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 スマートフォンが、安全登山や山の遭難救助で大きな威力を発揮することをご存じですか? ユーザーが全国で最も多い登山地図用アプリ「YAMAP(ヤマップ)」は、電波の届かない山の中でも、スマホのGPS(全地球測位システム)を利用して自分の位置が確認でき、登山中の行動記録も残せるスグレものです。無料でサービスが利用できるので、本格的な登山シーズンに備えて、ぜひ利用してほしいと思います。

 警察庁によると、全国の山岳遭難は増加傾向にあり、2015年に遭難者数が史上初めて3000人を超え、3043人にのぼりました。2016年も2929人と深刻な数字でした。態様別(遭難の状況)では、驚くことに1位は「道迷い」で38・1%を占め、2位の「滑落」の17%を大きく引き離しています。この傾向は、例年、続いています。

 つまり、山の中で「自分がどこにいるのか、わからない」ことが、遭難につながっているのです。登山初心者だと、「地図が読めない」「コンパス(磁石)が使えない」など、登山の基本的な知識がないことが、遭難を引き起こしているのです。

 道迷いのやっかいなことは、遭難者自身が自分のいる場所を理解できず、携帯電話で救助要請をしても、遭難場所を伝えられないことです。以前、長野や岐阜の県警救助隊などに取材した際、「はっきりした遭難場所がわからないと、ヘリコプターで上空から遭難者を見つけ出すのはかなり厳しい」と聞きました。しかし、ヘリにはGPSが積んであり、緯度、経度がわかれば、迅速な救助活動ができるそうです。

 ヤマップは、スマホに内蔵されたGPS機能を使い、あらかじめダウンロードした地図上に現在地が示されます。人工衛星の電波が受信できればよいため、携帯電話の電波が届かない「圏外」でも、位置がわかるのです。3万円~10万円ほどする登山用の専用GPS機器を購入しなくとも、スマホを持っている登山者なら、このサービスが利用できるのです。

 ヤマップを開発したのは、福岡市でベンチャー企業「ヤマップ」を経営する春山慶彦さん(37)です。2013年にサービスを開始し、現在は日本百名山をはじめ、全国3000カ所以上の主要な山と地域の地図を無料提供しています。これまでに約82万人がアプリをダウンロードし、国内最大級となるアウトドアのコミュニティープラットホームに成長しました。公益財団法人日本デザイン振興会が運営する、2014年度の「グッドデザイン・ものづくりデザイン賞」を受賞するなど、技術が高く評価されています。

 春山さんが登山アプリを思いついたのは、米アラスカ州での体験が原点です。2006~2007年、アラスカ州立大フェアバンクス校の野生動物管理学部に留学した際、先住民族のイヌイットの集落に何度も住み込んで野外調査をしました。アザラシ猟に同行した際、年老いた猟師の手にGPSの端末が握られているのに気付きました。「海が荒れても、宇宙の視点で自分の位置がわかれば家に帰れる。便利な道具を使わない手はないだろう」。極北の地で、最新技術が命を守ってくれたのです。

 直接的なヒントは、2011年、大分県の九重連山を登っているときでした。スマホでグーグルマップを開いたら、真っ白い地図に自分の位置を示す点だけが表示されていました。「電波が届かないから見られないんだな」と思い、しばらく歩いて再びスマホを開くと、現在地を示す点だけが移動していました。ここでハッと気付きました。「位置情報はGPS衛星から拾っているので、携帯電話の電波が届かなくても生きているんだ!」

 「山でスマホが使える仕組みが出来れば、安全登山に必ず役立つはず」。すぐに基本的な構想をまとめ、アプリの開発を手がけました。そして、生まれ育った福岡で起業にこぎつけたのです。

 ヤマップが人気を集めているもう一つの理由は、会員同士で登山ルートや情報交換が出来るSNS機能を持たせたことです。春山さんは「登山は『共生』の文化があるアクティビティー。SNSとの相性が良かった」と言います。

 ヤマップ上では、「登山口付近は凍結のためスタッドレスタイヤが必要」「登山道が荒れているから注意して」などの情報が掲示されます。登山に必要な装備なども紹介されます。大学山岳部や社会人山岳会に属さない未組織登山者が増えている中、助け合いの文化がアプリによって引き継がれているのです。

 スマホを持っている登山者なら、ヤマップは手軽に利用できます。スマホで「YAMAP」を検索し、ヤマップアプリをインストールします。この後、無料会員登録をします。登録後、利用したい地図をダウンロードし、登山に持参するため地図を印刷します。日程や装備、食料などの登山計画を立てます。入山時に、ヤマップアプリを起動し、スタートボタンを押すと、利用者が歩いた軌跡や活動時間が記録されます。下山後は、「活動日記」の編集が可能で、写真を追加することもできます。「公開」のボタンを押すと、他のユーザーが閲覧・コメントができ、登山の経験と情報を広く共有できます。

 4月中旬、春山さんは都内で記者会見を開きました。会見では、アウトドア用品店の最大手「ICI石井スポーツ」など計14社を引受先とする総額12億円の第三者割当増資を実施したことを発表しました。金額は明らかにされませんでしたが、最も多額の出資者は石井スポーツです。登山界で、アプリ最大手のヤマップと小売最王手の石井スポーツが連携することにより、共同イベントを実施するなど新しいアウトドアスポーツの楽しみ方を提案することが可能になりました。

 春山さんは「ヤマップは、登山が『危ない』『ハード』といった従来のイメージを、『楽しい』『健康的』に変えていくため、新しい文脈で登山をアップデートしていきます。石井スポーツとの連携で、登山のすそ野を広げていきたい」と抱負を語りました。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。