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 世界保健機関(WHO)のウェブサイトには一般向けの情報がたくさん載っています。2018年3月、まさしく今月に更新されたページに、ワクチンとその安全性についてのQ&Aが載っていました。Questions and answers on immunization and vaccine safety

http://www.who.int/features/qa/84/en/別ウインドウで開きます

 Q&Aはぜんぶで8つです。そのうちのいくつかを簡単にご紹介しましょう。

Q.適切な衛生状態、衛生設備、きれいな水があっても、ワクチンの必要はありますか?
A.ワクチンは必要です。良い衛生状態、衛生設備、きれいな水と栄養だけでは感染症を予防するには十分ではありません。(後略)
Q.ワクチンは安全ですか?
A.ワクチンは安全です。認可されたワクチンは使用される前に複数の試験段階にわたって厳密にテストされ、市場に出た後も定期的に再評価されます。(後略)
Q.ワクチンは自然感染より優れた免疫を与えますか?
A.ワクチンは免疫系に作用して自然感染によってつくられるのと同様の免疫応答をつくりますが、病気を引き起こしたり、潜在的な合併症のリスクにさらしたりはしません。(後略)

 最新のQ&Aといっても別に新しい情報が書かれているわけではありません。いつもの、ごく当たり前の内容です。世界保健機関に限らず他の公的機関も、定期的にワクチンの情報を提供しています。

 医療が進歩して衛生状態が改善し、そして多くの人がワクチンを接種するようになると、ワクチンで予防できる感染症が減ってその脅威を忘れがちになります。するとワクチンを接種する人が減って感染症が増えかねません。そのため、ワクチンの必要性の情報を提供しつづけねばならないのです。

 世界保健機関をはじめとしたさまざまな人たちの努力によって、天然痘は根絶されました。人類が根絶に成功した(今のところ)唯一の感染症です。地球上から根絶してしまえばワクチンを打つ必要もなくなります。麻疹(はしか)も効果的なワクチンがありヒト以外には感染しないことから、天然痘と同じく、根絶が可能であると考えられています。日本では2015年に麻疹の排除状態だと認定されました。排除状態とは、日本の土着ウイルスによる麻疹の発生がないことです。

 みなさんは、最近、知り合いが麻疹にかかったという経験はありますか? ほとんどないと思います。私もありません。麻疹は全数報告になっています。昨年(2017年)は麻疹の報告数は全国で163例です。ほんの10年前(2008年)には年間で1万例以上もの麻疹の報告があったのに。日本では麻疹は珍しい病気になりました。

 ただし、麻疹が珍しい病気になったということは、麻疹の恐ろしさを直接に知る人も珍しくなったということです。親しい人が麻疹でつらい目にあったとか、中耳炎や肺炎になったとか、脳炎で後遺症が残ったとか、亡くなったとかいう経験がなければ、ワクチンの必要性について十分な理解が得られにくくなります。だからこそ、世界保健機関をはじめとした公的機関は繰り返して情報を提供しているのです。

 他の国ではまだ麻疹の発生がみられ、海外から日本に持ち込まれることがあります。麻疹は感染力の高い疾患なので、ワクチンを接種していない人が多いところに持ち込まれると大流行してしまいます。よってワクチンを中止することはできません。世界中のすべての国で麻疹が排除できたときにはじめて、ワクチンを中止することができます。

 全世界では、いまでも年間に数万人もの人たちが麻疹で亡くなっています。麻疹をはじめとして、ワクチンで予防できる病気で苦しむ人たちがいなくなるよう、努力を続けることが医療者の責務だと考えています。

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<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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