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 個人モデル、社会モデルという言葉を皆さんは聞いたことがありますか?

 個人モデルは、病気になったのは、「病気や障害など、困難に直面するのは個人に課題があり、自己責任で解決すべき」という考え方のことをいいます。後者の社会モデルは、「社会のあり方が障害を生み出しており、解決は社会の責務」だとする考え方です。国連の「障害者権利条約」も、こうした考え方に立脚しています

・病気は自己責任、自己努力で解決するのが個人モデル

・周囲の人が、手や知恵を出し合うのが社会モデル

・高齢社会は成熟社会へ

1.個人モデルと社会モデル

 個人モデルは、例えば、歩道に段差があり、車いすで段差が上がれないのは足が悪いというあなた個人の責任だから、あなたが頑張って段差を超える努力をしなさいというものです。一方で、社会モデルは、例えば、段差があって建物の中に入れないのは、そもそも段差を解消しようとしない所有者の責任や助けようとしない周囲の人にも責任があるのだから、みんなで一緒になって段差を超えるために協力をしましょうという考え方です。もしくは、エレベーターを設置してみんなが利用できるようにしましょうというものです。

 個人モデルは「医学モデル」とも呼ばれています。医学の世界では、病名を診断して、「悪い部分を治す」ということが基本だからです。医学では大切なことですが、現実社会の中で生きていくためには、みんなが手をとりあって「お互いさま」と思えるような「社会モデル」を作る、つまり、「成熟社会」に向かっていくことが大切です。

 

2.頼る勇気と、頼られる準備

 実は、3月末に、初めて単著で書籍をだしました。「あのひとががんになったら(中央公論社)」というタイトルの本です。

 本を書きませんかという相談は以前から頂いたことはあったのですが、いわゆる「闘病記」のようなものは自分らしくないですし、ブログなどでもうすでに書いています。そこで、これまでは「一人の経験値」ではなく、患者仲間と複数で経験を伝えたいと、共著で「希望の言葉を贈りあおう」「がんと一緒に働こう」、「がん患者のための就活ブック」などを出版し、その時々の社会に必要だと思われる情報提供を行ってきました。

 

 では、どうして単著で書く気になったかというと、たくさんの方から、「職場の同僚ががんになったのだけど、どのように接したらよいかわからない」という相談がとても多いからです。

 「がん患者、家族のために、何かできることがあればしたい」という気持ちに対して、患者はこんな気持ちになっていることが多いから、こんなコミュニケーションを心がけてもらえるとうれしいという、ちょっとした配慮のポイントがあります。それを整理した「患者さんの取り扱い説明書」を書ければ、周囲にいる人は遠巻きに心配するのではなく、少しだけ近づいてもらえるのではないかなと思ったのです。幸い、書籍を読んだ人からは「患者、家族、配偶者、同僚、いろいろな立場から読んでいます」「自分も経験者で共感する事柄がたくさんあった。繰り返し読んで、そのときの心構えにしたいと思います」といった声を頂いており、企画した本人としては感謝の気持ちとともに「今度はそれを実行してください」と伝えるのみなのです。

 必要なのは、配慮してほしいことがあればそれを伝える「頼る勇気」と、常日頃から病気はお互い様と言えるような社内風土を作っていく「頼られる準備」。がんと就労でも、「当事者だけが頑張る」のではなく「当事者を応援するチームを作る」、つまり「がんと就労をきっかけとした社会モデル」を作ることにつながらないかと思い、書籍をまとめることにしました。

 

3.周囲がどう合理的配慮をするのかが社会的モデル

 

 2016年4月1日から、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称、「障害者差別解消法」)が施行されました。この法の中で行政機関や事業者には、障害のある人に対する「合理的配慮」を可能な限り提供することが求められるようになりました。

 まだまだ日本の中では「生きづらさ」を感じている人がたくさんいます。人はそれぞれに良いところも悪いところもあります。目に見える病気や見えない病気を持っている人もいるでしょう。そんな「生きづらさ」を和らげていくために、お互いが対話をしながら「配慮」を決めていくことを「合理的配慮」と言います。

 たとえ障害のある方であっても、適切な配慮を受けることができれば、自分の力をより発揮しやすくなり、日常生活や社会生活を営むことが出来るようになります。

 今後、雇用年齢の長期化により、働きながら何かの病気をもちつつ働く人はみなさんの周りに増えてきます。そして、近い将来、それが当たり前のものになっていきます。

 春、新しいスーツに身を包んだ新入社員の皆さん、そして、就職活動中の皆さん。これからどのような働き方をするのか、どのような人と出会っていくのか分かりません。でも、もし「生きづらさ」を感じている人に気がついたら、どうか配慮が必要か声をかけて、一緒に生きやすい社会をつくっていきましょう。一方的な思いからの過剰な配慮は不要、対話を心がけてください。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。

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