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患者安全を求めて 「母子安全」に必要な、産科医療機関の選び方(上)

 産科の重篤な医療事故の報道は後を絶ちません。しかも、報道されているのは、いずれも被害者や遺族が社会に向けて声をあげた事例ばかりで、それらは氷山の一角だと考えられます。背景には、「陣痛促進剤」「無痛分娩」などの特定の薬や手技のリスクや、事故を漫然と繰り返している「リピーター医師」の存在などが指摘されています。それでは、妊娠がわかった場合、産科医療機関をどのように選べば良いでしょうか?どのような点に注意してお産に臨めば良いでしょうか?

母子の安全について家族も考えよう

 出産で最も大切なことは「母子の安全」です。しかし、「母子の安全」のためには、「事故の発生」を想定する必要があり、それは、重度の脳性麻痺、死産、子宮破裂、母体死亡などに至るような、大きな不安も伴うものでもあります。もちろん、その不安をできる限り解消するために適切な情報収集が必要なのですが、妊娠中の母親の多くは、自らの精神衛生を良くするためにも、そのようなネガティブなことは考えないようにしようとするのも無理もないことだと思います。

 それだけに、「母子の安全」のための情報収集と適切な判断のためには、夫や親など家族の支援が欠かせません。特に、分娩が始まれば、母子は「まな板の鯉」の状態になります。例えば、子どもの交通事故をできるだけ避けるためには、これまでに起こった多くの事故から学んでおくことや、どのような点に注意しどのようなルートを選択するのが良いかを家族で検討することが大切であることと同様、産科の医療事故をできるだけ避けるためにも、妊娠中の母親だけでなく、ぜひ、家族も一緒に考えてほしいと思います。

病院・診療所・助産所の違い

 現在の日本の赤ちゃんの99%以上が、病院または診療所で生まれています。病院と診療所の違いは、ベッドの数が20以上あるかどうかです。ベッドの数が19以下や入院のためのベッドのない医療機関が診療所で、クリニックと呼ばれています。一方、助産所は、投薬や手術などの医療行為をしないところです。

 長年、日本の赤ちゃんは、約半分が病院で、約半分が診療所で、1%が助産所で生まれていると言われてきました。しかし、下表の通り、病院での出生数の方が診療所よりもやや多くなっています。今から10年ほど前に病院と診療所の差は最も小さくなりましたが、また、近年は、10ポイントほど、病院での出生する割合が診療所を上回っています。また、助産所での出生数は、ずっと1%前後でしたが、10年ほど前からさらに減少に転じ、0.6%ほどにまで下がってきています。

診療所でのお産のリスクを訴えたロシア人医師

 診療所には医師が一人しかいない、ということが一般的です。京都府の産婦人科医院で2012年、無痛分娩で生まれた女児とその母親が、麻酔の影響で重い障害を負った事故がありました。出産した女性の母親はロシア人で、本国では医師として働いていたといいます。彼女は、日本の産科医療体制の改善を求める文書を公開し、「出産は複数の医者がいる体制のところでしてください」「妊娠している女性たちに、一人の産婦人科医しか働いていない個人医院で出産することの危険性を警告したい。救急時に対応できる医師や新生児科の医師がいて、さらに複数の産婦人科医がいるところで出産すべきです」などと訴えています。

 実際、欧米ではたいてい、日本の診療所にあたるような医療機関では、妊娠中の検診や術後のケアを担当し、出産時は、医師も一緒に大きな病院に行って分娩を行う(オープンシステムといいます)ことが一般的なのです。

 出産は「母子」という二人の命を預かります。母親が大量出血するかも知れません。赤ちゃんに蘇生処置が必要になるかも知れません。診療所という、一人の医師しかいないかも知れない小さな施設で、それらが同時に起こったら十分な対応はできないでしょう。また、緊急事態で1分1秒を争う時間との闘いになっても、診療所では、集中治療ができる大きな病院に転送しなければならず、そのために取り返しのつかない多くの時間が費やされてしまうことになります。娘と孫が被害に遭ったロシア人医師は、そのことを訴えているのです。

病院でも重篤な事故

 ロシア人の母子の事故と同様に、昨年は神戸の病院の事故も大きく報道されました。さらに、大学病院でも事故は起こっています。無痛分娩を大きく宣伝している東京都内の大学病院で、無痛分娩での出産を予約した女性に、病院は説明のないままに陣痛促進剤を連続投与し、子宮破裂となって胎児は死産しました。報道によれば、その後、女性は子宮を全摘され、妊娠できない状態になったということです。

 京都の診療所、神戸の病院、東京の大学病院、と昨年報道された3つの医療機関の例を紹介しましたが、報道されているのは、全て、被害者や家族が、再発防止を求めて訴えたケースだけです。被害者や家族が訴えを起こすまでには多くのハードルがあり、まさにこれらは氷山の一角だと考えられます。上記の医療機関ではさらに多くの事故が起こっている可能性がありますし、実際に、京都の診療所では、3件の重篤な事故が報道されました。

不必要な医療はできるだけ避けよう

 では、これらの医療機関を避ければ、安全性は高まるのでしょうか?

 もちろん、事故を漫然と繰り返しているような医療機関は避けるべきですが、医療事故が起こっていない医療機関はないでしょう。上記の医療機関の全てで共通していることは、麻酔薬による無痛分娩で、かつ、陣痛促進剤(子宮収縮薬)が投与されているということです。これらは、本来、不必要で、かつ、リスクの高い医療行為です。

 従って、母子の安全のためには、不必要な医療行為をできるだけ避けるということが大切だと思います。しかし、日本の出産では多くの妊婦が知らされないまま、または、リスクなどの説明が十分になされないまま、陣痛促進剤が使用されているという実態があります。

新技術、不慣れな医師が事故引き起こす?

 産科の無痛分娩は、歯科のインプラント、眼科のレーシック、外科の腹腔鏡手術などとよく似た面があるように感じます。急な流行で持てはやされると、患者を得るために新たな技術を取り入れて、それを宣伝に利用する医療機関が出てきます。しかし、医師は当初、不慣れだし、十分な研修等を受けなくても実施できてしまうので、事故が発生しやすくなります。そして、被害者の誰かが声をあげるまで、事故が繰り返されてしまうような状況に陥ってしまうのが最悪のパターンです。

 母子の安全のための医療機関の選択で大切なことは、事故の発生率と、事故の再発防止策がきちんととられているか、ということです。しかし、それらは明らかにされていません。

 では、医療機関の違い、事故の原因や背景を理解した上で、具体的にどうすればよいでしょうか?

(『「母子の安全」のための産科医療機関の選び方』は次回に続きます。)

<アピタル:患者安全を求めて>

http://www.asahi.com/apital/column/anzen/(アピタル・勝村久司)

アピタル・勝村久司

アピタル・勝村久司(かつむら・ひさし) 医療情報の公開・開示を求める市民の会 世話人

京都教育大学理学科卒。高校教師。長女の医療事故をきっかけに市民運動に関わる。厚生労働省「中央社会保険医療協議会」、群馬大学病院「医療事故調査委員会」などの委員を歴任。現在、産科医療補償制度「再発防止委員会」委員。著書に「ぼくの『星の王子さま』へ~医療裁判10年の記録~」(幻冬舎)など。