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 前回は、「ADHDの人はうつ病になりやすい?」といったテーマで、大人のADHDとうつ病の関係について紹介しました。ADHDがベースにあると、その特性ゆえに二次的にうつや不安といった問題が生じやすいことをお伝えしました。今回は、大人のADHDの人が抱えやすいその他の問題について、海外の研究を交えて触れてみたいと思います。

対人関係の問題

 ADHDの方の多くは、社交的で、人当たりのよいことが知られています。

 初対面でも物おじせずに人と仲良くなれたり、子どものように無邪気で楽しい雰囲気なので、人が自然と集まってくるのです。

 ただ、中には、こうした社交性の反面、人間関係で悩みを持つ人もいるようです。

 「私が得意なのは、出会ってすぐのほんの数カ月だけ。ほんとの私を知るとみんな引いてしまって、離れていくんだ」

 と寂しそうにおっしゃる方もいらっしゃいます。

 そうなのです。人と関係を新しく作ることは得意でも、「継続」するのが難しいとおっしゃる方が多いのです。

 

 定期的に連絡をとりあうとか、同じ屋根の下で毎日の結婚生活を送るとか、まめに報告するとか、約束を忘れずに果たすといったことが人との信頼関係を築く要素のいくつかだとすれば、ADHDの人にとってこれらは苦手なことになるのです。

 コツコツと同じことを繰り返すことが苦手なADHDの人の多くにとって、対人関係を継続させるのは難しいようです。

 その結果、大人のADHDの人は離婚率が高く、友人、同僚、雇い主とうまくやっていくのが難しい(Weiss & Hechtman, 1993 ※10)と報告されています。

 異性のパートナーとの関係においては、離婚率だけでなく、こんな調査もあります。米国でADHDの子どもとそうでない子どもを青年期まで追跡したところ、ADHDの青年はそうでない青年と比べて早い時期に性交渉をもち、避妊せず、性感染症にかかる割合が4倍高く、女性では20歳までに妊娠する確率が10倍高いことが報告されています(Barkley et al,2006 ※1)。

 また、仕事面においては、ADHDの人は、特にチームプレーを求められて、皆が横一列になって足並みをそろえて動かなければならない職場は苦手な傾向があります。自分のペースで仕事ができないことは、卓越したひらめきと行動力のあるADHDの人の長所を生かせないのです。いわゆる「スタンドプレー」が求められる仕事の方が向いていると言えるでしょう。

 

依存性の問題

 大人のADHDの人(18歳以上)が、お酒や薬物などに依存してしまう「物質使用障害」を、15.2%という高い確率で併せ持っている(Kessler et al, 2006 ※7)ことも報告されています。これは、ADHDでない方の有病率の3倍にあたる割合でした。

 また、ADHDの人がネット依存になりやすいという報告もありました(Bielefeld et al, 2017 ※5)。ADHDの「過集中」という特徴からゲームやインターネットなどにのめり込んでしまうことも社会問題化しつつあります。

 

継続性の問題

 ADHDの方は、脳の報酬系とよばれるしくみに特徴があることが報告されています。ゲームのような新しくチャレンジングで結果が即座にフィードバックされるものには過度に集中する一方で、「卒業」や「資格取得」といった数年後のご褒美ではやる気を継続することができず、退学してしまったり途中で挫折してしまったりする人が多いことも知られています。

 

不注意、衝動性の問題

 また、金銭管理がうまくいかず、ついつい浪費してしまうというADHDの方は多くいらっしゃいます。これには衝動買いに代表されるような「衝動性」の高さがかかわっているようです。実際、私たちの行っている臨床研究に参加された大人のADHDの方の多くは、「時間管理の次は金銭管理のプログラムを作って欲しい」と希望されています。

 さらに、交通事故の多さも目立っています。これは脇見運転のような「不注意」の問題が関連していると言われています。向こう見ずな危険運転をする人もいるのかもしれませんが、多くの場合は、もしかすると、時間がぎりぎりで慌てることが多いために交通事故が引き起こされるのかもしれません。

 

 海外の調査研究では、他にもさまざまな問題が報告されています。ADHDの人はそうでない人と比較して、総じて次のような特徴が報告されているのです。

 学歴が低い▽就業率が低い▽給料が少ない▽転職の回数が多い▽仕事の評価でマイナス評価を受けやすい▽離婚率が高い▽人間関係の満足度が低い▽精神障害と物質使用のリスクが高い▽日常生活で必要なことを遂行する能力の問題を訴える割合が高い(Barkley, 2002 ※2; Barkley, Murphy, & Kwasnik, 1996 ※3; Biederman, 2005 ※4; Fischer et al., 2002 ※5; Murphy & Barkley, 1996 ※8; Rasmessen & Gillberg, 2000 ※9; Weiss & Hechtman, 1993 ※10)。

写真・図版

 このように、大人のADHDの方々は、学業、仕事、家庭、友人関係、異性関係などさまざまな側面で困難を抱えがちであることがおわかりいただけたかと思います。ネガティブなデータばかりを並べてしまって、お気を悪くされた方もいらっしゃるかもしれません。そのようなリスクを冒しても今回執筆したのは、もしこのようなことでお困りの方がいらっしゃって、それがもしADHDの特性から引き起こされていることを知らないまま、自分を責めていらっしゃるのだとしたら、何か解決のヒントになればと思い、書き進めた次第です。

 実際に、ADHDの方でギャンブルがやめられず、子育てや家事を放棄しがちになることで自分を責めている母親が、自身のADHDの特性を理解して、服薬したり、自分のやる気を引き出す環境設定をしたり、ギャンブルとのつき合い方を学ぶ中で、徐々に生活を立て直していった例もあります。自分の特性がわかれば、自分とのつき合い方がわかり、問題行動に対処しやすくなるのです。

 

 このコラムでは、仕事でミスばかりつづき、友人や恋人との関係もうまくいかず、「生きるのがつらい」と感じている架空の女性・リョウさん(30代前半・独り暮らし)をモデルに、大人のADHDの方がかかえる問題との付き合い方を紹介しています。悩める皆様のヒントになれば幸いです。

 

<リョウさんの関連記事>

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<引用文献>(本文中の※と対応)

1)Barkley et al. 2006 Young Adult Outcome of Hyperactive Children: Adaptive Functioning in Major Life Activities. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 45(2), 192-202.

2)Barkley, R. A. (2002). Major life activity and health outcomes associated with attention-defecit/hyperactivity disorder. Journal of Clinical Psychiatry, 63(Suppl. 12), 10-15.

3)Barkley, R. A., Muphy, K. R., & Kwasnik, D. (1996). Motor vehicle driving competencies and risks in teens and young adults with attention defecit hyperactivity disorder. Pediatrics, 98, 1089-1095.

4)Biederman, J. (2005).Attention-deficit/hyperactivity disorder : A selective overview. Biological Psychiatry, 57, 1215-1220.

5)Bielefeld, M., Drews, M., Putzig, I., Bottel, L., Steinbuchel, T., Dieris-Hirche, J., Szycik, G. R., Muller, A., Roy, M., Ohlmeier, M. and Theodor to Wildt, B. (2017). Comordity of internet use disorder and attention deficit hyperactivity disorder. Two adult case-control studies. Journal of Behavioral Addictions, 6(4), 490-504.

6)Fischer, M., Barkley, R. A., Smallish, L., & Fletcher, K. (2002). Young adult follow-up of hyperactive children: Self-reported psychiatric disorders, comorbidity, and the role of childhood conduct problems and teen CD. Journal of Abnormal Child Psychology, 30, 463-475.

7)Kessler et al. 2006 The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States: Result from the national comorbidity survey replication. American Journal of Psychiatry, 164, 716-723.

8)Muphy, K. R., & Barkley, R. A. (1996). Attention deficit hyperactivity disorder adults: Comorbities and adaptive imparimentos. Compre-hensive Psychiatry, 37, 393-401.

9)Rasmussen, P., & Gillberg, C. (2000). Natural outcome of ADHD with developmental coordination dieorder at age 22 years: A controlled, longitudinal, community-based sample. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 39, 1424-1431.

10)Weiss, G., & Hechtman, L. T. (1993). Hyperactive children groen up (2 ed.). New York: Guilford.

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。