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 「朝日 健康・医療フォーラム2018」が1月27日、東京都千代田区のJPタワーで開かれた。最新の長寿研究や、口まわりのささいなトラブルから全身の機能の衰えをとらえる「オーラルフレイル」をテーマに専門家が解説した。

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フレイル防ぐ、運動・栄養・社会参加 飯島勝矢さん(東京大学教授)

 

 「フレイル」とは、英語で「虚弱」を意味する「frailty」からきている。年をとり、心身の活力が衰え、弱々しくなった状態のことを言う。マラソンに例えると、最終の競技場に入ってきた時の感じだ。

 明るい前向きな気持ちで予防意識を高めてもらうことが大事で、そのための三つの概念がこの言葉には込められている。

 一つ目は、健康と介護が必要な状態の「中間」の時期である。年をとると、体がさびつき、ささいな衰えが出てくる。しかし、ふだんの生活ではそこまで困らず、人の手を借りるほどではなく、介護も必要ではない。そうした微妙な長い長い中間の時期である。

 二つ目は、頑張れば大なり小なり様々な機能を戻せる「可逆性」がある。筋肉だけではなく、「週末はどこかに行きたい」というような人間的な機能も含む。ただ、戻せるかどうかは自分次第。「よっしゃ」という気持ちにならないと何も起こらない。ギアチェンジができるかが、ターニングポイントになる。

 三つ目は「多面的」であること。腰が曲がったとか、ひざが痛いといった体の衰えを想像しがちだが、それだけではない。「人の集団に入るのは嫌だ」という心理面のほか、経済的困窮や孤食といった社会的フレイルもある。

 フレイル予防は、運動、食と栄養、社会参加を三位一体で、継続していくことが三本の柱になっている。

 対策として、高齢者を対象にした大規模な健康調査や、調査から得られた新たな知見をいかした予防活動に取り組んでいる。その「一丁目一番地」は、筋肉が衰えていく「サルコペニア」の予防。高齢期に2週間、寝たきりの状態でいると、7年分の筋肉を失うと言われている。筋肉は使わなければ、使えなくなる。運動を続けることが大事な理由はそこにある。

 健康調査からは様々な新たな知見が得られた。親指と人さし指で輪っかをつくり、ふくらはぎを囲む「指輪っかテスト」を考案した。千葉県柏市で約2千人を対象にした調査では、「囲めない」人に比べて、「ちょうど囲める」人がサルコペニアになるリスクは2・4倍、「隙間ができる」ふくらはぎが細い人では6・6倍。死亡率も「隙間ができる」人は3・2倍だった。

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 介護がいらない高齢者約5万人の調査では運動、文化活動、ボランティア・地域活動のいずれもしていない人は、全てやっている人に比べ16倍のフレイルのリスクがあった。ただ、運動習慣がなくても、それ以外の二つをすれば予防につながることもわかった。「運動ありき」ではなく、何をどのように継続してやるかが重要だ。

 年をとると、社会性・心理面に続いて、栄養面の衰えが始まる。口まわりのささいな機能の衰えが体の衰えにつながる「オーラルフレイル」という新しい概念も出ている。歯が20本残っているか、かむ力が弱くないかなど、六つの口まわりのトラブルのうち、三つ以上を満たす人は、いずれも該当しない人と比べて、死亡率が2倍、介護が必要になるリスクも2・4倍だった。身体的な衰えを引き起こす大きな要因にならないよう口の機能の向上を訴えていく必要がある。

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 いいじま・かつや 米スタンフォード大研究員を経て現職。内閣府の「1億総活躍国民会議」有識者民間議員も務める。

 

食べる力が弱まると負のスパイラル 小原由紀さん(東京医科歯科大学講師)

 

 人はどんな時に生きがいを感じるのか。内閣府の調査によると、家族とのだんらんや食事、雑談、おいしいものを食べている時など口が関わっている。しゃべったり、食べたり、人の生活の中には必ず口の健康がついてくる。厚生労働省の2016年の歯科疾患実態調査では、80歳で20本以上の歯を残している人は5割を超え、歯をしっかり残している人の割合が増えている。

 一方、かめないものがある、のみこみにくい、味がわかりにくい、口が渇く、といった口の機能のトラブルは年齢が上がるにつれて多くなっている。

 愛知県大府市の高齢者4720人を調べたデータでは、フレイルやその前段階の人は歯の本数が少なくかむ力が弱かった。

 歯を失う代表的な原因は虫歯や歯周病などの細菌感染。これらは、歯科治療の技術の進歩や予防の概念の普及により、ある程度はコントロールできるようになってきた。しかし、残った歯を健康で機能できる状態に保つには、プラスアルファが必要だ。年齢を重ねても口の機能を維持するためには、しっかり呼吸し、話をし、かんで、のみ込む。そして、表情をつくって、唾液(だえき)を出し、おいしい物をおいしいと感じることが大事だ。

 口の機能も使わなければ衰える。鼻からチューブで栄養を取る入院患者でも、チューブが取れて自分でご飯が食べられるようになると口の中は劇的にきれいになる。逆に口から食べていないと、機能が衰え唾液も出ないので口の中が汚れやすくなる。

 口の機能が低下したらどんなことが起きるのか。かむ力が衰えていくと、肉、魚、さきいか、にんじんといったかみ応えのあるものから、パン、バナナのような軟らかい食べ物を選ぶようになる。かまなくても済む軟らかい食事に偏り、食べる力がどんどん衰えていく。食事のバリエーションも限られ、炭水化物や糖類が多くなり、たんぱく質の摂取量が減り、栄養摂取にまで影響を及ぼしていく。これが口の機能が低下する「負のスパイラル」だ。

 口の機能は低下しても、とりあえず生活の中で調整していけるので、本人に自覚がない。

 東京都板橋区の高齢者897人の調査では、自分の口の健康への評価が低い人は外出頻度も低く、認知機能も低かった。口とはおよそ関係のなさそうな社会的なフレイルに影響が出ていた。また、口の渇きを訴える人には、うつ傾向や日常生活での自立度が低いといった特徴があった。口の衰えは、知らない間に忍び寄り、ふだんの生活に大きな影響を与えている。

 口の健康を維持するために普段の生活でできることもある。滑舌の低下、食べこぼし、むせ、かみにくいといった口の衰えのささいなサインに気づいて、早めに手を打てば、オーラルフレイルも元に戻すことができる。

 息を吹き込むと巻かれた紙が伸びるおもちゃの「吹き戻し」を使えば口の筋肉を鍛えられるほか、よくしゃべり、歌うことも唾液の分泌につながる。

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 おはら・ゆき 認定歯科衛生士(老年歯科)。東京都健康長寿医療センター非常勤研究員、日本歯科衛生士会理事。

 【パネルディスカッション】

70歳以降はカロリー摂取を積極的に

 ――「指輪っかテスト」はどうやったらいいのか。

 飯島 まず利き足ではない足のズボンの裾を上げて、ふくらはぎの一番太い部分に両手の親指と人さし指を軽く当てる。隙間ができてしまう人は色々な機能が衰えている可能性があります。

 ――口の機能を鍛えるトレーニングにはどんなものがあるのか。

 小原 「パパパパパ……」「タタタタタ……」「カカカカカ……」とそれぞれ10回繰り返して発音する。「パ」はくちびるの筋力を向上させ負担なくのみ込めるように、「タ」は舌が上あごにつくことで食べ物をのどに送りやすく、「カ」は舌の奥の動きを向上させ、むせることを予防することにつながる。面倒な人は、全てが入った「パンダのタカラモノ」と言ってみる。舌やくちびるを使っていることを意識しながらやるといい。

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 ――フレイル対策には「ギアチェンジをする」ことが必要だとはどういう意味か。

 飯島 中年から高齢者への入り口は、太らないようカロリーを控える気持ちが必要だ。だが、70歳ぐらいになると、フレイル予防では、むしろカロリーは積極的に摂取しなければいけない。かみ応えのある肉とか咀嚼(そしゃく)する機能を維持できるものを積極的に食べていかないといけない。年齢で決めることではなく、どのような病気を持っているかも考慮しながら、徐々にカロリーのとり方を「ギアチェンジ」していくといい。

 ――ささいな口の機能の衰えに気づくには。

 小原 例えば、スティックの生にんじんが食べにくくなって、食べなくなるとか、食べ物の選び方が変わってくる。あるいは、歯医者で水を出しながら歯石を取ってもらうとき、ゲホゲホしてしまう。そうしたことを「年のせいだから」と済ませるのではなく、口の機能が低下しているサインだと気づければ、機能を強化するチャンスにつなげることができる。

 

 ◆コーディネーター 朝日新聞アピタル編集長・野瀬輝彦