[PR]

「朝日 健康・医療フォーラム2018」が1月27日、東京都千代田区のJPタワーで開かれた。最新の長寿研究や、口まわりのささいなトラブルから全身の機能の衰えをとらえる「オーラルフレイル」をテーマに専門家が解説した。

写真・図版

認知症を遅らせる「先制医療」が切り札 岡野栄之さん(慶応大学教授)

 超高齢化社会では再生医療と先制医療が切り札になる。再生医療は今そこにいる難病の患者さんを救う医療。先制医療は病気の発症を防いだり進行を遅らせたりする医療だ。

 私たちの研究室は脊髄(せきずい)損傷の再生医療を20年以上研究している。けがをしてからなるべく早く移植できるように事前に他人のiPS細胞からつくった神経幹細胞を患者さんに移植する準備を進めている。将来的には高齢者も対象にしたい。

 認知症による社会的費用の損失は年間14・5兆円と言われる。日本のGDP500兆円の約3%。今後その割合は増える。どう食い止めるかが緊急の課題。慶応大の経済学者の試算によると、認知症の発症を5年遅らせると、経済的損失は約半分に減るという。

 アルツハイマー病は家族性が全体の約2%で、それ以外の孤発性が98%。家族性も孤発性も最終的にはアミロイドβというたんぱく質が凝集して老人斑をつくり、神経細胞が死ぬ。タウというたんぱく質が蓄積して、神経原繊維変化が起きることは共通している。

 家族性の人は必ずアルツハイマー病を発症する。遺伝子を調べることによって将来、アルツハイマー病になるか、何年後にどのような症状になるかがわかるようになってきた。ApoE4型という遺伝子を片方の親から受け継ぐと、ない人に比べてアルツハイマー病のリスクは3倍で、両方から受け継ぐとリスクは15倍になる。

 先制医療の例として有名なのは、米俳優のアンジェリーナ・ジョリーさん。将来乳がんになる確率がかなり高い遺伝子を持っていることがわかり、乳房を予防的に切除した。

 先制医療のポイントは病気になる前かごく初期に治療すること。認知症は段階的に進行するため、非常に典型的な例だ。全く症状がないプレクリニカル(前臨床期)が約20年続いた後、軽度認知障害(MCI)になる。MCIは日常生活はできるが、記憶力などが少し落ちてくる状態で、MRI検査で海馬の萎縮や神経心理テストで異常が出る。MCIが約10年間続き、認知症を発症する。

 プレクリニカルやMCIの段階で積極的な予防治療をすると発症を5~10年遅らせられる。非常に早期にどう診断するか。

 一つは、アルツハイマー病の患者さんの皮膚の細胞からiPS細胞をつくって神経細胞にすると、2、3週間でバイオマーカーとなるアミロイドβが増える。タウの異常なども出てくる。二つ目は全ゲノム配列を見て、ApoEの遺伝子を調べる。三つ目が画像で蓄積しているアミロイドβやタウを可視化する。

 症状が出ていなくてもこうした所見があれば、将来アルツハイマー病になることは、かなりの確度で診断できる。

 慶応大病院にはメモリーセンターがあり、今はMCIや年相応の認知機能の低下がある人が来る。センターの隣にiPSコンサルテーション外来をつくったので、同意の上でいただいた血液からiPS細胞をつくったり、全ゲノムを調べたりできる。アミロイドβやタウの検査もできる。アルツハイマー病の先制医療を一つのキャンパス内で、横断的なチームでできるようになりつつある。本格的に稼働できるように尽力したい。

  *

おかの・ひでゆき 前慶応大医学部長。国際幹細胞学会や日本再生医療学会の理事を兼務する。2009年、紫綬褒章受章。

炎症抑えれば老いの制御も 広瀬信義さん(慶応大特別招聘教授)

 全国約1500人とその家族(420家系)に協力してもらい、100歳以上のお年寄り「百寿者」を調べた。幸せな健康長寿のひけつや、年をとるとどうなるかなどを明らかにするのが目的だ。

 1963年には全国で100歳以上の人は153人だったが、2017年には6万7千人で400倍以上増えた。男女比は7対1で女性が圧倒的に多い。世界的には米国が最も多く、日本、中国、インド、イタリアが続く。人口比では日本が圧倒的に多い。

写真・図版

 百寿者で認知症がない人は約3~4割。4割は自分で自分のことができる。女性は認知症で介助が必要な人や、寝たきりの人が多い。これは世界的な傾向だ。女性は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や変形性関節症のように命には関わらないが、動きが悪くなる病気になりやすい。男性は心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞のような致命的な病気になりやすいからとみられる。

 百寿者に一番多い病気は高血圧で次が骨折。糖尿病は少ない。動脈硬化は90歳では8割以上にあるが、百寿者は80代と同じくらいで約6割。

 炎症反応が高い人は早く亡くなり、低いと長生きする。特に慢性炎症は動脈硬化や糖尿病などの病気を起こす。慢性炎症は、インフルエンザなどの急性炎症のように痛みや熱はないが、血管などの細胞がじわじわと傷つく状態。原因は不明だが、年をとるにつれ炎症反応が強くなるので、炎症反応が老化そのものを引き起こしている可能性がある。高コレステロールや高血圧の治療をせず、炎症を薬で抑えると動脈硬化症の再発を抑制できたという研究報告が最近あった。炎症の抑制で老化も制御できる可能性がある。

 百寿者の性格を神経症傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性の5項目で評価した。男性は好奇心が旺盛で新しいものを受け入れられる開放性が高い。女性は色々な人と付き合える外向性や開放性、誠実性が高い。誠実性は「リンゴが健康にいい」と聞いたら毎日リンゴを食べ続けるきちょうめんさのことだ。

 「幸せ感」は男女とも80~90歳ごろに下がるが、100歳で上がる。元気な人だけでなく寝たきりの人でも高い。仮説の一つに「お金持ちや偉い人になりたい」という考え方から「自分は宇宙の中の一員。先祖代々つながってきて子孫につながっていく」という世界観に変わることで、幸せ感が高くなるという「老年的超越仮説」がある。

 考え方に時間の壁がなくなり、自己中心性が低下したり見えを張ることが減ったりするという特徴もある。ある107歳男性は寝たきりで、昼間は家族が仕事で一人になる。「年をとると世話にならなければ生きていけない。自分は地球と共に生きてきた。足が弱って寝ていることが多くなったが、色々考えられていい」と話してくれた。

 100歳まで生きる遺伝子は見つかっていない。ApoEの4型という遺伝子があると認知症、動脈硬化、心筋梗塞になりやすく、長生きには不利だ。この遺伝子がある若い人は約1割なのに対し、100~104歳は約6%、105~109歳は5%、110歳以上は約2%。百寿者の子の場合は約6%で、長生きしそうなことがわかる。

 幸せな健康長寿へのひけつはまだわかっていない。だが、病気を予防し、明るく前向きに好奇心を持って周りの人と良い関係をつくることが重要だ。

  *

 ひろせ・のぶよし 慶応大学病院診療科部長などを経て現職。日本老年学会評議員。著書に「人生は80歳から」(毎日新聞出版)。

◆コーディネーター・南宏美