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 このコラムでは、医療や介護にたずさわる方々に向けて、アンガーマネジメントを紹介しています。前回から、介護している人が心身の健康を保つために、自分自身をケアするヒントをお伝えしています。

 

 前回は高齢者虐待の現状と、高齢者を介護している人が、怒りの感情をコントロールし、自分自身でストレスマネジメントをできるようにサポートしていくことが求められているという話をしました。

 日本の2017(平成29)年10月1日現在の総人口は1億2670万6千人で、このうち65歳以上人口は3515万2千人。高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は27.7%で、2015年には30%に達するといわれています。多くの家族にとって介護は身近になっているのです。

 

 さて、介護の対象は高齢者とは限りません。人は誰でも、別の誰かの手を借り、支えられながら生きています。小さな子どももそうですし、なかには、病気や障害などによって、介護や医療・福祉の支援を受けたり、少し多くの手助けを必要としたりする人がいます。常に医療的なケアを要する重度の障害の人もいれば、見た目にはわからないような病気や障害を抱えている人もいます。そして、そうした人を支えている家族もいます。

 病気や障害の内容・程度や、その人との関係性によって、介護する人が抱える心身の負担や悩みは様々です。例えば、重度の障害をもった子どもが生まれた親ならば、自分の子どもへの介護が24時間365日、何年、何十年と続くのです。身体的にも疲労しますし、自分が年老いて身体を悪くしたり亡くなったりしたら、その後は誰が子どもの面倒をみてくれるのかという心配もあります。

 障害をもつ子のきょうだいならば、子どもの頃から一緒に育った自分が、いずれ介護を引き受けるという定めが待っているかもしれません。そこには親の介護とはまた違った負担や悩みがあって、にもかかわらずそうした悩みがなかなか世間一般に理解してもらえなかったり、サポートが得にくい状況もあったりします。

 若い夫婦に突然の病気や障害がふりかかり、配偶者の介護が必要になったら、人生設計が変わってしまうこともあります。

 

 私は看護師として、これまで障害をもつ人の親やきょうだいなど様々な家族の話をうかがってきました。ここでは個別のことは書きませんが、立場は違ってもみなさんが同じように口にしていたことがあります。それは、「自分を生んでくれた親だから」「私が生んだ子どもだから」「妹だから」「兄だから」あるいは「(義父母を含め)家族だから」……、だから娘として、息子として、きょうだいとして、親として、嫁として「私がやらなくては」「私がやるしかない」といった言葉です。

 たしかに家族のつながりは簡単に切れるものではありませんが、自分がやらなくてはいけない、完璧にこなさなくてはいけない、という思いが強すぎると、自分で自分を追い詰めてしまうことになりかねません。がんばり過ぎてそれ以上がんばれなくなったり、怒りっぽくなって穏やかに対応できなかったり、怒ったあとで自己嫌悪に陥ったり、介護に燃え尽きてしまうかもしれません。

 

 介護が大変な状況のなかでも自身の心身の健康を保っている人もいます。

 同居していても適度な距離感を保ち、上手に人に助けを求められることは大事なスキルなのだと思います。

 「私がやらなければいけない」「私しかいない」というのは自分の思い込みかもしれませんよ。

 「こうしなければならない」という考えに縛られて自分を追い詰めてしまいそうになったら、このような自分の思い込みをそっと手放してみてください。

 

「私」でなくてもできることがあるし、完璧にこなさなければいけないわけではないし、助けてくれる誰かがきっといます。

 介護の負担を軽くするための情報やサービスを教えてくれる人や、話を聞いてくれる人や心身の健康を心配してくれる人がいます。

 思い込みが強くなりすぎると ほかの意見を受け入れ難くなってしまうかもしれませんが、自分の思い込みに気づき、ほかの意見に耳を傾けてみると少し心の負担を軽くできるかもしれません。

 

▽総務省統計局:人口推計の結果の概要 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html#monthly別ウインドウで開きます

 

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◆編集部から

<田辺有理子さんの本が出版されました>

 タイトルは「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規、2160円)です。(詳しくはアマゾン:https://goo.gl/sxK6md別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。