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 みなさんが健康食品を利用する目的には、「機能性(有効性・効き目)」が最も多いという調査を前回の記事で紹介しました。そのニーズを意識してなのか、健康食品の宣伝・広告には、「効き目」をイメージさせるような表現が多く使われています。そのイメージ戦略には、いろいろな問題点が隠れています。今回は、健康食品でよくみかける宣伝・広告の表現を深読みしてみたいと思います。

 

◯×クイズ: 私に効いた健康食品は、他の人にも効く
(※答えは本文中にあります)

▼健康食品の機能性(有効性・効き目)の裏付けを科学的根拠(エビデンス)という

▼エビデンスで重要なのは再現性・普遍性が担保されていること

▼「経験談・体験談」「権威者の意見」「実験室の研究」は信頼性が低い情報

 ここから紹介するのは、筆者が講義や講演会などでクイズとして使っているスライドです。

誰かの経験談「思い出しバイアス」の可能性

 まずは、「経験談・体験談」です。膝(ひざ)が痛いという女性に、もう1人の女性が「このグルコサミンがお薦めよ」と言います。

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 さて、この情報は信頼できますか? 行為や行動そのものの是非ではなく、赤字になっている部分の「情報としての信頼性」が「高い」か「低い」か考えてみてください。(※1)

 人は過去の記憶を正確に覚えているでしょうか。ともすると、人は都合の良いことばかりを覚えていて、ときに記憶をすり替えてしまいます。これを専門用語で「思い出しバイアス(偏り)」といいます。

 「飲んだ、治った、だから効いた」という三つの「た」が続く「3た」論法にも注意が必要です。その健康食品を利用したら、たまたま同じタイミングで症状が改善したのだとしたら? 人は、偶然起こった現象を、原因と結果という因果関係に結びつけてとらえてしまう傾向があります。

「効く」と言うにはエビデンスが必要

 健康食品に限らず医薬品でも、ある症状や病態に「効く」と言うためには、裏付けとなる根拠が必要です。これを専門用語で科学的根拠(エビデンス)と呼びます。

 科学的根拠では、「科学」という言葉が示す意義の一つ「再現性」が重要になります。再現性とは、それが常に誰にでも再現できることです。逆に、科学的な視点から見ると、再現できないことは根拠として弱くなります。

 では、健康食品の宣伝・広告でよくみかける表現やデータで、この「再現性」が保証されているでしょうか。これは言い換えると、その表現やデータが、「情報として正確か」「信頼性が担保されているか」を見極めることにもつながります。

 そこで今回は、冒頭でご紹介した利用者の声といった「経験談・体験談」、白衣を着た医師あるいは研究者が製品の素晴らしさを主張する「権威者の意見」、細胞実験や動物実験などの「実験室の研究結果」について、自分にも同じような結果がおこるかどうかといった「再現性」や、他の人にも当てはめることができるのかといった「普遍性」を、科学的視点から判定してみたいと思います。

医者が言っていることは全て真実か?

 つぎに、「権威者の意見」です。白衣を着た人が「膝の痛みはグルコサミンで解消!」と言います。

写真・図版

 

 権威者も人間ですから、経験談・体験談と同様に「思い出しバイアス」の可能性があります。

 さらに気をつけたいのは、「利益相反」の問題です。

 もしかすると、このサプリメントの権威は、会社から多額の出演料をこっそり受け取っているかもしれません。そうなると、都合の良い情報だけを表に出し、都合の悪い情報を隠すといった情報の偏りが生じている可能性が否定しきれません。

 ※「利益相反」に関する詳しい解説は過去の記事も参考にしてください。

「権威やブランドがもたらす隠れた効果」(https://www.asahi.com/articles/SDI201708081324.html

動物に効いたら、人にも効く?

 最後は、「実験室の研究結果」です。「マウスの実験で、関節炎が改善」。なんとなく自分も使ってみようかな、という気がしませんか?

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 医学研究の細胞・動物実験は、必要不可欠で重要なことは間違いありませんが、そこで効果があったからといって、人で効果があるとは限りません。

 少し古いデータですが、経済産業省技術戦略マップ2009「バイオテクノロジー:創薬・診断分野」(※2)という資料によると、薬の候補となる物質が見つかって、本当に薬になる確率は、約2万分の1とされています。

 ここまでの内容を整理すると、「経験談・体験談」「権威者の意見」「実験室の研究結果」は、科学的視点から評価すると、バイアスや偶然が入り込む余地が残っており、再現性や普遍性は低くなります。つまり、情報としての信頼性も低く見積もる必要が出てきます。

 これらのことから、冒頭でご紹介したクイズの答えは「×」になります。

 

クイズの答え:私に効いた健康食品は、他の人に効くかどうか分からない

情報には信頼性の高いものと低いものがある

 では、信頼性の高い情報とは、どのようなものでしょうか。

 医学・医療の領域では、情報の信頼性を判断する基準として、どのような方法で検証された情報なのかを確認しています。情報の信頼性が高いものから順番に並べたものが以下の表です。

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 それぞれの研究がどんなものかは、「健康・医療情報との「向き合い方」を考える」(https://www.asahi.com/articles/SDI201712068659.html)で詳しく説明しています。

 次回は、健康食品が「効く」と言うためには、どのような裏付け(エビデンス・科学的根拠)が必要なのか、国のルールも含めて解説します。

(※1)今回紹介するネタは、以前シリーズで解説した「健康・医療情報の見極め方」でも取り上げましたが、重要な点なので、繰り返し紹介します。

(※2)<参考資料>経済産業省技術戦略マップ2009「バイオテクノロジー:創薬・診断分野」 (http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/str2009/4_1.pdf)別ウインドウで開きます

<アピタル:これって効きますか?・健康食品、どう向き合う?>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。