阪大学はスポーツ庁と共同で、スポーツの革新的な医科学研究を進めている。栄養のほか、心拍数や体温などを身につけたセンサーで測り、インターネットを通じて膨大な情報「ビッグデータ」を集める。それを人工知能(AI)を使って解析し、選手に役立ててもらおうとしている。

 今日はたくさんの研究のうち、「バランス」がけがとよく結び付いていることを紹介する。動いた時に自分の体が倒れないのは、姿勢を予測して制御しているからだ。つまり、どうすれば倒れずにすむか、こっそり頭の中で考えている。

 スポーツではバランスを崩して起きるけがが非常に多い。動いている時の動的バランスは測定が難しいが、僕たちのテストは、片足で台から飛び降りたり、その場で跳んだりしてもらって、床にかかる力や重心のぐらつき具合を測る。これによって、着地したときの衝撃の吸収や体重をうまくコントロールできているかといった個人の動作の特徴がわかる。

 大学のスポーツ選手にテストしてもらうと、ひざの靱帯(じんたい)断裂が起こるかどうかを人工知能で予測できることがわかってきた。予測できれば、けがしないような訓練を考えることができる。

 

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 ユネスコ(国連教育科学文化機関)は15年、スポーツは健康に貢献する全ての身体活動と定義した。階段を上ることもスポーツと言えるかもしれない。僕たちは現在、五輪選手のけがを予測、予防して、メダルにつなげようとしているが、将来的には国民皆さんのけがを防ぎ、身体活動を高めて、世界の健康につなげられる形で研究を進めている。それができれば、世界に貢献できる東京五輪のレガシー(遺産)になると思う。

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 なかた・けん 米国立保健研究所(NIH)常勤研究員などを経て現職。主にスポーツ選手のひざのけがなどの治療や予防に従事。

 

【パネルディスカッション】目標持ちつつ、頑張り過ぎず

 ――高い強度でなくても運動の効果が得られるという話だが、目安は。

 柳田 有酸素運動でよく言われるのは「ニコニコペース」。ウォーキングなら、会話しながら爽快に感じるぐらいがちょうどいい。汗をびっしょりかいたり、「ヒーヒーハーハー」言ったりするのは、きつ過ぎる。筋トレの場合は、スクワットでも、軽いダンベルの上げ下げでも、20回ほど繰り返して、「ああ、ちょっとしんどくなったな」というくらいが、低強度から中強度の目安だ。

 ――年齢を重ねると体のバランスが悪くなるが、どのようなときに要注意か。

 中田 筋肉や関節の運動器の健康度合いを測るテストがあり、片足で靴下がはけるかや、椅子から片足で立ち上がれるかを調べる。人間は歩いている時に一瞬片足で立って、次の足を前に出す。片足で立てる状態を続けられることは一つの指標になると思う。

 ――ダイエットで「これはやめた方がいい」というものは。

 河南 「感覚」でしてしまうのが一番怖い。エネルギーの過不足をチェックするのは、やはり体重測定だと思う。毎日測って、体重が増えていくようなら、エネルギーを消費できていないか、消費した分以上にエネルギーを取ってしまっているということ。体重やおなか回りを測って、「何センチメートルにする」といった具体的な数値目標を決めるのがいいと思う。減量なら1週間単位くらいの視野で、「週1回くらいは食べ過ぎてもまあいいか」と考えれば、継続できるのではないか。

 ◆コーディネーター 朝日新聞編集委員・瀬川茂子