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 腎臓が尿をつくる臓器であることは広く知られています。けれども、それだけが腎臓の機能ではありません。腎臓が内分泌臓器、つまりホルモンをつくっている臓器でもあることをご存知でしょうか。ホルモンと言っても焼肉じゃないですよ。体内のさまざまな活動を調節する生理活性物質のことです。

 たとえば腎臓が分泌する「レニン」というホルモンは血圧を上げる作用を持ちます。たいへんまれな病気ですが、レニンを産生する腫瘍が腎臓にできることがあります。腫瘍が分泌するレニンのせいで血圧がすごく高くなりますが、手術で腫瘍を切除してしまえば血圧は正常に戻ります。また、レニンが血圧を上げる一連のメカニズムを阻害することで血圧を下げる薬もあります。

 やはり腎臓が分泌する「エリスロポエチン」というホルモンは骨髄の造血細胞に作用して赤血球をつくらせます。「腎性貧血」といって慢性腎不全の患者さんは腎臓が分泌するエリスロポエチンが不足するため貧血になりますが、人工的に合成したエリスロポエチンを投与することで治療できます。

 アスリートが空気の薄い高地でトレーニングすると赤血球が増えますが、これは腎臓が体の酸素不足を感知してエリスロポエチンを分泌するからです。エリスロポエチンはドーピングにも使用されました。つらい高地トレーニングをしなくても、エリスロポエチンを打つだけで赤血球は増えます。合成されたエリスロポエチンは、腎臓で分泌された自前のエリスロポエチンとわずかに違うため、検査すればわかるそうです。

 こうしたことは医学部の講義で習うのですが、尿をつくる臓器がなんでこんな造血にかかわるホルモンをつくるのか、常々不思議に思っていました。血圧を調節するホルモンのレニンはわからないでもありません。腎臓が尿をつくるときに体内のナトリウムや水分を調節することで血圧に作用するからです。でも、造血作用を持つエリスロポエチンって、何か腎臓に関係あるの? 血をつくるのは骨髄の仕事だろ?

 調べてみると、魚類では腎臓で造血していることを知りました。私たちの遠い遠いご先祖さまは、腎臓で血をつくっていたのです。ならば造血をコントロールする生理活性物質が腎臓から分泌されることも合理的です。進化の過程で造血の場が骨髄に移動しても、エリスロポエチンは腎臓から分泌され続けたのでしょう。ではなぜ陸に上がった脊椎動物は骨で血を造るようになったのか? 不思議ですね。

 医学は実学であり、病気を治して人々を幸福にすることが第一の目的ですが、たまにこうした興味深い考え方に触れることができるのも魅力の一つです。

《酒井健司さんの連載が本になりました》

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<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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