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 風邪は薬を飲まなくても自然に良くなります。つらい症状をやわらげるために薬を使うのは悪くありませんが、薬には副作用もありますしお金もかかります。薬を使うにしても必要なものに限ったほうがいいでしょう。

 しかし、多くの薬をご希望される患者さんがたまにいらっしゃいます。抗生物質(抗菌薬)をはじめとして、発熱に対して解熱薬、咳に対して咳止め、痰がからむので痰切り、鼻水に抗アレルギー薬、薬が多くて胃が悪くなるので胃薬、さらにうがい薬、トローチなどなど……。

 ご希望のままに全部処方するわけにはいきませんが、かといって頑なに「医学的に正しい処方」だけにこだわると患者さんの満足度が下がります。なので、患者さんとお話ししながら処方する薬を選んでいきます。まるで、こんな値引き交渉みたいになることもあります。

 私「抗生物質は耐性菌の問題があるから、できれば使わないほうがいいんですけどね」

 患者さん「じゃあ抗生物質は要らないから、代わりに咳止めと胃薬をつけてください」

 風邪であれば薬を飲む期間はせいぜい1~2週間ですが、慢性の病気に対して薬を出すとずっと薬を飲み続けることになりかねません。「多剤処方(ポリファーマシー)」といって、一人の患者さんに多くの種類の薬が投薬されている状態が注目されるようになりました。とくに高齢者はさまざまな病気を持っていますので、薬も多くなりがちです。

 多剤処方の患者さんは副作用が多くなりますし、実際に転倒や死亡が多いという研究もあります。どうしても必要な薬なら仕方がありませんが、必要性に乏しい薬なら中止したいところです。ただ、そんなに簡単にはいきません。

 多剤処方の患者さんのめまいの薬の中止を試みたことがありました。主に急性期のめまいに対して使われる薬ですが、その患者さんにはずっと処方されていたのです。薬を中止した次の受診のときに患者さんが「ふらふらっとめまいがします。薬を中止したせいではないですか。めまいの薬を出してください」とおっしゃるのです。

 めまいには「ふらふら」するめまいと「グルグルまわる」めまいがあって、そのめまいの薬は後者の回転性のめまいに効くとされる薬です。おそらく、「ふらふら」のめまいは薬の中止と直接の関係はありません。ただ、ずっと飲んでいた薬が中止になって生じた不安な気持ちがめまいに影響した可能性はあります。こうなると他の薬もおいそれとは中止できません。思うに、風邪に対してたくさんの薬を希望する患者さんも、薬が少ないと不安なのかもしれません。

 薬を欲しがる患者さんが悪いわけではありません。自然に患者さんが薬を多く欲しがるようになったのではなく、かつて、たくさんの薬を処方していた医師がいたのです。薬を出せば出すほど医療機関が儲かった時代の名残りでしょう。

 「ポリファーマシー」と名前が付くことで、こうした問題点が明確になり解決の糸口になります。ただ和訳の「多剤処方」よりはネガティブな意味合いが薄れる気もします。「薬漬け」のほうがニュアンスとしては近いです。患者さんは、薬には副作用の問題があることを、どうか頭の片隅に置いていただきたいです。医師は、薬がないと不安になるような患者さんをつくらないように努めなければなりません。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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