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 ADHDが疑われる「生きるのがつらい女性」、リョウさん(30代前半、独身一人暮らし)の連載を続けています。リョウさんは仕事でもプライベートの友人関係でも恋愛でもうまくいかない夜には、沈んだ気持ちになります。

 リョウ 「自分なんてこの世にいない方がいいんだろう。誰からも必要とされていない。」

 そう考えると、もう人生がどうでもよくなるのです。そんな辛い気持ちをごまかすために、リョウさんは、おなかが減っているわけでもないのにお菓子を食べすぎたり、お酒を飲み過ぎたりしていたこともありました。

 こうした「自分など無価値なのではないか」という気持ち、沈んだ気持ちがずっと続き、さらに夜眠れなくなるとか、食欲がなくなるとか、人に会いたくなくなるといったことが増えてくると、人は徐々にひとりで引きこもりがちになります。以前好きだったことさえしたくない、意欲がわかないという状態になっていきます。そして、表情が乏しくなったり、身だしなみを十分に整えなくなったり、うまく物事を決断することができなくなったりします。

 これを放置すれば、自分の命を絶つしかないのだと思い込むようになったり、仕事や家事に集中できず社会生活を送ることが難しくなったりしてしまいます。

 そう、これらはうつ病の症状です。

 

 実は、うつ病かも、と思って初めて精神科や心療内科を訪れ、そこで初めてADHDが背景にあることを知らされる方が少なくありません。

 ADHDは、基本的には「子ども時代から生涯にわたって持ち続ける特性」ですので、その人が物心ついた頃からずっとその特性と一緒にいるわけです。ずっとそうであるものに対して、人は通常、「これは病気や障害かも!」とは思わずに、「自分の性格なんだ」とかできないことがあると「がんばりが足りないからだ」と考えてしまいがちです。ですから、ADHDじゃないだろうか?と自分の特性に疑問を持って受診するよりは(それでも近年増えていますが)、最近発病したうつ病のせいで日々が立ち行かなくなって、初めて精神科や心療内科を受診するといった方が多いのです。

 このように、うつ病の背景にADHDが隠れている場合がよくあります。

 

 ADHDの人は、うつ病になりやすいのでしょうか?

 Kessler(2006)の米国の調査では、大人のADHDの方の38.3%に気分障害(うつ病や双極性障害など)が見られ、47.1%に不安障害(パニック障害や特定の恐怖症など)が見られました。うつ病だけでも、18.3%の人に見られました。この割合を多いと思いますか?

 ちなみに日本における12カ月有病率(過去1年間にその病気になった人の割合)は、気分障害が3.1%、不安障害が4.8%、うつ病が2.9%とされています。この数字と比較すると、ADHDの方は、一般の人と比べて、うつ病や不安障害を患う割合が非常に高いことがわかります。

 この背景には、ADHDの方たちが、小さい頃から宿題を提出できなかったり、忘れ物をしたり、大人に注意されたことを忘れてしまって同じ失敗を繰り返したりする中で、叱られたり、自分を責めたり、「自分はできないんだ」と思い込んだりするようになってきたことが原因ではないかと考えられています。

 また、思春期以降は、親の手を離れて一人暮らしをしたり、働いたりして、期限内にミスなくこなすことなどに関する社会的要請が増えていくのです。こうした社会的要請に応えられなくなって、挫折感を味わい、自分を責めて気分が落ち込んだり、上司や友達などの社会が怖くなったりして、気分障害や不安障害といった二次的な問題が発生するというわけです。

 

 ADHDの方はもともと、家事やお決まりのルーチンワーク、じっくり考慮することが苦手という特徴があります。うつ病で気力が落ちて、やる気が起きない状態が加われば、ますます、部屋の中が散らかったり、苦手な仕事が山積みになったりすることでしょう。そして山のようにたまった洗濯物や書類を見ながら、「どうして私はこんなにだらしないんだろう」とまた自分を責めて、うつを悪化させることもあるでしょう。こうした先延ばし行動はうつ状態を悪化させることもわかっています。

 また、ベースにADHDのある人が不安障害になると、これまでも幼少期から失敗して叱られることが多かったため、「私はすぐに失敗してしまって、そういうとき相手はたいてい怒る。それは自分が悪いからだ」といった思考をしがちです。そのため、たとえば上司に仕事のミスを叱られてしまうのではないかと心配しすぎて、仕事に行こうとすると不安になって動悸(どうき)がして、身体が固まってしまうかもしれません。

 また、失敗経験から「私は能力が低い」と思い込み、何か新しいことにチャレンジできる機会があったとしても、「私には無理」と消極的になってしまうこともあるでしょう。もしくは、大きな仕事を任されると「私にはこんな大きな仕事、とうていできそうにない!」と、自分の能力を実際より低く見積もり、課題の難易度を実際よりも高く見積もってしまうため、なかなか課題に手をつけられず、結果的に先延ばししてしまいます。

 こうした消極的でチャレンジできない姿勢や、大きな仕事を先延ばしして最悪の場合締め切りを過ぎてしまうことで、結果的に上司に叱られるという事態に陥る場合もあるのです。

 

写真・図版

 もし、ADHDの他にもなかなか治らないうつや不安を抱えられている方は、ADHDそのものの治療よりも先に、こうした問題を解決されることをお勧めします。主治医のいらっしゃる方は、まずはうつや不安のことについてご相談されてみてはいかがでしょうか。

 こういったうつや不安の二次障害がある場合には、ADHDの症状そのものに対する治療よりも先に、二次障害の治療から始めることが一般的です。そうしないと、生活が破綻(はたん)しやすく、診察の予約を入れてもキャンセルしてしまうなどして、治療を続けていくことが難しいからです。まずは服薬や休養、認知行動療法などの精神療法を行い、うつや不安の状態がある程度落ち着いてから、背景となっていたADHDの問題に取り組むのです。(ADHDの治療については、前回のコラムでご紹介しました)

 ▼大人のADHD治療で推奨されているものは?

 https://www.asahi.com/articles/SDI201802283989.html

 

 ただ、実際には、ベースにあるADHDが見逃されて、「うつがなかなか治らない」とか、「不安はなくなったのに、会社にいけない」といった事態になっていることもあります。うつや不安の治療を続けているのに、あまりに不調が長引くようであれば、一度自分のADHDの傾向についてこのコラムをさかのぼってチェックされてもよいかもしれません。診断がつくほどでなくとも、日常的なお困りの点を解決するヒントがあるかもしれません。

 

●引用文献

Kessler et al: The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: Result from the national comorbidity survey replication. American Journal of Psychiatry 2006; 164:716-723

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。