[PR]

CSRプロジェクト代表理事・桜井なおみさん(51)

 乳がん経験者で、がん患者の就労を支援する一般社団法人「CSRプロジェクト」代表理事の桜井なおみさん(51)。がんになっても働き続けることができる社会の実現を目指し、活動しています。治療と仕事の両立に向けた課題を中心に伺いました。

「仕事は生きがい」。辞めて気づいた

 37歳で乳がんの診断を受けました。都市計画プランナーとして設計事務所に勤めていたころです。会社を休んで通院することもありました。当時は働き方の選択肢がなく、仕事をするにも0か100という状態でした。手術の後遺症で、右手がうまく動かなくなり、図面を書くのも大変でした。「会社に迷惑をかける」という思いもあり、2年後に退職しました。でも辞めてみると、仕事は自分の生きがいだったことに気づき、苦しかったです。

 次の仕事先はなかなか見つかりませんでしたが、2008年2月、緑化関係の社団法人に入りました。「がんの治療中」と上司に伝えると「お互いさまだからそれ。俺も肝臓悪いし」と言われました。病気している人もいれば、子育てをしている人もいる。みんなが大切にしたいことを守りながら良いものをうみだすのが仕事だよね、という職場の風土でした。「お互い様」と言われたときは、目からうろこでした。多くの職場でこのような風土が広がればいいなと思っています。

 

 

患者の課題解決へ、会社を運営

 仕事をしながらがん患者にアンケートをする機会がありました。結果は、76%の人が「これまでの仕事を続けたい」と答えていたのに、このうち31%は解雇や依願退職などをしていました。「がん患者が働ける場を作りたい」との思いから2009年、「キャンサー・ソリューションズ」という会社の運営を始めました。社名には、がん(キャンサー)患者の解決策(ソリューションズ)を切り開くという思いを込めました。患者を雇い、がん患者や元患者の人材派遣などをしています。社員は当初2人でしたが、現在は10人です。

 

 がんになって初めて分かったことですが、当時はがんについて国のマスタープランがありませんでした。その頃、知り合った先生に言われた「がん患者は基本的人権が守られていないんだよ」という言葉が印象に残っています。

 2006年にがん対策基本法ができ、07年にはがん対策推進基本計画が作られました。ただ、当時は医療の体制を整えることに精いっぱいで、患者が社会でどう生きていくかという視点は重視されていませんでした。12年にできた2期計画で、がん患者への就労支援が初めて盛り込まれました。

 

 

企業側を巻き込み、支援充実に期待

 2016年にはがん対策基本法が改正され、企業などの事業主に対して患者の雇用継続に配慮する努力義務が明記されました。さらに、17年にできた3期計画では企業が仕事と治療の両立支援に向けた制度導入を進めるよう、「国による表彰制度の検討や助成金支援」が盛り込まれました。医療側だけでなく、企業を巻き込める可能性も出てきました。救える人の範囲が広がることを期待しています。

 

 私たちが行っている調査では、3~4割の人が転職や依願退職をしていて、この10年間であまり変化がありません。がん患者が治療と仕事を両立するには社員のコミュニケーション力が重要だと考えています。会社には、こんな仕事はできるとか何を配慮して欲しいのか。きちんと伝えることが大切です。前向きに治療を続けるうえでも、自分のアイデンティティーを維持するためにも、働く意欲のある人は、がんになっても仕事を続けることが重要です。

 生涯でみれば2人に1人ががんになる時代です。治療しながら働くことを希望する人は少なくありません。がん患者の就労は、まだまだ解決しなくてはいけないことがたくさんあります。がんへの偏見も根強く、課題解決には、がんそのものの理解が深まることも必要です。

 16年のがん対策基本法改正で、基本理念の中に「社会環境の整備」「社会教育」という言葉が盛り込まれました。「患者が生きやすい社会」を目指して、一歩ずつ、活動していきたいと思っています。

 

 

<アピタル:ニュース・フォーカス・アピタルがんインタビュー>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(聞き手・黒田壮吉)