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 患者さんに接する時は、いつも優しく穏やかに――。看護師は、表情や口調を統制するように心がけています。それが患者さんの安心につながるからです。とはいえ、看護師もひとりの人間です。いつも穏やかにいられるわけではありません。

 内科病棟で働く看護師のヨウコさんとメグミさんのエピソードを通して、アンガーマネジメントを紹介してきました。今回は、ヨウコさんとお母さんの会話です。

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 ヨウコさんは、午前の仕事を終えて休憩室に戻ってきました。スマートフォンをみると何件も着信履歴が表示されています。電話の相手はヨウコさんのお母さんです。

 ヨウコさんは実家から1時間ほどの距離に一人暮らしをしています。お母さんからは時々電話がかかってきますが、昼間に何度もかけてくるのはめずらしいことです。

 ヨウコさんは、折り返し電話をかけました。

 

お母さん:お父さんが入院したのよ。

ヨウコさん:入院? どういうこと? 何があったの?

お母さん:それが急なことでね。とりあえず知らせておこうと思って。

ヨウコさん:何があったの? 急にどうしたの? 緊急入院?

お母さん:私もよくわからなくて。急なことだから、一体何を準備すればいいのかしら。

ヨウコさん:だから! どこの病院? 何があったのよ! わかるように説明して!

お母さん:手術をするみたいなのだけど、説明を聞いてみないとわからないのよ。

ヨウコさん:急に手術って病気なの? それとも事故? お父さんは大丈夫なの?

お母さん:大丈夫だと思うけど。あ。看護師さんが呼んでいるから電話を切るわね。

ヨウコさん:え? 全然わからないじゃない!

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 ヨウコさんのお父さんに一体何があったのでしょうか。急な入院に動揺しているお母さんを質問攻めにして、結局何も答えてもらえずに電話を切られてしまいました。

 ベテラン看護師のヨウコさんは、急な入院に動揺している家族に対する関わりには慣れていたのですが、自分の家族となると心穏やかにはいられません。それは、怒りの感情がもつ性質によるものです。

・身近な人には怒りが強くなりがち

 家族など自分にとって身近な人に対してはイライラしやすいというのは、多くの人が経験的に理解できるのではないでしょうか。

 看護師として患者さんや家族に接しているときは、ある程度の距離感をもって冷静さを保つことができても、自分の家族に対しては仕事のようにはいかないものです。

・怒りの背後に別の感情が隠れている

 お母さんの歯切れの悪い返答に対してヨウコさんが語気を強めてしまう背後には、突然の出来事に対するヨウコさん自身の混乱や、お父さんに対する心配、状況がわからない不安などが隠れていたのでしょう。

 

 家族など身近な人には怒りが強くなりがちで語気を強めてしまうことや、混乱や心配や不安などの感情が怒りとして表に出てきやすいことは、怒りの特徴として変えられるわけではありません。でも、こうした特徴があることを頭の片隅にとどめておくと、いざそのような状況になったときに、少し冷静に対応できるようになります。

 自分で自分に「落ち着いて」と声をかけ、一呼吸おいてみると、電話の向こうでお母さんが不安を抱えていることに気づくでしょう。

 

 すぐにカッとなってしまうヨウコさんと、自分の気持ちを表現できないメグミさん。2人とともに、怒りの感情とうまく付き合っていくためのヒントを考えてきました(ヨウコさんとメグミさんは架空の人物です)。さて、次回からは病院を離れて介護について考えていきます。

 

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◆編集部から

<田辺有理子さんの本が出版されました>

 タイトルは「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規、2160円)です。(詳しくはアマゾン:https://goo.gl/sxK6md別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。